次はもっと大事にして「さ、お手をどうぞ? お嬢さん」
言いながら差し出された手を取るか否か、ベレスはわずかの間に逡巡した。手を見つめたまま、馬車から中途半端に片足を踏み出そうとしたまま固まった彼女に、先を促す意味でもシルヴァンは小首を傾げた。
「いや、……ありがとう」
ベレスは彼が出したてのひらに、そっと自分の手を重ねた。ほとんど添えるだけの力で握られたのを合図に、ベレスは高価なドレスの裾を裂いてしまうことがないように、反対側の手で裾を持ち上げて、薄く雪の降り積もるゴーティエ領に足を下ろした。
王国の最北地であるゴーティエ領では、その雪深さから社交界の季節も早く終わる。他の地方では、ガルグ=マクの落成記念日がフォドラ各地で行われるその年の舞踏会の季節の最後を飾るが、その日まで待ってしまうと雪が全てを覆ってしまうのだ。
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