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    ぴよ🐣

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    間にあってないやつ。
    しぶにも載せてます。

    #カカベジ
    Kakarot/Vegeta

    四月一日春空の陽気に暖められた空気が沈みゆく夕日と共に少しずつ冷えてきた頃。
    平和な地球で今日も今日とて修行に励んでいたサイヤ人の激しい組み手の攻防がようやく止まった。

    最後に振り抜いた交差する互いの拳が相手の頬を掠め、その下で牽制のように続けて前に出ていたもう一方の腕はそれなりの衝撃でぶつかり合ったままギチギチと競り合っている。
    その体勢のまましばし続いていた睨み合いは、不意に悟空の顔がへらりと崩れたのをきっかけに終わりを告げた。


    「今日はこのくらいにしねぇかベジータ?オラ、腹減っちまった…」

    「……チッ」


    空腹を訴える悟空へ舌打ちを返すベジータ。
    少々切りは悪かったのだが、傾き赤焼けを増す陽射しが目に入ったのと己の腹も少なからず悟空に同意を示していたこともあり、それ程間を空けず腕の力を抜いた。
    それを見た悟空が「へへっ」と笑って体を引けばベジータの体からも緊張が抜け、組み合っていた二人の影はするりと解け分かれた。


    「なあ、組み手すんの今度はいつにする?」

    「…貴様の都合がついたら知らせに来い。気が向いたら相手をしてやる」

    「えー、何だよそれ?おめぇの気分次第ってことか?」

    「フン、まあそういうことだな」


    そんなことを言っているベジータだが、それなりに農作業という名の仕事を抱えている悟空より自分の予定の方が調整しやすいだろうと考えての言である。ツンデレ属性特有の言葉の裏にある意味を読み取れず表面通り意味で受け取りちょっとがっくり来ている悟空だったが、ふと何かを思い出したように表情を変えた。
    おもむろにキョロキョロ周囲へ首を回しだす悟空にベジータが怪訝な視線を向ける。


    「何だいきなり?落ち着きのない野郎め」

    「んー、ちょっとな……」


    そして夕日が沈みゆく方向に見覚えのある山影を見つけた悟空はパッと表情を明るくした。


    「あ、やっぱりそうだ!ベジータ、まだ時間いいか?」

    「は?別に構わんが…」

    「じゃあちょっとオラに付き合えよ。良いもん見せてやるからさ」


    そう言うやいきなりベジータの腕を取り上空へ急浮上した悟空。突然の不意打ちに半ば無抵抗に引きずり上げられたベジータは重力のまま揺れる不安定な体を慌てて立て直す。


    「おい!?いきなりなにしやがるっ!」

    「早くしねぇと日が沈んじまうから飛ばすぞっ」

    「待てっ!腕を引っ張るなこの馬鹿っ!!」


    気を高めた悟空が今度は水平方向へ爆進をはじめ、再びバランスを崩すベジータ。己の手首を無遠慮にむんずと掴む馬鹿力に抗いつつ同じ速度での飛行が安定してきた頃合いでとある山頂近くの岩陰に辿り着いた。
    先程組み手をしていた所からそう離れていないそこは、崖のように反り立つ巨大な岩肌が間近に迫り鬱蒼と木々や蔦が生い茂る薄暗い場所である。何故わざわざこんな所へと思う間も無く、悟空が岩肌沿いにずんずん歩き出した。相変わらず掴まれたままの腕にいい加減嫌気が差したことも相まって、苛立ちのピークまであとわずかとなったベジータのデコに青筋が浮かび上がる。


    「カカロット!貴様、せめて目的が何かくらい説明しろ!あと、手を離せクソったれめっ!!」

    「まーまー、見たら分かるって。……お、みっけ!ベジータ、こっち!」

    「だから引っ張るな阿保!!」


    やいやい言いながら二人が足を踏み入れたのは、ぽっかり大きく開いた岩肌に入る亀裂の隙間だった。更に闇を増した暗がりに連れ込まれ警戒心を増すベジータだが、視界がおぼつかなくなった自分に対し迷いなく歩みを進める悟空の勝って知った様子に腕を振り解くのを止め渋々後に続く。このためにずっと手を離さなかったのだろうかとそんな思考が過ぎった矢先前方が明るくなっていることに気がついた。
    どうやら外へ繋がっているらしいその先が目的地らしいと察したベジータは、もう少しだけ辛抱してやろうと不満を垂れ流していた口を少しの間閉じることにする。静かになったベジータの態度が軟化したのを悟ったかどうか定かではないが、嗜める必要がなくなった悟空も喋らなくなり岩肌に囲まれた空間は二人分の足音が響くだけになった。


    そうしてやっと暗がりから抜け出た瞬間。ベジータは真っ先に目に飛び込んできた黄金色の強い光に目をやられた。
    眩んだ目を押さえ思わず俯いた顔をふわりと柔らかな風が撫でる。西側に面する此処は歩いて来た岩陰に比べ空気が暖かいままのようだ。


    「ベジータ」


    いつに間にか立ち止まっていたらしい悟空の「ほら、」という声に促され、顔を上げたベジータはそのまま呆けたように動きを停止した。
    そこにあったのは傾いた西日の陽光を浴びキラキラと輝く一本の大きな桜の木だった。枝が見えぬほど薄紅色の花をめいいっぱい茂らせ、気まぐれに流れる風に乗って揺れなびくそこから綿雪にように花びらが散り乱れ、その根元に広がっていたであろう若草色の草原は一面花の海に飲まれている。
    そんな幻想的にひらひらと舞う桜吹雪を背にして柔らかな笑みを浮かべている悟空にも金色の逆光が差し、何となく変身時のオーラに似ているなと取り留めのない考えが頭の片隅を流れていった。


    「ちょうど散り際のいい時に来れたみてぇだ。な?綺麗だろ?」

    「………貴様に花を愛でる趣味があるとは思いもしなかったぜ」

    「へ?花見くらいオラだってするぞ?」

    「どう考えても花より団子だろう。特にお前は。」

    「うーん、確かに花と団子並んでたら団子食うな……あ、やべ。腹減ってたの思い出した」


    うぐぐ、と腹をさする悟空に胡乱な目を向けるベジータ。呆れたように一つ息を吐くと改めて口を開いた。


    「で?何故わざわざ俺を此処に連れてきたんだ?」

    「何でって言われてもな…。オラたまにこの時期この桜見に来るんだけどよ。さっきここのこと思い出して、綺麗だし折角だからおめぇにも見せてやろうと思っただけだぞ?」

    「……貴様、俺様に花を愛でる趣味があると思うか?」

    「……そう言われりゃおめぇも団子食う方だと思うけどよ」


    確かに自分だって普段からそう頻繁に花を愛でたりするわけではないし、そこまで関心が強くわけでもない。それでも主に闘うことと食べることが中心でそれ以外は頓着しない自分の足が向くほど気に入っている場所なのだから、きっとベジータも気に入るだろう。と、そう悟空は思っていた。
    が。あからさまに喜ぶことは無いにしても、「悪くない」くらいの言葉は期待していたのに返ってきたのはこの渋顔である。
    この微妙な空気どうしたもんかと悩むことしばし。間を開けて悟空はようやく口を開いた。


    「実はな、ベジータ。この桜の木、こうやって手ぇ繋いで眺めた二人は離れられなくなって二度と元に戻れなくなるんだ。すげぇだろ?」


    そう言われ、表情を変えぬままチラリと繋がった腕に視線をやるベジータ。


    「………」


    バシッ!!

    彼は無言のまま瞬間的に気を高めると、事も無げに悟空の腕を振り払った。


    「あーっ!!」

    「おい貴様。今、何故そんなよくわからん嘘を吐いた…?」


    何が何でも手を掴んだままくっついて離れないフリをしようとしていた作戦が秒で終わりガックリ項垂れる悟空。
    一方、意味不明な悟空の言動に苛立ちを通り越し呆れの表情を浮かべるベジータはやっと開放された己の腕を解すように擦っている。


    「…別に。今日は嘘ついていい日だから適当に言ってみただけだ」

    「は…?」


    何やらいじけた様子の悟空へ何のことかと再度問い返そうとしたベジータの頭にふとあることが過り、開きかけていたその口が止まった。
    地球にはサイヤ人にとって理解出来ない意味不明な文化や風習が沢山存在する。コイツが言っているのはそのたぐいの物ではないか。そういえば今朝出掛け際に家人らがそんな話で盛り上がっていたような。確か嘘をついても咎められないだとか何とか。とにかく非常にどうでもいい日だった気がする。

    と、そこまで思考を辿ったところでベジータは改めて居心地悪そうにしている悟空を見やり、心の底からため息を吐いた。


    「……ガキか貴様は。」

    「ああ、もう言うなって!なし!今のなしっ!!忘れてくれっ!!」


    苦し紛れに絞り出した己の稚拙な嘘が今更ながら恥ずかしくなったのか、顔を伏せた悟空はぶんぶん両手を振りベジータから半歩距離をとる。
    そのあたふたと本気で狼狽えている様子がもの珍しく、悪戯心を刺激されたべジータ。うめいている悟空を眺めながら少し考え込んだ後、無表情のままおもむろに口を開いた。


    「この際だからはっきり言ってやる。俺は貴様のその馬鹿みたいなところが大嫌いだ。」

    「っっ!?」


    その台詞にがっつり頭を殴られた悟空は顔を引き攣らせビシリと硬直する。想像以上のダメージに持ち直すのに数秒時間をかけようやく開いた口から出たのはぎこちなく乾いた声だった。


    「は……ははっ…。そっか…いや、うん、………そうか……。」

    「……冗談だ阿保。」


    ずーんと重い空気を纏い出した悟空のあまりのガチ凹み具合に、もう少し遊ぶ予定だったベジータは内心ちょっと引きつつ早々に言葉を撤回する。
    一方返ってきたその言葉にキョトンと目を瞬かせ顔を上げた悟空。ニヤリと小馬鹿にした様子でこちらを見ているベジータと目が合うや揶揄われたことを悟った。


    「おめ、ひでぇぞ!オラ今本気で凹んじまったじゃねぇか!」

    「フン、今日は嘘をついていい日なんだろう?」

    「そうだけどっ………ん?嘘?」


    続けて言い返そうとした悟空だったが、はたと何かが引っかかり思わず反論が止まる。
    嘘?さっきベジータは何と言った?さっきの言葉が嘘だとしたらその反対は……?

    面を食らった顔で一時停止している悟空を尻目にベジータは淡々と言葉を続ける。


    「まあ、貴様が馬鹿なのは本当のことだがな」

    「え。……えっ!?」

    「さて。俺はもう帰る。ああ、そうだ。組み手をする都合がついたら知らせに来いと言ったが、当日にいきなり来るなよ?せめて前日までに連絡なり何なりしろ」

    「うん、それはわかったけど、ベジータさっきおめぇ…!」

    「それと。今度ここに来る時は団子でも何でもいいから食い物持ってこい。花にはあまり興味がないからな……じゃあなカカロット。」

    「あっ!!ちょ、待てよベジータ!!もっ回!!もう一回、初めからちゃんと言ってくれっ!!」


    そんなやり取りをしながら先に上空へ飛び去ったベジータを追いかけ悟空も地を蹴った。二人が飛び立った衝撃で草原を埋め尽くしていた花びらがひっくり返したスノードームのように桜の周囲を乱舞する。
    一時視界が不明瞭になる程舞い上がった花弁は再び徐々に下へと降り積もっていき、そのうち薄紅の絨毯がすっかり敷き直された頃には桜の木の真上に一番星がきらりと瞬いていた。
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