留守電が入っていたから嬉々としてかけ直すっちゃんサイドキックになってからはや数年。今回は大捕物だとやけにはりきる先輩は避難誘導くらいしかできなかったことにしょげていたけど、同じメンバーにあのダイナマがいるんだから無理だろと内心呆れた。
大・爆・殺・神ダイナマイト。学生時代から既に頭角を現していた彼は、俺の三歳年下だ。だが検挙数は俺と先輩と合わせても勝てないどころかトリプルスコアレベルで負けている。あの強個性とセンスの良さ、そして何より度胸がある。あれは強いし勝てる気がしない。
「……〜、〜〜」
「ん?」
後片付けの休憩で一服しようと喫煙所を探して歩いていたら、喫煙所の少し手前の路地裏から話し声が聞こえてきた。こんなところで何をしているのかと興味をひかれ、何の躊躇いもなくそこを覗いた。
バッと勢いよく身を引く。静かに息を整えてからもう一度覗く。やはりそこにはダイナマがいた。
「あ? ……ああ。つーか見てたなら知っとんだろ? ……ハッ、当たり前」
アイマスクを額まで上げたダイナマがスマホを耳に当てて話している。俺が休憩中なのだからあっちも休憩中なのだろうが、休憩の合間に電話するタイプには見えなかったので意外だ。
「わーっとる。……へーへー、ワカリマシタ」
テキトーにも聞こえる相槌は気心が知れた相手だからこそのものなのだろう。そんな軽口を叩くとなると、同窓生だというヒーローの誰かだろうか。あのおっかないダイナマが多少荒くはあるけど雑談をしていたのを見たことがある。と思ったけど、同窓生と話す様子ともまた違う。なんというか、こしょばゆいのだ。
「……ふっ、……あ? 笑ってねえよ」
いや笑ったろ。見たことがないくらい穏やかな顔で笑ったろ。そう内心ツッコむ。それにしても、意外すぎる。お前、笑えたんか……なんて思うくらいイメージじゃない微笑みを浮かべている。
「……へぇ? ……おー、じゃあ楽しみにしとくわ」
「おーい! そろそろ休憩終わるぞー!」
遠くから先輩の声が聞こえてドキーンとした。先輩は空気を読めないところがあるから、今ここに先輩がいたなら大声で俺を呼んでいたことだろう。その暁には思いっきり叩いていたに違いない。
「聞こえた通りだわ。……ン、わーった」
ダイナマが通話を終えたようなので慌てて戻る。俺を探していた先輩と合流すれば落ち着いてきて、何事もなかったような顔をできる。このまま各々持ち場につくだろうから、この記憶は俺の中に留めておけば。
「盗み聞きはよくねーっスよ? センパイ」
背後から聞こえてきた低い声にゾワワワと鳥肌が立つ。バッと勢いよく振り返ると、そこには背を向けて歩いていくダイナマの姿。しばらく鳥肌が止まらなかった俺は、先輩に「どした? 風邪ひいたか?」と心配された。