コワイ時は……
船旅を始めてずっと疑問だったことを思い出し、ロにしてみた。
「そういえば、ラピードずっと大人しいね? 寝てばっかりでちっとも動かないって言うか」
「ん? ああ、そうだな」
船の真ん中で今日もラピードは大人しく丸まって寝ている。思い返してみればいつもそこに居る気がする。
もしかして具合が悪くて動けないの、とカロルは心配になってユーリに尋ねた。
「大丈夫だよ。具合が悪いって訳じゃないから気にすんな。ただちょっと水が苦手なだけ」
「へー、ラピードにも恐いものがあるんだ……じゃあその隣で寝てるレイヴンも」
「ありゃ酔っ払って寝てるだけだろ」
呆れた風に手を振るユーリに、同じ風に呆れてカロルの目が細くなる。
「じゃあ、ユーリがボクにべったり引っ付いてるのは?」
「オレも水が恐いから」
んな訳無いでしょ、とカロルのチョップがユーリの額にヒットするが、お構い無しに引っ付いたままだ。
*
後日、船旅が空の旅になってラピードも過ごしやすくなったのか、たまに歩いているのを見かける。
それでも犬だから寝そべっていることの方が多いが。
「ほらリタ、見て下さい。白鷺ですよ」
「あ……そ、そうね」
ユーリとカロルが甲板に出ていると、今度はマストにしがみついたリタの姿。エステルに船室から連れ出され、外に出て来たものの、そこまでしか動けない様子だ。
「今度はリタか」
「この間までのラピードと同じだね。高い所が苦手なのかな?」
「どうやら、そうらしいな」
「で、ユーリも高い所が苦手だからボクにしがみ付いてるの?」
そういう事だな、と腕をカロルに回し、頬を寄せた。
相変わらず言い訳になってもいない理由で引っ付いて来るが、今度は振り払わなかった。
「何故かこうやってると安心するんだよな」
居心地が良いからこうしてる。と言う意味だと知って、ちょっとだけ嬉しかった。
でも伝えると調子に乗りそうだから、ユーリには秘密。
2011.6