ロールキャベツはお好きですか?②その日もおれはぼーっと考え事をしながら、滞在中のパプニカの街をブラブラしていた。
大抵ポップが一緒にいるんだけど、夜までに仮眠しておくとか言っていて、あの日と同じように今日もゴメちゃんが一緒に来ている。
「はあ……」
「ピピー……?」
「あ、ううん……そこまで困ってるわけじゃないんだけどね……」
困り顔のおれを、ゴメちゃんは心配そうに見つめる。
歩き疲れたおれは、広場のベンチに座ることにした。
おれの考え事というのは、やっぱりポップの事だ。
と言ってもポップと喧嘩したとかそういう事じゃなくて。
むしろポップとの仲は引き続き、いや前にも増して良好すぎるぐらい良好だ。
前はお互いに気を使いすぎていたおれたちだったけど、ポップの気遣いが逆におれに物足りなさを感じさせていたと分かってからは、ポップからもおれを求めるようになってくれた。
ポップも我慢の必要がなくなったし、おれもいっぱい愛されてとっても幸せ……で、終わればよかったんだけど。
でも最近……なんていうのかな……惚気って言われちゃうのかもしれないけど……うーん……。
ポップはエッチの時変わらず優しいし、おれが満足してるかいつも気にしてくれる。それはとっても嬉しいんだけど……正直おれはちょっと、いや結構寝不足気味だったりする。
というのも、あれ以来、おれがちょっと眠いなって時でも、一回で終わらせてくれないから、結局二回、三回とポップに付き合う羽目になる。
もう寝かせて、っておれが言っても、あと一回だけ、ってポップに頼まれて、でも気持ちがいいから、おれも断れないんだ……。
「ポップ……どうやったら満足してくれるのかな……」
「ピィー……」
「うん……でもさ……」
はぁとため息をつくおれを慰めるように、ゴメちゃんがおれの肩に乗り、すり寄ってくる。
おれが前に言ったガツガツして欲しいって言葉を気にしてくれてるんだろうけど、それより今のおれは……。
そんな風にベンチで考え込んでると、隣の方から会話が聞こえてきた。
「そうなんだー。てっきり彼氏とラブラブだと思ってたのに」
「うん……ラブラブ、ではあるんだけど……なんていうか、ちょっと疲れちゃって」
──ん?
「疲れちゃうって、なによ?エッチばっかりしてるわけ?」
「そうなのよ……。彼、ロールキャベツ男子なのよね」
「あー……草食系に見えて肉食系ってやつ?ガンガンに責められるんだ?」
「そうなの‼求められるのはいいんだけど、もうちょっとさー……」
──そう!それっっ!!
「わ、わかりますっ!おれ!!」
同じ悩みを持ってる人がいた事が嬉しくて、また、思わずおれは隣のお姉さんたちに話しかけた。
ぽかーんとした顔をしておれを見る二人。
「あ……!あの、おれ……」
──しまった……!またやっちゃった……!!
はっと我に返り、おれは真っ赤な顔をして俯いた。
「ご、ごめんなさいっ!失礼しま……」
「キミの彼氏もロールキャベツ系なの⁉」
ずいっと、長い美脚を露にした、髪をアップにしたお姉さんがおれの方に身体を乗り出してくる。
「す……。え……?ロールキャベツ……?」
「ガンガン責めてくるの⁉ね、そうなの⁉」
そう聞いてくるのは、肩から胸元をセクシーに露出したボブヘアーのお姉さん。
「あ……はい……」
恥ずかしくなって立ち去ろうとしたおれの予想とは裏腹に、お姉さんたちはおれに前のめりに質問をしてくる。
「そうなんだー!ね、ここ座って座って!」
そう言ってお姉さんたちはおれの手を引くと、二人の間におれを座らせる。
「アタシの彼氏、普段優しいのに夜になると容赦ないっていうか……なかなか寝かせてくれなくって」
「そ、そうなんです!愛されてるなって感じて嬉しいんですけど、そんなに毎日ガンガンいこうぜ、って感じじゃなくてもいいよって……」
「わかるー!責められっぱなしもシンドいよねー……。もうちょっと手加減してほしいっていうか」
「はい……」
一緒に困った顔をする、おれと、ボブヘアーのお姉さん。
「なるほど。二人とももうちょっと彼氏に早めに満足して欲しいワケね」
うんうんと頷きながらアップのお姉さんが言った。
「よし!!それならいい手があるわ!」
キラーンという効果音と共に、お姉さんはおれたちの方を見る。
「でもここじゃなんだし……場所移しましょうか……!」
「そうね……そうしましょう!」
「あ、あの……」
勝手に場所を移動する事を決められてしまい戸惑うおれに、お姉さんたちが言う。
「大〜丈夫よ!別に取って食いやしないから♡」
「悩める青少年を助けてあげたいだけよ♡」
──どうしよう……!
おれとゴメちゃんはお姉さんたちに引っ張られるように、路地裏のお店へと案内された。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
目の前に、オレンジジュースの入ったグラスが置かれる。
おれが案内されたお店は、こじんまりとしたお店だった。
カウンターと、奥にはテーブル席があり、おれはそこに通された。
「それでさっきの話の続きなんだけど……」
「あ、はい……!」
話の続きをしようとした所で、お店に別の人たちがやってきた。
「あら……?」
「やだ……!キミ……」
「あ……!あの時のお姉さん……!」
その人たちは、おれが以前広場で話を聞いてもらったお姉さんたちだった。
「えー!なに⁉知り合いなのー⁉」
「ちょっとヤダー!早く言ってよー‼」
「いえ、あの……」
「知り合いっていうか、前にさー……」
「あっ!草食系の彼氏、どうだった⁉上手く行った⁉」
「え?草食系?ロールキャベツじゃないの⁉」
「あの、だから……」
「えっ!……ってことは、成功⁉やーん、おめでとうー」
「よかったわー!アタシ達心配してたのよー!!」
「ちょっと!どういう事か説明してちょうだいな」
「実はねー……」
──ホントにどうしよう……!
おれとゴメちゃんを置いて、お姉さんたちは勝手に話を進めていく。
「なるほどねー……今度は寝かせてもらえない、かぁー」
「幸せな悩みだけど……当事者にとっては問題よね」
おれの心配を余所に、お姉さんたちは親身に相談にのってくれた。
「そこで、アタシいい手を思いついたんだけど……」
「なになに?」
「ちょっと誰か、カウンターからバナナ持って来てー」
「バナナ……もしかして……!」
「大丈夫?この子にはまだ早いんじゃないの?」
「なによ、下に突っ込んでんのに、上に突っ込んじゃいけないワケ」
「それもそうね」
「ちゃんと攻撃手段も持っておかないと」
「そうよ。先に彼氏をダウンさせちゃえばいいのよ」
「!?!?!?」
──お姉さんたち……ちょっとコワイ……!
「はい、これ持って」
アップのお姉さんがおれにバナナを手渡す。
「?」
「さ、じゃあ教えるわよ……!」
「あの……教えるって何を……」
「彼氏を満足させる、秘密のワザよ」
「秘密のワザ……」
「そうよ、まずね……」
そうして秘密の特訓が始まった……!
「ちょっとぉ……この子すっごく上手!」
「ああん……カッワイイ♡」
「ヤダ……アタシの中の封印されし男が……!」
「アンタ!ガマンなさい!!この子は彼氏持ちなんだから」
そして特訓は終了した……!
「あの……ありがとうございました!!」
「ううん、いいのよ」
「自信持って、頑張ってね!」
「あなたならきっと出来るわ!」
「また、いつでもいらっしゃいね♡」
隅っこで縮こまっていたゴメちゃんを回収し、店の外に出る。
いつの間にか、もう空は濃紺に変わっていた。
「いけない……!早く帰らなくっちゃ……!」
おれは城に向かって、全速力で帰って行った。
そして夜──
ここ数日の通り、ポップはおれの部屋にやって来ている。
ゴメちゃんは、チウの部屋に行ってもらっていた。
「ダイ……もっかい……」
「ん……ポップ……!ちょ……っと待って!!」
既に一回目を終え、いつもならば、なし崩しに二回目に進む所だけど、それをおれが止める。
「……なんだよ?」
「あの……あのさ……」
頭の中で、お姉さんたちが応援している。
「今日は……おれがシてあげる……!」
「は……?」
「い、いいから、ほらっ!」
「お、おう……?」
ポップに、ベッドに横になってもらう。
──大丈夫……!教えられた通りにやれば……!
おれはひとつ深呼吸をすると、特訓の成果をポップに披露した。
「ちょ……待、て……!それ……っ!」
「ほっふ……ひもひい?」
「おめえ……っ!ど、こで……っ……そん、な……ぁ……っっ!」
「ほえは?……ほうはは?」
「くぅ!……ちょ、っ……!!待っ……あぁ……っ!」
「ほう……はひへも、ひひよ……っ?」
「しゃ……べん、なっ!クソ……っ……出るっっ!!」
──お姉さんー!おれ、上手にできたよーっ!!!
「はっ……はっ……おめ……こんなの……はぁ……どこで……」
「えっと……」
胸を上下させて息をするポップを見ながら、おれは昼間の出来事と、秘密の特訓の話をポップにした。
「はあ⁉また……あの……お姉さん……」
「うん……」
お姉さんに教わった通りにやってみたけど、ポップ……満足してくれたかな?
ポップはおれの話に一度がばりと身体を起こしたけど、すぐまた脱力して、ベッドに倒れた。
「ごめん……ポップ。気持ちよくなかった?」
「いや……すげえ……気持ちよかったわ……。でもな……」
据わった目で、じろりとおれを見るポップ。
「???」
「おめえなぁ……っ!」
きょとんとするおれの肩をガシっと掴みながら、ポップが言った。
「そんなテク、ホイホイ教わってくんなよ!つーか、そんなに眠みいなら最初から断れよ!おれが聞き分けねえ発情期の犬みてえじゃねえかっ!!大体もう会いに行くなって言っただろーがっっっ!!!」
「いや……会いに行ったわけじゃないんだけどさ……。それに、ポップとしたくない訳じゃないから……」
「あーもう……カッコ悪りい……」
──カッコ悪い?……ポップが?
「……そんな事ないよ。ポップはカッコイイよ……!」
「満足させてやってるつもりが、自分だけ楽しんでましたなんてカッコ悪りいにも程があるだろ……」
どんだけ盛ってんだよおれ……と頭を抱えて呟くポップ。
「えー……そんなの、今更じゃん……」
「悪かったな!どうせおれは一回で治まったことなんてねえよ……!前からな!」
「でも、物足りないっておれが言っちゃったから……!」
「……それでも、毎回おめえが付き合う必要なんてねえだろ」
ポップは眉を寄せ、口を尖らせる。
「はぁー……悪かったよ。無理させちまって。寝不足なの……ちゃんと気づいてやれねえで」
「そんな事ないよっ!ポップはおれの事満足させようと頑張ってくれてたんだろ!それにおれの方こそ、ポップとの約束破るような事して……」
「あーやめやめ!今度からは、お互い無理せず、適度にちゃんと休むってことで!……な?」
「……うん」
そうだね。おれたち、お互いの事分かったつもりで、相手の為に無理しちゃってたんだね。
「んじゃ、そういう事で……」
「わっ……⁉」
ポップはおれを両腕で抱き込んで、そのままベッドに倒れる。
「今日は寝るか?……また明日、続きしようぜ?」
「…………うんっ!」
「うーん……よく寝たなぁ……」
「久しぶりに……ぐっすり寝たかも……」
「だな。……あー……今度は、お礼、言わねえとな」
「え?」
「その……お姉さんたち」
「……!そうだね!」
「同じ人に二度も助けてもらうなんてな。……三度目もあったりして」
「うーん……どうだろう……」
「バッカ!おめえ……そこは否定しておけよ」
「いや……確かに同じ人ではあったんだけど……」
「?」
「お姉さんの知り合い、増えちゃったんだ」
「え」
後日、今度こそ一緒にお姉さんたちを探しに行こうと言ったおれは、やっぱりポップに全力で止められてしまったのだった。
「ダメだっ!今度こそ二人してとっ捕まるぞっっっ」
続く
恋バナのお友達が増えましたwww
お姉さんたちの会話が書いててすごく楽しかったです🤣
もう一回続きますw