アバターバグから閃いたポプダイ💚その1💙
三日月の浮かぶ夜空にきらりと走る一筋の輝き。それは静まり返った湖畔にストンと降り立った。
「ふぅ……」
一人でテランを訪れたダイは一つ息を吐くと、湖の方へとゆっくりと歩を進めていった。
この地へはつい二日前にも訪れていた。但しそれは、今回の様にダイが自らの意思で訪れたのではなく、無意識のうちに為されたことで。
凪いだ湖面を眺めながら、ダイは二日前の出来事を思い出す。
自らに課せられた勇者という重圧に耐えきれず逃げ出した自分。そんな自分を見つけ、「ダイはダイだ」と言葉をくれた相棒のことを。
つきりと胸が痛み、ダイが思わず立ち止まったその時。
「ピピピィーーーッッッ!!」
「えっ!? わっ! ゴメちゃんっっっ!?」
突然現れた友の姿に、ダイは目を白黒させた。
「どっ、どうしてゴメちゃんがここにっ!?」
ゴメはダイの周囲をくるくると飛び回ると、ダイの肩の上へぽすんと収まった。
「ピピィッ!」
「えっ? おれを追ってきた? もしかしてさっきのルーラについてきちゃったのかい?」
「ピーッ! ピピィッ!!」
「アハハ。大丈夫だって。今回はちゃんとレオナには言ってあるよ。……決戦前にちゃんと考えておきたくってさ」
「ピ?」
不思議そうなゴメを一撫ですると、ダイは再び歩き出す。
「それじゃあゴメちゃんも付き合ってくれるかい? おれの月夜の散歩に」
「ピッ!」
二日前よりも細く欠けた月夜。一人と一匹は祭壇の方へと向かって行った。
「ここでこの前も話したんだ……ポップと」
竜の石像が祀られた祭壇。それを取り囲むように据えられた柱の側で、ダイは立ち止まった。
湖の方へと足を投げ出すように腰掛けると、肩に乗っていたゴメを膝の上で抱え直す。
「逃げ出しちゃったおれを見つけてくれたんだよ、あいつ」
ゴメは静かにダイを見上げる。ダイは今夜の湖面のように穏やかな気配を瞳に湛え、月を見上げていた。
「おれのこと、叱りもしなかったし責めもしなかった。『おれがおれだから信じてるんだ』って。そう言ってさ」
その言葉を思い出すだけで、胸が熱くなる。けれど。
「でも……どうしてかな。すごく嬉しかったのに、あいつを……ポップを見ると胸がなんだかぎゅっとなるんだ」
そう言ってダイは、胸元に手を当てた。
剣のように圧し折られた心が、彼の言葉によって救われたはずなのに。
ポップのことは大切だ。他の皆と同じように。
(本当に……?)
彼の言葉を思い出すだけで、笑顔を見つめるだけでこんな風に胸が苦しい。そんな思いになるのはポップに対してだけだ。
ポップの期待に応えたい。彼があの恐ろしい大魔王に再び立ち向かうというのなら、隣で一緒に。彼を二度と失いたくないから。この地上を守りたいから。この、彼の生きる世界を……!
「おれ……なんでこんなにポップに対してだけ……?」
どうしてポップだけが違うのか。ポップは特別だから? そう、他の人に対しての気持ちとは明らかに違う感情。ポップが大切だ。大事だ、とても。大好きだ、多分誰よりも……! でも、ポップは……? 『ダイはダイだ……!』そう言ってはくれたけれど、彼がきっと一番『好き』なのは……。
そこまで考えが至り、ダイは目を見開いた。
「そ、んな……だってあいつが向けている『好き』は……。じゃあ、おれがポップに向けている『好き』はまさか……」
自覚した途端、ダイは頬を真っ赤に染めた。
「そうか……。そうだったんだ……。おれ、ポップのこと……」
自らがポップに向ける感情がそういう意味での『好き』なのだと理解したダイ。困惑した表情で、手の中のゴメを見つめる。
「ど、どうしよう……ゴメちゃん……」
今にも泣き出しそうな瞳のダイに見つめられたゴメは、照れたような表情で。だが、やはりダイ同様に戸惑いを隠せない。
「ピッ!? ピピィー……」
「うん、そうだよね……。こんなこと、いきなり言われても困っちゃうよね。ごめんよ」
そう。自分でさえ突然湧いた感情に対処しきれていないのだ。それでなくても、これから大魔王との最終決戦に挑もうという大事な時。こんな状況で、彼に自身の想いを告げるという選択肢はダイの中にはなかった。
「ピィ……」
困ったような顔でダイを見上げるゴメ。ダイはそんな友に緩く微笑むと、両手で掬うように抱き上げ、そのまま胸の中へ包み込んだ。
「大丈夫……うん、大丈夫だよ。おれは、もう逃げない。ちゃんと、立ち向かってみせるよ。だから今はさ……おれたちだけの秘密にしておいてくれよ、ゴメちゃん」
「ピピィー……」
まだ何かを言いたげなゴメに再度笑顔を向けると、ダイは彼を頭の上に乗せ立ち上がる。
「さっ! そろそろ帰らないと。あんまり遅くなるとレオナに心配かけちゃうし」
「ピィ……」
ゴメの返事を合図にダイはルーラを唱える。数秒の後、彼らはカールの砦へと到着した。
その途端、ピューッと何処かへ飛び去って行ってしまったゴメ。
「あっ! ゴメちゃん!? ……変なの」
あっという間に姿を消したゴメの態度を不思議に思いながらも、ダイは帰還の報告をする為にレオナの元へ向かうのだった。
一方、ダイの元から一目散に飛び去ったゴメは、ある部屋の開け放たれた窓から室内へと侵入した。
ベッドの上へぽすりと着地すると、白い煙がボワンと上がる。
「はぁー……」
そこに現れたのは、大の字にベッドに寝転がるポップ。そう、今の今までダイと行動していたのは、ポップだったのだ。
「『どうしよう』って……そりゃおれの台詞だっつうの……!」
とんでもないことを知ってしまった、とポップは両手で顔を覆う。
テランでダイと二人きりで過ごしたあの夜。ダイの中で、何かが変わったのだとそう思っていたのだが。ダイの態度にほんの僅かばかりの──恐らくポップでなければ気づかないぐらいの些細な──違和感を覚えたポップ。まだ何か一人で悩みを抱えているのならば、全部吐き出させてやりたいと、そう思った。けれど、もしそれが誰にも打ち明けたくないような悩みだとしたら。
どうするかとポップが考えあぐねていると、チウの側をふよふよと漂っているゴメの姿が目に入った。幼い頃から常に行動を共にしていた友人ならば……。そう考えたポップ。
お誂え向きに、ポップは師から、変化の呪文『モシャス』を習ったばかりで。
テランへ出かけてくることをダイがレオナに告げているのを陰でこっそりと立ち聞きし。ルーラでテランへと先回りし、覚えたてのモシャスでゴメに変身した。そしてダイが来るのを待ち構えていたという訳だ。
それが、まさかあんな告白を聞くことになるとは……!
「ダイのやつが……おれのことを好き、だって……!?」
思い出すだけで、頬がかああと熱くなる。ポップとて、ダイのことが嫌いではない。寧ろ可愛いやつだと思っているし、力になってやりたい、助けてやりたいと常々思っている存在だ。
けれども、自分がそういう「好き」の対象としているのは、別の人物のはずで。
では何故、先程のダイの表情が頭から離れないのか。泣き出しそうな潤んだ瞳、切なげに微笑みを浮かべた顔が忘れられないのか。
「……ま、でも秘密にしておいてくれって言ってたしな」
この気持ちに答えを出すのはまだ先のことになるだろう……あくまでもこの戦いに生き残り、勝利すればの話だが。
いずれ……そう、いつの日かは分からないが、ダイと正面から向き合って自分の気持ちを打ち明ける日が来るだろう。そんな風に思いながら、ポップは決戦前の夜を過ごしたのだった。
原作通りの流れだと、この後ダイくんは大変切ない想いを抱えながら最終決戦に挑むことになる訳ですが、私はポプダイ脳なので、大戦直後、ポップが自分の抱えているクソデカ感情に気づいて最終的にポプダイに収まると信じています。
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💚その2💙
魔王軍との戦いの間の僅かな休息日。ダイは海辺の砂浜で一人、修行に励んでいた。
「ふう……」
修行に一区切りをつけ、ダイが一息ついた時。
「ピピピィーーッッッ!!」
「わっ!? ゴメちゃん!?」
彼の親友であるゴメがどこからともなく現れた。ダイを見つけたことが余程嬉しいのか、ダイの周囲をくるくると飛び回りはしゃいでいるゴメ。
そんなゴメの様子に少し驚きつつも、ダイもまた微笑む。
「おれを探しに来てくれたのかい?」
「ピィ! ピピピィ!!」
「あはは。そっか」
楽しげにニコニコと笑い合う一人と一匹の光景は、その場に誰かがいれば確実に心が癒やされたことであろう。
そのうちゴメは周囲を飛び回るだけではなく、ダイの頬や腕にすりすりとその小さな身体を擦りつけ始めた。
ダイに甘えるようなその仕草を珍しいとは思うものの、ゴメの好きなようにさせるダイ。
「どうしたんだ? ゴメちゃん、なんだか今日はすごく嬉しそうだね」
「ピィーッ♡ ピィピピッッッ♡」
ダイの言葉を肯定するように、ゴメはダイに頬擦りをする。
「えっ!? なんだか照れちゃうなぁ……! おれも大好きだよ♡」
ダイは少しだけ頬を染めながら、ゴメの言葉に擽ったそうにはにかむ。そして。
ちゅ。
親愛の印とばかりにゴメの頬に口付けるダイ。
と、次の瞬間。
ボワン! と大きな白い煙が巻き起こり、ダイは目を見開いた。
と同時に起こる、ドスン! という大きな音。
「いってぇーー……」
ここにいるはずのない者の声が突然聴こえ、ダイは口をあんぐりさせる。
「えっ……!?」
そう、そこにいたのは……。
「ポ、ポップッッ!?」
砂浜に臀部を強かに打ち付け痛みに顔を顰める、彼の相棒ポップだった。
目を真ん丸に見開き彼を見つめるダイ。その視線から逃れるようにポップは目を逸らし、バツが悪そうにしている。
「なんでポップが……? ゴ、ゴメちゃんは……? ま、まさかポップは本当はゴメちゃんだったのか!?」
「ち、違えっつうの! 大体おれとゴメが一緒にいる所、何度も見てんだろーがっ!」
混乱するあまりおかしな発言をしだすダイにポップは突っ込みを入れると、口ごもりながらこう言った。
「……さっき師匠に教わったモシャスを特訓してたら、丁度おまえがいたもんでよ……」
「あ……そ、そうなんだ……」
(と、いうことはつまりさっきのは……)
先程のやり取りを思い出したダイは、羞恥にますます顔を赤らめる。
「わ、悪かったな……ゴメじゃなくって……」
何となく気まずい空気に、ポップは明後日の方向へと視線を彷徨わせたまま口にする。
「え!? あ……お、おれは……別にゴメちゃんじゃなくっても……ポップなら……」
頬を指で掻きながらそう返すダイ。
「へっ!? それってつまり」
「そ、それよりも!」
ポップの言葉を遮るように、ダイが大きな声で続ける。
「ポップこそおれにあんなことされてイヤじゃなかったのか?」
「お、おれ!? おれは……その……さっきのは別に嘘ついた訳じゃねえし……むしろ……嬉しいっつうか……」
「えっ……それって……」
頬を赤く染め互いに見つめ合う二人。
やがて先に口を開いたのはポップだった。
「あのよう……もっかい……してくれねえ? さっきの」
「あ、ああ……いいけど……」
ダイはポップの言葉にぎこちなく頷くと、砂浜に座り込んだポップの横に膝を付く。
ちゅ。
ダイの柔らかな唇が、そっと、今度はポップの頬に触れた。
「へ……へへ……っ」
「へへへ……っっ」
頬を抑え、頬を緩ませるポップ。それに釣られ、ダイもまた照れくさそうに微笑む。
(あーーーっっっ!!! 可愛いやつっっ!!)
愛おしさが募り、ポップは堪らずダイの頭を両手で掴むと、ぐいと自らの方へ引き寄せ。
ちゅっ。
「お返し、な!」
「……うんっ!」
先程のポップと同様に、ダイもまた頬を抑えながらはにかんだ。
(ったく……。中々戻ってこねえと思ったら……若いねぇ……)
そんな二人の様子を、岩陰からこっそりと盗み見るマトリフ。
愛弟子が修行に戻った際何と言って揶揄おうかと、彼はにんまりと笑みを浮かべるのだった。
フォロワーさんのダイくんアバターが隣にいらっしゃったので、私のポップアバターに♡を飛ばさせたんですよ。そしたらフォロワーさんにはゴメちゃんに見えてたっていうそんなおもしろバグが起きていたのでネタにしちゃいましたw