「お前たち以上にお似合いの2人はいないんだから」「ね、天馬くん。これ、受け取ってくれるよね??」
にっこりと、有無を言わせないといった笑顔で、きっぱりという女性。
その傍で、手に手紙を持ったまま、オロオロとオレと女性を交互に見る、大人しめの女性。
そして、そんな2人に逃げ道を塞がれ、2人の圧を一心に受けている、オレ。
本当に、どうしてこうなってしまったのかと、内心溜息をついてしまった。
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「なあ天馬、どう思うー?」
そのきっかけは、あまりにも単純だった。
クラスメイトの話題。自然な形で振られたそれに、ただ回答しただけだった。
「何がだ?」
「あ、聞いてなかったか。わりいわりい。
よく告白の手段としてラブレターって使われるけど、天馬はそれどう思うのかなって思ってさ」
その言葉に、オレはすぐさま答えた。
「あまり好きではないな」
「お、天馬は否定派なんだ?」
「否定、というものなのかはわからんが」
「告白するのであれば、ちゃんと面と向かってしてほしいだけだ。
自分の気持ちが纏まらないのであれば手紙を書いてもいいが、目の前で読み上げてほしいと思ってな」
「うわー、なかなか難易度高いこと要求するなそれ」
「ん?そうか?」
「結構恥ずかしいと思うぞ、それ」
そう苦笑する彼らに、オレはそうなのかと内心思っていた。
あまりラブレターを書く人の心境は理解できないが、彼らがそういうのであれば
オレの考えは珍しいということなんだな。
そんな風に、人の心境をまた1つ学べたと、そう考えていた。
オレの後ろで、あることが始まっていたことに、気づかずに。
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溜息を殺しながら、改めて見据える。
大人しい彼女がオレのことを好きだと言ってくれたのは、予想外ではあるが、嬉しかった。
問題は、先ほどから押し付けてくる彼女だ。
彼女はクラスで世話焼き女なんて言われているそうだが、押しつけがましく、人が不要だと言ってもやってくる。
世話焼きどころか、お節介女だ。なんて、クラスでは言われていた。
どうも話を聞いた限り、ラブレターを受け付けないと聞いてショックを受けた彼女に対し、これも世話の一貫と言って焚きつけ、無理やりオレにラブレターを受け取らせようとしたようだ。
でも一向にオレが受け取らないのを見て、彼女がイライラしているのがわかる。
先ほどからオレの言葉を遮って、ただ受け取ればいいと繰り返しているのだ。
それには、ラブレターを持った彼女もドン引きしていた。
オレ自身、まさかあの時の会話がここに繋がるとは思わなかった。
だから呼び出された時も、すぐ終わると思って類を先にフェニランに向かわせたというのに。
「ちょっと!いい加減なんか言いなさいよ!?」
ドン、と突き飛ばしながらいう彼女に、オレは溜息をつきつつ、口を開いた。
「オレはずっと受け取らないと言っているぞ。何度も言うが、いかなる理由があっても受け取ることはできない。何故なら」
「司くんは僕のものだからね」
突然響いた第三者の声よりも、オレは腕を引っ張られたことにびっくりした。
うわ、と声を上げながら引っ張られた方向に倒れるオレを、類の広い胸で受け止められる。
「悪いけど、司くんは君たちのものなんかにならないから。お引き取り願うよ」
表情は見えないものの、かなり怖い顔だったのだろう。
顔を上げて2人の様子を見ると、どちらも青ざめた様子だった。
類は、そんな2人を放っておいて、ズンズンと進んでいく。
オレは、類に引っ張られながらも、後ろを向いて2人に言いたかったことを言った。
「そういうことだ!オレは類のものだし、類はオレのものだ!すまんが諦めてくれ!」
オレのその言葉に、片や青ざめて、片や真っ赤になって怒っていて。
でも、そんな姿も、類の嬉しそうな笑顔を見たら、何とも思わなかった。
彼女達を傷つけたのかもしれないが、それも恋だ。
今は、好きと伝えてくれる彼に、最大限の感謝と愛の言葉を伝えよう。
そう思いながら、そっと握っていた手の指を複雑に絡めた。
その後。
憤慨していたお節介彼女によって、これらの話はクラスの皆に広められることになってしまったが。
先生含め、皆が自然に受け入れてくれ。
なんだかんだお似合いの2人と、沢山の祝福を受けて。
嬉し涙を流すまで、あと。