ロールキャベツはお好きですか?①その日おれはぼーっと考え事をしながら、滞在中のパプニカの街をブラブラしていた。
大抵ポップが一緒にいるんだけど、今日は調べ物があるとか言っていて、今日はゴメちゃんが一緒に来ている。
「うーん……」
「ピピー……?」
「あ、ううん……大したことじゃないんだけどね……」
浮かない顔をするおれを、ゴメちゃんは心配そうに見つめる。
歩き疲れたおれは、広場のベンチに座ることにした。
おれの考え事というのは、ポップの事だ。
と言ってもポップと喧嘩したとかそういう事じゃなくて。
むしろポップとの仲は良好すぎるぐらい良好だ。
実はみんなには内緒なんだけど、おれとポップは付き合ってる。
いわゆる恋人同士ってやつなんだ。
ポップに告白されてキスされた時も、全然イヤな気持ちになんてならなかったし、おれもポップの事は特別に好きだったから、そういう関係になれておれは嬉しい。
でも最近……なんていうのかな……楽しいんだけど……うーん……。
ポップはエッチの時も優しくて、すごくおれの事気遣ってくれる。それはとっても嬉しいんだけど……正直おれはちょっと物足りなかったりする。
というのも、エッチを誘うのはいつもおればっかりで、ポップの方からしてくれるのはキスだけなんだ……。それに、一回しただけで、すぐに終わっちゃうし……。
「ポップ……おれとのエッチ好きじゃないのかな……」
「ピィー……」
「うん……でもさ……」
はぁとため息をつくおれを慰めるように、ゴメちゃんがおれの肩に乗り、すり寄ってくる。
まだ小さいおれの身体を気にしてくれてるんだろうけど、そんなのよりおれは……。
そんな風にベンチで考え込んでると、隣の方から会話が聞こえてきた。
「そうなんだー。てっきり彼氏とラブラブだと思ってたのに」
「うん……ラブラブ、ではあるんだけど……なんていうか、物足りなくって」
──ん?
「物足りないって、なによ?エッチはしてるんでしょ?」
「してるんだけど……。彼、草食系なのよね」
「あー……今流行りの?ガツガツこないんだ?」
「そうなの‼優しいのはいいんだけど、もうちょっとさー……」
──そう!それっっ!!
「わ、わかりますっ!おれ!!」
同じ悩みを持ってる人がいた事が嬉しくて、思わずおれは隣のお姉さんたちに話しかけた。
ぽかーんとした顔をしておれを見る二人。
「あ……!あの、おれ……」
──しまった……!バカなことしちゃった……!!
はっと我に返り、おれは真っ赤な顔をして俯いた。
「ご、ごめんなさいっ!失礼しま……」
「キミの彼氏も草食系なの⁉」
ずいっと、ロングヘアの綺麗なお姉さんがおれの方に身体を乗り出してくる。
「す……。え……?草食……?」
「ガツガツこないんでしょ⁉ね、そうなの⁉」
そう聞いてくるのは、ポニーテールの可愛いお姉さん。
「あ……はい……」
恥ずかしくなって立ち去ろうとしたおれの予想とは裏腹に、お姉さんたちはおれに前のめりに質問をしてくる。
「そうなんだー!ね、ここ座って座って!」
そう言ってお姉さんたちはおれの手を引くと、二人の間におれを座らせる。
「アタシの彼氏、全然そういうの興味ないっていうか……アタシが誘わないとしてくれなくって」
「そ、そうなんです!いつもおれが誘ってて、おれとするのイヤなのかなって……」
「わかるー!不安になるよねー……。もうちょっと求めてほしいっていうか」
「はい……」
一緒にしゅんとする、おれと、ポニーテールのお姉さん。
「なるほど。二人とももうちょっと彼氏に愛されたいワケね」
うんうんと頷きながらロングヘアのお姉さんが言った。
「よし!!それならいい手があるわ!」
キラーンという効果音と共に、お姉さんはおれたちの方を見る。
「「?」」
「あのね……」
「「ふんふん……」」
「だから……」
「「えっ⁉そんな……」」
「そうしたら……」
「「……なるほど」」
「じゃあ頑張るのよ!二人とも!!」
ロングヘアのお姉さんに応援され、おれとポニーテールのお姉さんは顔を見合わせて頷いた。
お姉さんたちと別れたおれは、城へ帰り、教えてもらった作戦を実行する。
「よし!ゴメちゃんやるよ……!」
「ピピッ!!」
そして夕食時──
みんなと食堂にいると、ポップは少し遅れてやってきた。
先にみんなと食べていたおれの隣の空いた席に、ポップは座ろうとして動きを止める。
「どうしたの?ポップ」
「……いや、何でもねえよ」
そう言って席に座り、夕食を食べながら、おれたちの会話に混ざる。
──あれ?気づかなかった……のかな?
いつもなら食事の後ポップと一緒にお風呂に入るんだけど、おれは敢えて今日は声をかけなかった。
ゴメちゃんとお風呂に入り、さっさと上がって部屋に戻る。
「ゴメちゃん……やっぱり作戦、ダメだったみたいだね……」
「ピィ〜……」
──お姉さーん……!おれ、上手くいかなかったよ……。
もう、寝ちゃおうかな、と思った時、ドアをトントンとノックされた。
ガチャっと開けると、そこには夜着を着たポップが。
「……ジャマするぜ」
「ポップ?」
「ゴメ、チウが呼んでたぜ?」
「えっ?」
「ピピッ?」
「ほら、行った行った」
そう言ってポップは、チウに呼ばれてるらしいゴメちゃんを追い出すと、パタンとドアを閉め、鍵をかけた。
ポップはつかつかとおれに近づく。
「……?ポップ?」
ぐいっと夜着の襟元を引っ張られた。
「……こんなモン、どこで付けてきたんだ?え?」
ポップの言うこんなモノ。それは──。
「なあ、ダイ。誰に、付けられたんだ。言ってみろよ?」
「そ、れは……えと……ゴメちゃんに……」
「はあ⁉ウソつくんならもうちょっとマシな相手にしろよ」
ポップは顔を顰め、おれをベッドへドサッと押し倒す。
「おめえがホントの事言うまで……お仕置きな」
そう言っておれを見下ろすポップの顔は、おれが今まで見たことのないような意地の悪い顔で。
──あれ?なんか……作戦、失敗かも……?
たらりとおれは冷や汗をかいた。
「あ……や、あぁっっ!ポッ、プ……ッ!も……っ!!」
「そろそろ……ホントの、事、いう気に……なったか?ん?」
「だから……っ!ホン、トに……っ!ゴ、メ……ちゃん、がぁ……っっ!」
「やれやれ。ホントに……おめえは、頑固だ、なぁ……っと!」
「あぅっ!……あ、んっ……!!ち、がぁ……ひンッッ!」
「早く……っ言った、ほうが、いいぜ……っ?」
「ひ……あ、ぁっ!だか……らぁ……っっ!!」
──こんなはずじゃなかったのにーっっっ!!!
「で?おれに言うことは?」
「えっと……」
たっぷりとポップのお仕置きを受けた後、おれは昼間の出来事と、実行した作戦の顛末をポップに話した。
「はあ⁉じゃ……ホントに……ゴメが……?」
「だから……言ったじゃん」
そう、お姉さんに教えてもらったその作戦とは、「彼氏の知らないキスマークをこっそり付けて嫉妬させる」というものだった。
でもキスマークなんて、当然自分じゃ付けられないから、おれはゴメちゃんに頼んで、首の斜め後ろあたり、背中に近い、襟元からギリギリ見える辺りを噛んでもらったんだ。
お姉さんが言うには、「これで草食系の彼氏も肉食系に大変身よ☆」ってことだったんだけど……。
ポップはおれの目の前で、がっくりとうなだれてる。
「ごめん……ポップ。騙すようなマネして」
「ああ、それもあるが……。おめえがちっとも理解してねえようだからな」
据わった目で、じろりとおれを見るポップ。
「???」
「あのなぁ……っ!」
きょとんとするおれの肩をガシっと掴みながら、ポップが言った。
「おめえの負担になったら悪りいからって、おれが普段どんだけ苦労して我慢してるかおめえが全っっ然分かってねえから、おれはがっかりしてんだよっっっ」
「えっ?……えっ⁉」
「あーもう……チクショー……」
──我慢?え?……ポップが?
「……ウソだぁ。だって、いっつもおれが誘って……」
「ガッついてるって思われたらイヤだろ?」
今は草食系が流行りだし……と呟くポップ。
「えー……そんなの、おれ知らないよ……」
「だろうな。おめえ終わったあと、ぐっすり寝てるもんな。……後でおれがトイレでこっそりヌいてんのも知らねえだろ?」
「ヌい……えっ⁉」
それは……確かに知らなかった。
それに眠くなるのは……
「でもおれ、何もしなくても寝るの早いもん」
「……‼……そういえば、そうだったな」
そう。年のせいか、おれはポップとエッチしてもしなくても、割と早く眠くなっちゃうんだ。
そんなの、ちょっと考えればポップなら分かりそうなもんなのに。
「はぁー……悪かったよ。不安にさせちまって。満足も、させてやれねえで」
「そんな事ないよっ!ポップはおれの事気遣ってくれてたんだろ!おれの方こそ、それを分かってたのにこんな騙すような仕打ち……」
「あーやめやめ!もう、お互いに分かってなかった、ってことで!……な?」
「……うん」
そうだね。おれたち、こんなに一緒にいるのに、お互いの気持ち、ちゃんと分かってなかったんだね。
「んじゃ、そういう事で……」
「わっ……⁉」
おれの顔の両脇に手をついて、ポップはおれを見下ろす。
「続き、しようぜ?……お互い遠慮はなしだ」
「…………うんっ!」
「はぁー……つ、疲れた……」
「ちょっと……欲張りすぎたね……」
「だな。……あー……お礼、言わねえとな」
「え?」
「その……お姉さんたち」
「……!そうだね!」
「にしてもおめえもスミに置けねえなあ。おれにも紹介してくれよ」
「うーん……別にいいけどさ……」
「なんだよ?美女は紹介できませんってか?」
「いや……確かに綺麗なお姉さんと可愛いお姉さんだったけど……いいの?」
「?」
「ヒュンケルみたいに低い声だったよ?」
「え」
後日、一緒にお姉さんたちを探しに行こうと言ったおれは、ポップに全力で止められてしまったのだった。
「ダメだっ!おめえもおれも食われるぞっっっ」
続く
真面目な話、お姉さんたちは、カップルに手を出すほど飢えてないと思います。でも、味見ぐらいされちゃうかもね。
ロールキャベツの意味が分からない方は、ロールキャベツ男子でググってみてください。