Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    あめお

    @am_mio57

    Xに載せるのが憚られるタイプの創作物メインです

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 15

    あめお

    ☆quiet follow

    キスしないと出られない部屋の清光視点を書こうとしていました

    #鶴清
    craneQing

    出られない部屋の清光視点 どうして、よりによってなんでこんなことに。
     目が覚めたら床も壁も何もかも真っ白な部屋にいた。家具の類は皆無。窓はおろか扉さえも見当たらず、生気というものをまるで感じない。それでいて照明がなくても昼間のように明るいという、何とも清廉で不気味な部屋である。
     そんな殺風景な空間にただ一通だけ落ちていた手紙に書かれていたのは、目を疑いたくなるような文章だった。
     
    『キスをしないと出られない部屋です。四十分以内に実行してください』
     
    「驚きだぜ……」
     俺の隣で手紙を覗き込む鶴丸さんが呆れたように呟いた。
    「うそでしょ……この手のやつって本当に存在するんだ……」
     政府から課せられる任務で、いきなり謎の空間に閉じ込められて無理難題を押し付けてくるタイプのものがあるという噂は聞いていた。それを達成したら報酬がたんまり貰えるとも。ただ、それが我が身に降りかかることになろうとは予想だにせず。
     あらゆることを試してみた。しかし、部屋を破壊しようとしても全く手応えがない。壁伝いに歩いても凹凸ひとつ見つからない。こんな謎の高度な技術、くだらない任務に使っている場合なのだろうか、時の政府は。
    「俺がこないだの鍛刀で上手くやれなかったからかな……」
     なんだか目眩がしてきて、俺は手紙を丁重に畳んで床に置くと、部屋の隅にへたりこんでそのまま膝を抱えた。
    「鶴丸さんまで巻き込むことないのに……。ほんとごめん……」
    「加州が謝ることじゃないだろう」
     鶴丸さんはフォローしてくれたが、他に理由が思い当たらない。
     ああほら、明らかに困っている。アクシデントの多くを退屈な日常を彩る「驚き」として歓迎するスタンスの彼だが、さすがに看過できないことはあるのだ。
     捨て置かれた手紙を見下ろして小さくため息をつく姿を見て、申し訳なさで押し潰されそうになった。
    「実際あれは主が意地になって引き際を見誤ったのが悪いと思うぜ。きみのせいじゃない」
     真っ白な部屋に同化しかけている彼の慰めを聞きながら、俺は袴に顔をうずめた。
     

     よりによって、なんで相手が鶴丸さんなんだ。
     歴史上での接点は全くなく、本丸でも特段仲がいいわけではない。鶴丸さんは誰にだって分け隔てなく接してくれる気のいい刀で、俺に対しても平等にそんな感じだった。
     だが俺だけが、何としたことか、そこに特別な感情を持ち込んでしまったのだった。問題はそれだ。
     気付けば目で追っている。姿が見えなければ探してしまうし、喋る機会があろうものなら体がポカポカして、汚れる仕事も頑張れたりなんかした。認めたくはなかったが、おそらく、恋というやつである。本質は刀とはいえヒトと同じような心を得たのだから、まあそういうこともあるのだろう。
     だがその気持ちを伝えるつもりは毛頭なかった。彼は何者にも縛られない自由な刀だ。そうあってほしいとも思う。なによりたぶん彼自身、束縛を嫌う性質である。好きとか何とか伝えたら困るを通り越して嫌悪されてしまう可能性すらあって、勝手ながら俺としてはそれだけは避けたかった。だから誰にも言わないと決めた。
     幸い彼は大体いつも誰かと絡んでいてこちらとしては大勢に紛れやすいし、俺も表情を取り繕うのは得意な方ではあったから、隠し通せるだろうと高を括っていたのだ。
     ——その考えが甘かったと突きつけられたのは、数週間前のことである。
    『加州、きみ最近よく俺のことを見てないか?』
     体中の血が凍った。今思えば、やたらと勘が鋭い鶴丸さんの目を誤魔化せるなんて思い上がりも甚だしすぎた。その上、せめて上手いこと言い訳でもできたらよかったのに『もうやめるから忘れて』なんて最悪の台詞まで口走ってしまう始末。見ていたことを認めてどうするんだと後悔しても後の祭りでしかない。
     這う這うの体で逃げ出して、そして一晩かけて誓ったのだ。もう『普通』に戻る、と。
     元よりほとんど殺されていた恋心である。目で追わないようにさえすれば、表向きは周りと一緒、ただの大切な仲間同士だ。翌朝、何か言いたげな鶴丸さんに先手を打って『おはよ』と当たり障りない挨拶をしてしまえば、それ以降はもう、何事もなかったかのように毎日は回っていった。
     ——のに、これである。
     ふざけんなと言いたい。ひとがどんな気持ちで腹の中に感情を押し込めたと思ってんだ。もしそれを分かっていてこの組み合わせにしたんだったら、悪趣味にも程がある。
    「あるじ公認だったら一発殴りたい」
     そんな悪態がボソリとこぼれ落ちた。
     いくら押し込めたと言ったって、あの感情は埋み火のように密かにしぶとく生きているのだ。
     
     

     時計もないから制限時間の四十分だって計りようがない。このまま時間切れになったらどうなるかな、と投げやりな気分になりつつある中、重苦しい空気を破ったのは鶴丸さんだった。
    「……その、なんだ、政府の言う通りにすれば出られるんだろう」
     あ、やっぱりそっちに転んでいく流れか。それならもういっそパッと済ませてサッと出るのがダメージ少なくていいのかもしれない。というか、うだうだ先延ばしにするのは迷惑か。
    「加州」
     鶴丸さんの呼ぶ声に、小さく縮こまったまま生返事を返す。近付いてくる気配がして、いよいよ心臓が騒ぎ始めたのを誤魔化すようにゆっくりと深呼吸した。
     落ち着け、落ち着け、なるべく平常心で。暗示をかけるように繰り返す。こういう時念仏でも唱えられたらよかったのにと不勉強を嘆いていたその時、
     ——宙ぶらりんだった指先が、突如何かに掬われた。
    「……?」
     恐る恐る顔を上げる。暗さに慣れきった目には部屋の白さですら眩しくて、俺は思わず目を眇めた。
     白。部屋の床、壁、絹のような髪、紅の向こうの薄い手のひら、——え?
     猛禽を思わせる金色の瞳を長い睫毛が隠す。俺が状況を理解するより早く、鶴丸さんはかしずくように俺の手を取って、——そっと指先に口付けた。
    「……さすがに開かないか」
     部屋の様子を窺う鶴丸さんの声が右から左へと抜けていく。え、え、何これ。
    「加州? 大丈夫か?」
     鶴丸さんが顔を覗き込んでくる。俺はそこでようやく我に返って、慌てて手をひっこめた。
    「ちょ、ちょっとびっくりしただけだから」
    「そうか?」
     ちょっとどころの話ではないが、あまりに急すぎて逆に動揺が表情筋にまで届いていない。
    「……いや、突然すまなかったな。誰のどこにとは書いていなかったから、もしかしてと思ったんだが……。となると次の手を考えないとな」
     次の手って
     
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺🙏💖😍💗❤❤❤❤☺🙏💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works