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    3iiRo27

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    ritk版深夜の60分一発勝負
    第六十五回 お題:「チョコ」「昔のお話」
    類にチョコを渡すことにした司。しかし、類は昔のある体験にトラウマがあるようで。
    司視点 片思い

    #類司
    Ruikasa
    #ワンドロ

    トラウマすら乗り越える、それの名は。いつもよりも寝るのが遅くなってしまい、目がしょぼしょぼする。

    目を覚ますためにゴシゴシと擦り、頬を叩いて気合をいれる。



    類に、オレの思いを、渡すんだ……!




    -------------------------------------





    2月14日。バレンタインデー。

    女の子が、男の子に愛を伝える日。





    なのだが。
    今、オレの鞄の中には、綺麗にラッピングされた、チョコレートがある。



    事の発端は、咲希が見せてくれた、雑誌のバレンタイン特集だった。

    なんでも、女性が男性にチョコを送るのは日本独自らしく。
    他の国では、男性から女性に花を送ることもある、と書かれていた。


    それを教えながら、類へのチョコレートを作らないかと、提案してくれたんだ。





    咲希には、オレが類に片思いをしていることは話しているし、何なら恋愛相談もしてもらっている。

    でも流石にまだ告白する勇気なんて持てないから、と断ったが、咲希は


    「外国でこういう風習があるから作ってきた、って言えばいいんじゃないかな?
    カモフラージュで寧々ちゃんやえむちゃんにも持っていけば、わからないよ!」


    そう、提案してくれて。






    確かに、ここでずっと燻っていても何も進展しないし。
    気づかれなくても、渡すくらいはしてもいいかもしれない。



    オレは、咲希の提案に乗って、チョコを作ることにした。






    -------------------------------------





    あふ、と口から漏れる欠伸を噛み締めながら、屋上に向かう。

    今日は脚本に関する意見が欲しいとお願いしていて、寧々も交えて屋上でお昼を食べることになっている。






    お昼ご飯と一緒に鞄に入っているそれを、そっと撫でる。

    咲希にも手伝ってもらいながら作ったのは、チョコのカップケーキだ。
    出来上がった中で特に見た目がいいものを選定し、慣れないラッピングも頑張った。

    ちなみにえむと寧々にはクッキーを作った。同じラッピングにしたから、渡してもきっとバレないだろう。



    あとはこれを、今日の練習後に渡せば、ミッションコンプリートだ……!




    そう意気込んで、屋上のドアを開けようと……








    「類、これ本当に捨てるの?」


    ……そんな寧々の言葉に、開けようとした手がピタリと止まった。




    「うん、どうやら手作りのようだしね」

    「いや、むしろ手作りだからこそ、食べた方がいいんじゃないの……?」

    「あー……寧々には話したことがなかったね。これは昔の話なんだけど……」











    「昔ね、手作りでもらったチョコで、食中毒になったことがあったんだ。それ以来、この手の手作りは苦手でね」




    ひゅ、と喉が鳴る。




    「あー……トラウマになっちゃったの?」

    「うん。そもそも甘いものをそんなに多く食べれないし、今年は全部断ることにしてるんだ」

    「……でも、例外はいるんでしょ」

    「勿論」




    2人が話すそんな会話を、頭の中でぐるぐると考える。



    苦手。全部断る。

    そんな選択肢があるなんて、考えていなかった。

    カバンの中に入っているチョコが、途端に重くなったように感じた。





    「……それにしても、司遅くない?」

    「ん?そうだね。そろそろ来てもいい頃だけど……」


    その言葉にハッとしながら、軽く深呼吸をして、ドアを開け放つ。





    「すまない!遅くなった!」

    「もう、遅い。股下3cmなの?」

    「まあまあ、それじゃ早速、話し合いを始めようか」

    「ああ!」




    何時も通り。

    オレはちゃんと、「何時も通り」にやれているだろうか?

    しくしくと痛む心を無視しながら、話し合いに集中した。






    -------------------------------------





    「……よし!今日の練習はこれで終了だ!お疲れ様!」

    「お疲れ様ー!」
    「お疲れ様」
    「お疲れ……はあ、疲れた……」



    あれから、暫くして。

    何時も通りの放課後になって。
    何時も通り、ショーの練習が始まって。
    そして、今終わった。

    きっと、何時も通りの日常だ。
    何も、変わりはなかっただろう。



    「司くーん!はい、これ!」

    「おお、ありがとな、えむ!……む?これは……バームクーヘン、か?」

    「うん!今年のバレンタインチョコ!類くんもどーぞ!」

    「おやおや。ふふ、ありがとう」



    ニコニコと笑ったえむから渡されたのは、チョコがけがされたバームクーヘンだった。
    高級店、といった風貌をしていて、見るからに美味しそうだ。



    「……はい。私からは、これ」

    「おお!……なんだ、これ?」

    「チョコ味のキャラメルなんだって。まあ、こういうのもいいでしょ?」

    「おお、始めて見たな!ありがとな、寧々」

    「はいはい、どう致しまして。はい、類も」

    「ふふ、ありがとう。寧々」



    2人とも、用意していたものを受け取ってもらえて、とても嬉しそうで。

    ……少しだけ、羨ましいと思ってしまうのを、見ないフリをした。







    「……司、くん?」

    「そうだ、2人共。オレからもあるんだ。受け取ってくれ」

    「……え?」

    「えええ!?司くんからも!?」



    驚く2人に、鞄から取り出した袋をそれぞれ差し出す。

    それぞれ受け取ってくれたが……なんだか寧々は、ちょっと焦っているように見える。



    「……?寧々、どうかしたか?」

    「な、なんでもない。というか、なんで司まで用意してるの」

    「いやな、咲希に「外国では男の人が渡すんだよ」と言われてな。それに触発されてオレも一緒に作ったんだ」







    「おや、なら僕の分もあるのかい?」

    「ああ、ほら。」










    そう言って類の手に乗せたのは。


    ……そこら辺で売っている、類がよく食べる、ラムネ菓子。





    「……おや、僕の分はないのかい……?よよよ……」

    「ええい、煩い!2人分しか考えてなかったんだ!これで我慢しろ!」










    嘘、だ。

    結局オレは、作ったそれを、類に渡さない選択を選んだ。




    結局渡したとしても、類にとっては食べれないものを渡されるようなものなのだ。

    そんなものを渡されても類は困るだけだろうし。




    これは結局は、オレの自己満足のようなものなのだ。

    それに、類を巻き込むわけには、いかない。






    でも、一応何か言われるだろうなと思って、ラムネを買っておいて正解だった。

    文句を言う類を宥め、チョコ渡しで忘れていた片付けを始めるよう、促す。





    訝しげにこちらを見る、寧々に気づかずに。






    -------------------------------------




    「司」

    「……ん?寧々?どうした?」


    連れ立って倉庫に向かう途中、寧々が恐る恐る話しかけてきた。




    「……司はさ、本当に類の分、忘れたわけ?」

    「それ、は……」

    「私は……司は、そういうの忘れないと思ってるんだけど」

    「いや、オレだって、忘れることくらい、」








    「本当に?」





    ……寧々の、真剣な顔に、何も言えなくなる。

    1つ、ため息を零す。
    オレは、こういう目に弱いな。





    「……寧々の、言う通りだ。類の分も、ちゃんと持ってきている」

    「じゃあ、なんで……」

    「……食べられないものをもらっても、困るだけだろう」

    「食べられないものって……っまさか」

    ハッとした寧々に、苦笑しながら告げる。











    「……すまない。聞いていたんだ。手作りが食べられないのを。だから、渡せない」










    「で、でもっ!」

    「いいんだ。これは、オレが類の好みを把握していなかったのが悪いから。さ、片付けよう」



    明らかに先ほどよりも焦っている寧々の言葉を遮って、片付けを再開する。











    寧々にだけでも、渡せなかったこと、言えてよかったな。




    そう思っていたオレは、気付かなかった。

    寧々がどうして、あんなに焦っていたか、なんて。






    -------------------------------------





    「……よし。いないな」



    片付けが終わったオレが控え室に行くと、そこには類はもういなかった。

    片付けが終わり次第各自帰るようにと伝えていたし、帰ったのだろう。



    類のロッカーも確認して鞄がないことを見てから、そっと自分の鞄を開く。





    ……咲希には、今日渡すと言ってしまったし。

    処分をするなら、ここしかない。



    綺麗にラッピングされた包みを、そっと開く。

    綺麗にできたチョコカップケーキが、作った時と同じ状態で、鎮座していた。




    やるせない気持ちをぐっと堪え、カップケーキの1つを手に取る。











    オレが、ちゃんと確認しなかったのが悪いんだ。

    オレが、こんな気持ちを、少しでも伝えようなんて思ったのが、悪いんだ。




    ……だから、オレの視界が、どこかぼやけるのも。
    オレの手に、何かが落ちてくるのも。

    きっと、気のせいだ。





    そう思いながら、手にしたそれを、口に運んで……























    バタン!!!!





    壊れるんじゃないかと思うくらい、勢いよく扉が開く。


    食べようとした体勢をそのままにそちらに目を向けると。

    見知った、紫色が、ぼやけた視界でもわかった。





    -------------------------------------






    「……るい?」

    現実が受け止められず、呆然としながら、名前を呼ぶ。

    扉の方にいたであろう紫色は、足早にオレの方に近づき、目元を拭ってくれた。



    ……そこにいたのは、間違いなく、類だった。






    「……なん、で……」

    「……寧々から、聞いた。僕の分も、ちゃんと用意してたって」

    「あ……いや、でもそれは……」



    手作りだから、と言おうとしたオレの手を取り。

    がぶりと、オレの手に持ったそれに、かぶりついた。




    「る、るるるるるい!?」

    慌てるオレを尻目に、口元についた食べかすを拭いながら、真剣な顔でオレを見つめる。




    「……確かに、手作りは苦手だよ。でも、」










    「司くんが僕のために作ってくれたものを、無碍になんてしたくない」




    言葉が、出ない。

    はくはくと口を開くオレを尻目に、類はもう一口、それを齧る。
    そして。





    「……ん、美味しい。ありがとう、司くん」


    「……ど……どう、致し、まして……」






    類は、残ってるカップケーキも全部受け取ってくれて。

    残りは家でゆっくり食べるよと、笑ってくれて。





    本当は、オレも気持ちが篭っているんだとか、色々言いたいことはあったけれど。

    受け取って、食べてくれた嬉しさで、どうでもよくなってしまった。





    オレの、バレンタイン大作戦は、こうして幕を閉じた。

































    幕を閉じたと思っていた、オレのバレンタイン大作戦は。

    えむと寧々によるチョコの感想によって、類だけ違うものを渡していたをバレてしまい。



    そこから、泣いていた理由や、渡したものに込めた意味と共に、お互いに思いを告白することになるのだが。


    それはまた、別のお話。
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