先生宛のメールの送信ボタンを押し、送信完了を確認したところで、俺は勢いよく立ち上がる。
「終わったー!」
そう叫んだ途端、立ち上がった勢いで椅子もバタリと倒れた。そんなことはもうどうでもよくて、俺は部屋を飛び出す。廊下を二、三歩歩き、隣の部屋のドアを開けた。
「兄貴ー!終わったぞー!」
「おつかれ、うわっ!」
ベッドに腰を掛けて本を読んでいる兄貴に向かって、俺は飛び込み、押し倒す。
「お、お前んっ……」
そして、文句を言われる前にその口を塞いだ。だって兄貴の説教は長いから。もう待てなんてできない。
俺は大学四年生。卒業に向けて、卒業論文を書いていた。だが、あまりにも筆が進まない。締切まであと一ヶ月というところで兄貴に泣きつけば、手伝ってくれることになった。相変わらず面倒見のいい兄貴に飛んで喜んでいたら、一つ条件を出された。それは、卒論が終わるまでそういうことは禁止ということ。俺は悩んだ。大いに悩んだ。だって、それはつまり一ヶ月もの間兄貴に触れられないということ。そんなの耐えられない。でも、卒論がヤバいのは確かだ。卒業できないのはかなりまずい。だから、仕方がないので俺はその条件を飲んだのだ。そして、今日、やっと卒論が完成した。もう俺を阻むものは何もない。
「ふんっ……」
有無を言わさずに施される俺の行為から抜け出そうと、兄貴は俺の下でもがいている。でも、一ヶ月も我慢した俺は、そんなことでは止められない。固く閉じられた兄貴の唇を俺は無理矢理こじ開ける。
「んっ、んんっ……」
口の中へ侵入した俺の舌が、逃げ惑う兄貴の舌を絡めとる。それから何度も何度も兄貴を味わうように、舌を動かした。
「タぁ、ツミん……、いっ……、たんっ」
時折漏れる色を含んだ兄貴の吐息に俺の下半身は熱を溜めていく。それでもっと欲しくなって、もっと深く兄貴の口へ舌を進める。
兄貴も一ヶ月のお預けのせいかいつもより気持ちよさそうに見える。瞳は熱にうかされていて、うっすらと涙を浮かべている。キスだけでこんなにも感じてくれているんだと、なんだか嬉しくなってくる。だから、もっともっとと顔を動かしたときだった。
「痛いっ!」
「痛っ!」
兄貴の鉄拳が俺の頭に叩き込まれる。
「な、なにすんだよ〜」
あんなに甘い雰囲気だったのにと患部を抑えながら兄貴へ非難の視線をおくると、それはこっちのセリフだと兄貴は言い放つ。
「だって、卒論終わったらヤッてくれるって言ったじゃん!」
そう反論すれば、おもむろに俺の口元を兄貴が指さす。
「ひげ」
「ひげ?」
「それが当たって痛い」
そう言われ、口元を触ってみれば確かにジョリジョリしたものが指に当たった。そういえば、ここのところ卒論で忙しくて、ろくに剃っていなかった。
「さっさと剃ってこい」
「それって、兄貴もやっぱり早くヤりたいってこと?」
さっさと剃ってこいということは、そういうことではないだろうか。涼しい顔をして本を読んでたくせに、俺と同じことを考えていたのだ。そう思うとニヤニヤが止まらない。しかし、俺の浮かれた顔が兄貴の癇に障ったのか、だからさっさと行けと部屋から蹴り出されてしまった。それでもいい。さっさと剃ってきて、ベッドの上でたくさん仕返しをすればいいのだから。