求愛酩酊状態の彼に肩を貸しながら、部屋へと戻る。
「ほら、しっかりしなさいよ!」と彼女がかけた言葉は、果たして彼に聞こえていただろうか。
自分よりも身長の高い彼を半ば引き摺るように部屋まで運ぶと、寝台へと寝かせる。
そのまま水差しを取りに行こうとした所でぐいと腕を引かれ、寝台に横たわる彼の腕の中へ抱き込まれた。
「好きなんだよ……」
アルコールの混じる熱い吐息が、耳にかかり、息を呑む。
普段の声よりも低い、掠れた声。
「ずっと前から、おまえのことが……」
彼の手が衣服を弄ろうとしているのに気づき、止めさせなければと手に力を込める。
「ちょ……!ポッ……んぅ……っ!」
だが、それは敵わなかった。
強いアルコールの香りと、思いがけない突然の口づけに、力が抜ける。
彼が明らかに相手を勘違いしているのは分かっていた。
続けてはいけないと、そう思っていた筈なのに。
──ずっと望んでいたものが、今ここにある……。
抵抗など、出来る訳がなかった。
意識が薄れそうな程の苦しさと痛みの中、体内にある彼の熱さだけを必死に感じ取っていた。
せっかちだなとか、そんな乱暴じゃ嫌われちゃうよ、とか言いたい事は山程あったが、全てを喉の奥に飲み込む。
快楽など無いに等しかったが、心は歓喜に満ち溢れていた。
やがて限界に近づいた彼は、呻くように口にした。
「愛してる…… 」
愛おしげに彼が呼ぶのは、自分ではなく、彼女の名。
──おれも、愛してるよ……、おまえを。
熱い熱い迸りが、体内に注がれる。
全てを吐き出した彼は、そのまま気を失ってしまった。
──愛して欲しい。おれのことも見て。
その一言が、普段の軽口のように吐き出せればどんなに楽だっただろう。
けれど、彼女の為に強くなろうとする姿を一番近くでずっとずっと見てきたから。
そんな言葉を口に出せば、彼が苦しむのは分かっているから。
決して生涯口には出さない想いに、そっと蓋をする。
彼を起こさぬようそろりと身を起こすと、ズキリと下半身が痛む。
赤と白の混濁液が伝う脚に、ぽたりと一滴、雫が落ちた。
終