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    霜花(しもか)

    @kirina_hgrkuri

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    霜花(しもか)

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    とある昔のこと。
    城下町でペンタは休んでいた猫と触れ合おうとしたが逃げられてしまった。
    そんな様子を、オクタルは眺めていたようだった。

    #ミマモロール
    mimamorole

    猫と仲良くしようとしたときの表情 これは昔のある日の、ゴルトオールという国の城下町のこと。
     
     日が傾いていた時、ペンタの前には、散歩でもして休んでいるのか、道端でゴロンと転がっている一匹の猫がいた。
     
     夜に猫に会うと、暗い中光っている目のせいか怖いと思うこともあったが、明るいときにこうして日向で休んでいる姿はかわいい、ともペンタは思っているのだった。
     
     なんとかペンタは、そっと猫に近づいて、その姿を見てから、そっと頭の方に手を近づけようとした。
     
     しかしその瞬間、猫は目を開け、ペンタはドキッとするくらいに驚いた。
     
     静かに近づいていたつもりだったが、せっかくの休息を邪魔してしまったのだろうか。
     
     猫はお腹を地面にくっつけたまま、ペンタをじっと睨むように見つめてくる。
     なんだか、その目は自分に対して怒っているように見えた。
     
     それからペンタは自分について、嫌だな、なんて思ってしまった。
     かわいいと思っていたのに、どうしてこんなことになってしまったのか。
     
    「あ……」
     
     しばらくすると猫はその場から立ち上がって、ペンタのそばから離れていった。
     自分が見てきたから嫌になってしまったのだろうか。
     
     それなら申し訳ないことをした。
     
     猫はそのまま、南の方にある階段を降り、路上で遊んでいた子供たちのところにやってきた。
     
    「あ、猫さんだ!」
    「撫でていいかなー?」

     猫は子供たちに絡まれたが、どこか嬉しそうにそのばでごろんと、お腹を空に見せて寝転んでいた。
     
     ペンタはそんな様子を、ただ真顔で眺め、そしてそっとため息をついた。
     どこか、こわい思いをさせたのではないだろうか。
     猫に触れようとしたとき、自分なりに優しい顔を作って接しようとしていた。
     しかし表情が硬くなりがちな自分のことだ。
     実際のところどうだったのだろうか。
     
     用事も既に済んでるんだし、帰ろうかと、ため息をつきながら思った時、後ろから声が掛けられた。
     
    「おーいペンタ! 何してんの!」
    「……お師匠様」

     後ろから元気よく話しかけてきたのは、最近見習いの画家として師事していたオクタルだった。
     
    「元気ないねー」
    「そうですか?」
    「お猫様を撫でられなかったからかい?」
    「さっきまでのこと、お師匠様は見てたんですか?」

     ペンタは少し不満そうに言った。
     この男のことだから、さぞかし楽しそうにその様子を見ていたのかもしれない。
     
    「いやー、面白いものを見れるかもなーって思っただけで。ちょっとペンタとお猫様が仲良くなるところを見たかったなって」
    「……」
    「絵になるかにゃー、って思ったんだけど」
    「悪かったですね、何もできなくて」

     ペンタはそっぽ向いてボソッと言った。

    「ペンタは猫と仲良くなりたかったのかい?」
    「……仲良くなりたいというか……でも私って猫には白けた態度をとられがちな気が……」

     ペンタは恥ずかしそうにそう言ってから黙って、じっと手のひらを見る。
     
     もやもやした心は消えっこない。
     
     そういえば詳しいことは分からないが、猫なんて触ってたら、ノミとか着いたりするかもしれない。
     その服装や手で、オクタルのアトリエに行き、彼から借りている筆を持ったりするのはどうなのだろう、と思うことにするつもりでいた。
     
    「ふむ……ペンタはもう少し顔を柔らかくできないかな?」
    「大きなお世話です。これについては……」
    「まあ。別に猫って、不愛想かそうでないかで懐くものなのか、いまいちよく分からないけどにゃあ」

     オクタルは話すときによくにゃあにゃあ言っているが、これは以前からのことで、別に自分をからかっているわけではない。
     どうも彼は猫が好きなのか、猫をあしらったグッズを彼の道具や服装につけたりしている。
     
    「動物の気持ちってぼくもよく分からない気もする。ぼくだって、猫に撫でさせてもらったことはあるけど、さっきのチミみたいに、猫に逃げられることがある。ただ、犬に会うとだいたい吠えられるんだけど、なんでかにゃ?」

     そもそも、師匠も猫のようなお方だ。
     獲物を捕らえようとしている姿ばかりで、警戒はされがちなのかもしれないが。
     しかしそうは思いながらも、オクタルの目が怖いと思ってるのも自分だけなのかもしれない。
     そう思うとペンタは分からなくなる。

    「……それは私も分かりません。私もよく接近されるから苦手なんですけどね」
    「お? 犬には好かれる感じなの?」
    「分かりません。警戒されてないだけかもしれませんし」

     ペンタはため息をつきながら言った。

    「でも、さっき猫に近づこうとしたときの、きみのかおはちょっと素敵だったかもね」
    「え?」
    「硬いっちゃ硬いけど、ぼくの前ではなかなか見せない笑顔が見れた気がする。そのうちお猫さんとも仲良くできるようになるよ」

     それは本当なのだろうか。
     
     ペンタはいまいち、師匠の言葉が信じられない。

    「ふふふ、ああいうペンタも笑顔も、本当に絵にしてみたいものだねえ」
    「そんなにですか?」
    「うむ、ぼくからすれば素敵な表情だった」
    「好きにしてください」

     そんなにいいものだったのだろうか。
     それはそれで悪い気分はしないし、むしろ嬉しいかもしれない。
     しかしどうしても、本当に彼はそう思っているのか、そこだけペンタはとても気になってしまった。
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