[ミマモ]いつかちゃんとした手紙を…… ブレラが、フルシュポスケの奥地にある赤ずきんの絵へ遊びに来ていた日のことだった。
ブレラがこの家にある絵本を読んでいた横で、現在この家に住み続けているキュオーンは文字を書く練習をしていた。
最近のキュオーンはよく、文字を練習するようになっており、貰ったノートにひらがなや、時折カタカナや漢字を書いたりしていた。
「あれ? 絵本が増えてるのだ?」
一旦ブレラが本棚を見ていたようだったが、そこで何か変化に気が付いたようだ。
「ああ、確かに増えてるな」
キュオーンはそれに反応してボソッと言った。
「いいって言ったのに、ロージィのやつがぼくにプレゼントだって送ってきたきたんだ」
「へー、おもしろいのだ?」
「……なんというか、ロージィの国の話ってずいぶんとかなしい話が多いな。正直あいつがいるような国だからおばけの話が多いイメージだったんだが」
クラールハイト。
キュオーンにとっては、ただ寒くずっと夜な国とした聞いたことがなかった。
あの国にはロージィのような亡霊が、そんなに珍しくないらしい。
「ふむふむ、なるほどなのだ……あれ? でもこれは、ゴルトオールでも見た絵本なのだ」
ちらっと見ると、ブレラが「さばくでひとりぼっちのきし」という絵本を持っていた。
「……それは僕が買ったやつだ、悪いか?」
キュオーンは少し恥ずかしそうに、ブレラの顔から少し視線を逸らして言った。
「悪いかよ、たまにぼくだって興味をもつことはあるんだ」
「いや、悪いってことはないのだ。そういえばキュオーンは絵本が好きなのだ?」
「別にそうでもない。元々この棚にあった絵本はシュトラールがのこしていったものだよ。元々村の人に勉強させるためだとかいってたな……あとぼくにも、これで勉強でもなればって……」
「あ、そうだったのだ……」
「あと、そこにあるのは、シュトラールが今度村に行った時に持って行こうとしてたやつだと言ってた気がするな……それは多分、ぼくに殺される少し前のことだろう」
「キュオーン……」
ブレラがそう声を落とすと、キュオーンは、そんなつもりはなかったと、はっとして言った。
「あ、ごめん。そう言う話をするつもりは……」
「大丈夫なのだ。ブレラはなんでも聞いてあげられるのだ。お前の話なら全部聞いてあげるから」
それでも、キュオーンは、せっかく来てくれたブレラを悲しませまいと思い、自分の目の前に会ったノートを見て話を変えようとした。
「勉強といえば、シュトラールは、ぼくにも文字を教えようとしていたんだ」
「文字……」
ふとキュオーンは、まだ最近のある日のことを思い出して言った。
「そういえば、一度おまえに手紙を書いたことがあったな、なんかずいぶんといい加減になってしまった気がするけど……」
「おお、一緒に決闘した時のあのお手紙のことなのだ?」
「……ああ」
「はじめてもらったキュオーンからのお手紙だから、ブレラはまだ取って置いているのだ」
「は、はあ!?」
キュオーンは、まるで引くかのような反応を見せてしまった。
あれは手紙というより、ブレラたち三人への挑戦状のようなものだった。
ブレラ、エイダ、ルチアの三人にいいように丸められた同士、ロージィやマミーと一緒に修行して、更に強くなって、「絶望」のことをはじめ多くの厄介事を乗り越えてきた彼らと決闘しようとしたのだった。
だが今でも自分はひらがなしかうまく書けないしきれいに書けない。
あの時自分はどう書いたのか記憶は朧気だが、ちゃんと送った者として名前を書いてなかった気もする。
そもそもちゃんと言葉になっていただろうか? 宛名もなく、手紙として形になっていなかっただろうか。
オトナであるロージィは置いといても、マミーはなぜか赤い顔してぎこちなく筆をとっていたが、自分も他人のことは言えなかっただろう。
「そ、そんなもの捨てろよ」
「え? どうしてなのだ? 友達からの手紙は宝物だから取っとくものなのだ」
「いや、手紙とは言ったが……あんなの手紙じゃないだろ……」
きっかけからして、宝物にするようなものじゃないだろ、とキュオーンは思い、ブレラの気持ちは分からなかった。
「それに、ぼくの文字なんて読めるようなものじゃなかっただろ。ロージィのやつが、せっかくだから挑戦状を出しましょうとか、楽しそうに言いやがっただけだよ」
キュオーンはそう不貞腐れるように言ったがなおもブレラはこう言う。
「それでも、初めてキュオーンが書いてくれたお手紙なのだ。ブレラは大事にするのだ」
「やめてくれよ……その、ぼくはお前に、もうちょっとちゃんとしたもの書きたいから……」
実際にあの日から思っていたことがあった。
ちゃんと、日頃の感謝を込めた手紙をブレラに向けて書こうと。
いつかシュトラールが言ってた気がした。
彼女には、自分と同じ魔女の親友がいた。
彼女は森からなかなか離れない自分と対照的にいろんな場所を目まぐるしく移動するような魔女だったのだが、よく手紙を送りあっているのだが、実際に会ってから話すより落ち着いて気持ちが伝わりやすいこともあったと。
実際それがどうなのかは分からないが、感情的にならないとどこか話しづらくなるキュオーンにとって、その方がいいんじゃないかと思うことがあったのだった。
「そうか……分かったのだ、ブレラはちゃんとそのお手紙が来るのを楽しみにしてるのだ」
「お、おう……でもいつになるか分からないぞ」
「キュオーンの手紙なら、いつでもブレラは待つのだ」
ブレラはそう笑顔で言った。
そんな表情を見て、キュオーンはとても照れくさく思ったが、近いうちにちゃんと、感謝の気持ちをこめたものを書かないとな、と思い、文字を書く練習を続けた。