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    やはづ

    @ywzbg76

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    やはづ

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    タイトル通りのビリグレです。
    ふたりが幸せならOKです。的な人向けかもしれません。ハピエンとメリバの中間くらいです。

    共依存 エレベーターを降りて、少し薄暗い照明の灯る廊下を歩く。こつ、こつ。やけにはっきり、靴音がしじまの中に響いた。外はもう日が落ちていて、真っ暗だった。こんなつもりじゃなかったんだケド。予定では、もっと早くに帰宅するつもりだった。せっかくの、オフの日だったから。
     少し、脚の歩幅を緩めた。目的の場所へと近づくたびに、心臓の動きが早まる。なんて説明しよう。説明も何も、情報屋の仕事で手こずっただけだ。そうやって遅くなることは、今までにも何度もあったことだから。多分、同居人はビリーに怪我はないか、おろおろと確かめて、無事であると分かると胸を撫で下ろす。ただ、それだけ。
     ハニーを一瞥すると、時刻は二十時。日付が変わるまで、まだ時間はあるとはいえ。本当は、夕方には帰ってくるつもりだったのだ。一応、帰りが遅くなることは電話で伝えたから、心配は要らないと思うけれど。すぐ戻るからね。出かけるとき、面差しに寂しさを含ませた大切な恋人に対して、嘘をついてしまったことになるのが、何よりも嫌だった。
     かつん。靴の裏と地面とが、ぶつかる。その音を皮切りに、ビリーは扉の正面に身体を向けた。重い、鉄の扉。ポケットから鍵を取り出して、慎重に差し込んで、回す。馴染んだ解錠音。良かった、鍵は閉まったままだった。でも、まだ。ビリーは浅い息を吐きながら、やおら取っ手に手をかけた。
     ぎい。ドアを開ける。玄関の明かりは消えていて、暗い。でも、その奥のリビングに繋がる扉の磨りガラスから、光が漏れている。息を吸って、吐く。今度は、深く、深く。心臓はぎゅう、と締めつけるように音を立てていた。玄関の扉が閉まる。しばらくして、ビリーは、小さく、確かめるように、でも、廊下の向こうの部屋にもどうか聞こえているように。ただいま。少しだけ、掠れた声を出した。
    「おかえり、ビリーくん」
     かち。明かりを点けられる。そうして、耳心地の良い声が、ビリーを迎えた。グレイ。早足にこちらへ向かってくる彼の姿にやっと安堵して、ビリーは後ろ手に鍵を掛けた。ただいま。もう一度、今度は目の前に立つグレイに向けて、はっきりと伝えた。それから、遅くなってごめんね。とも。
     グレイはビリーの様子を数秒窺って、怪我などおかしなところが無いか確認した。それから、ビリーが本当に、ただ仕事が滞っていただけだったとわかると、僅かに張り詰めていた表情を緩めた。
    「お風呂、洗ってあるよ。シャワー浴びる?」
    「うん、そうする。グレイは?」
    「あ、えっと――今日ずっと、ゲームしてたから」
     まだ、らしい。ゲームをしていたというのも、本当のことなんだろうな。じゃあ、一緒に入る? いたずらっぽく笑みを見せると、グレイはわかりやすく動揺した。でも、ためらったのは、一瞬。
    「一緒に、入りたいな……」
     今度はビリーが瞠目する。それから、口角が上がる。落ち着きを取り戻したはずの心臓が、また別の意味を持って心拍を早めた。

     ハニーと、ゴーグルと、鍵をリビングのテーブルに置いて。手袋はゴミ箱へ捨てる。それから、グレイが待つシャワールームへと向かった。グレイはまだ服を着たままだった。脱がしてあげようか? 煽るような眼差しを向ける。グレイは視線をあちこち漂わせてから、こくり。ひとつ頷いた。
    「エッ。い、いいの?」
    「へっ? もしかして、今の、冗談だった……!? ビリーくんが嫌なら、自分で脱ぐね……」
     すんなりと受け入れたグレイに驚いて、思わずしり込む。確かめるように、もう一度訊ねてしまった。すると、それが悪かったのか、グレイは少し赤らめていた頬をサッと青くさせて、服の裾を掴んだ。まって、待って! ビリーはやにわにグレイの腕を捉える。
    「冗談じゃないから」
     グレイの白い手の甲に、直接自らの手のひらを重ねる。肌の表面は冷たい。互いの温度が交じりあって、だんだん同じくらいの体温に変わっていく。服の裾を握ったままだったグレイの指を、ビリーは親指の腹で丁寧に撫で付けた。だから、ネ。離して。上半身の距離を詰めて、グレイの耳元で囁く。ぴく、と身体を揺らして、グレイは指の力を弛めた。ビリーは、しわが残った布を今度は自分の手で掴んで、そのままたくしあげた。


    「ワオ! 美味しそう♡ グレイ、ありがと」
     時計の針は九を指していた。先に食べててくれて、良かったのに。ビリーはぽつんと呟いて、それからカトラリーを持ち、グレイの作ってくれた食事に手をつけた。ビリーくんと一緒に、食べたかったから。続いて、グレイも食べ始めた。グレイが微笑むと、美味しいご飯ももっと美味しくなったような気になる。
    「そういえば……卵切らしてたから、また明日買いに行かなくちゃ」
    「そうだったの? 買って帰ってこればよかったナ〜。グレイも、教えてくれたら良かったのにぃ」
     なんてことのない話。いつも通りの会話。明日の朝、フレンチトーストが食べたいと思ってたんだけど。まあ、いいか。それより、グレイが電話で伝えてくれなかったことに気が差した。上目遣いに様子を見る。
    「ビリーくんに、早く帰ってきて欲しかったから」
     目が合わない。グレイは俯き加減に、言葉を紡いだ。寂しそうな、少し恨みがましいような、そんな色も含まれている。
    「……チョット、怒ってる?」
    「……、少しだけ」
     やっぱり。それはそうだ。本来ならば、今日はビリーもずっと家にいるつもりだったのだから。たまのふたり重なった休日だった。一日中お家で過ごそうと、そう誘ったのはビリーだ。グレイも嬉しそうにしていたし、実際に心地の良いオフを楽しんでいた。午前中までは。

     午後に差し掛かったところで、ハニーから着信音が鳴った。今日一日中、情報屋の仕事は全て断っていた。だから、突然かかってきた電話には驚いた。もちろん、断ろうとしていた。実際に断りを入れた後、緊急なのだと、被せ気味に相手は言った。お得意先であることと、挙げられた好条件に、ビリーはしぶしぶ受ける他なくなってしまった。そんなに時間は掛からなさそうだったし、割のいい仕事だったから。事情を話すと、グレイは頷いてくれた。
     すぐ、戻るからね。黄色みがかった薄茶色の瞳が、悲しそうに揺れていた。扉が閉ざされるまで、ビリーはじっとそれを見つめていた。冷たい扉にそっと耳を当てて、向こう側にいるグレイがリビングに戻るのを待った。足音は聞こえなくても、金属のぶつかり合う音が高く響いていた。それが小さくなったところで、外側から鍵を掛ける。がちゃん。重たい施錠音。ビリーが手に持っている鍵は、二つあった。この扉の鍵と、あともうひとつ。家の鍵よりも、小ぶりなものだった。グレイの右足首にはめられている、足枷の鍵。どちらも、しっかりと鍵を掛けておいたから、大丈夫。自分に言い聞かせた。グレイは、逃げない。
     グレイが悲しそうだったから、早く帰りたい。と言うよりも、ビリーが不安でたまらなかったから、帰りたかった。ハニーの画面に浮かぶ隠しカメラの映像には、グレイがゲームする姿を始終捉えていた。それでも、心臓は握りつぶされたように痛む。この目で、実際に、グレイが家にずっと居ることを確認しなければ。どうにも落ち着かなかった。心ここに在らず。そんなふうにしていたら、ヘマをした。直ぐに終わるはずの仕事が、長引いて、結局帰るのは夜になってしまった。
     卵を切らしていた。今日、朝食を作ったのはビリーだ。目玉焼きを二つ、それから、ベーコンも焼いた。こんがりとしたきつね色のパンと共に机に並べて、グレイと一緒に食卓を囲んだ。今日は何をしようか。借りてきた映画を観ようか、それとも録画したドラマを観ようか。二人で遊ぶゲームをプレイするのもいいかもしれない。そんな話をしていた。卵のパックが空になったことは、気づいていたけれど、話さなかった。今日一日、ずっと家で過ごす約束をしていたから。
     だから、外に出たついでに買って帰ろうと思っていたのだ。結局早く帰りたくて、やめてしまったけれど。グレイがもし、ビリーがいない間に、一人で買い物に出かけてしまっていたら? そう考えるだけで、ビリーは胸の底が浮ついたような、そんな不安定な気持ちがふつふつと頭を支配して、余裕なんか消え去ってしまった。ずっと、家の中に居ててね。そう言って、朝、鍵を掛けた。足枷からのびる細い鎖を撫でて、グレイは笑っていた。それでも、ビリーは気掛かりだった。

     ビリーは、フォークをそっと置いた。グレイ。俯く恋人に、そっと声を掛ける。いつもの、優しくて、穏やかな、柔らかいかんばせとは違う。悲しみや恐れや恨みも含んだ、複雑な表情が、ビリーを窺う。ずっとここに居てくれて、ありがとう。謝るよりも、お礼を言うのがいいな、と思った。じゃら。金属が擦れる音。グレイが脚を揺らした。
    「早く帰ってきて欲しいって、思ってくれてたのがすっごく嬉しい」
    「あ、当たり前だよ……ビリーくんが帰ってこないんじゃないかって思うと、すごく、嫌だった」
     不安にさせてごめん。やっぱり、謝ってしまった。いいよ、帰ってきてくれたから。愁眉を開くグレイは、もう気にしないとでもいうように、食べ物を口に運んだ。


     時刻は零時。日付が変わった。ふたりの休日はお終い。明日から、また暫くはいつもの日常に戻る。ベッドの上で、ビリーはグレイの足枷を外した。痛くなかった? 問うても、グレイはいつも通り、ううん。首を横に振る。
     肌に当たる部分は柔らかい素材で出来ているものの、一日中締め付けられる不快感は拭えないはずだ。それでも、いつも、足枷をはめて、鍵を掛けられる瞬間。グレイは幸せそうに、目を細める。リビングの机に繋がれているだけのこの鎖は、家の中を歩き回れるくらい、長さは十分にあった。でも、着けている間は、扉が閉まらないから、風呂にも入れない。やっかいな拘束だった。シャワーを浴びる時は、一度外さなくてはならない。グレイが風呂に入っていなかったのは、ゲームで時間を忘れていたからではない。ビリーが居ないから、枷が外せず入れなかった。それだけのことだ。
     朝八時から、夜の零時。予定していた時間。ビリーがグレイを縛る、そう決めた時間。なのに、時間が過ぎて、グレイの自由になった脚を見て、ビリーはまた、胸の奥がざわざわと逆撫でされるような、そんな気持ちに陥った。

     軟禁していいかと、グレイに提案した。これは、随分前のことだ。二人でこの家住むことになって、少し経った日のこと。
     それよりも、もう、ずっと前から、ビリーはグレイのことを閉じ込めたくて仕方がなかった。元々閉鎖的だった交流が、だんだんと崩れていく。知り合いが増えて、グレイは楽しそうにしていて。
     ──最初の壁さえ壊せれば、グレイはきっと誰とでも仲良くなれる
     そう言ったのは、他でもないビリー自身だ。実際に、そうだった。グレイはだんだんと、周りと打ち解けて、みんなと仲良くなっていった。ルーキー研修も終わり、プロヒーローとして活躍するようになった今なんて、最初の頃とは比べものにならないほど交友関係は増えた。グレイにとって、バディを除く初めての友だちは、ビリーだ。だから、友だちであるビリーは、グレイがみんなと仲良くなることが、誰よりも、何よりも誇らしく、嬉しいことだった。
     でも。ルーキーの頃から。ずっと、モヤモヤ、ぐるぐる。暗くて、汚くて、どろどろした、そんな苦しくて重い感情が、ビリーの心の奥の方で、渦を巻いていた。こんなの、良くない。分かっていても、グレイの他へ向ける笑顔を目に入れる度に、腹の底からふつふつと、その感情が顔を覗かせた。我慢はした方だ。三年耐えた。四年目になって、研修チームの部屋を出て、二人で暮らそうと誘って。ふたりきりの、誰にも邪魔されない、そんな平和で、綺麗で、穏やかな、小さな箱で共に過ごすようになって。ビリーはとうとう、抑えきれなくなった。
    「グレイのこと、閉じ込めちゃいたい」
     腹の底から湧き上がって、喉を通って、舌から転がり落ちた。ビリーは、その仄暗いなにかに気づいて、慌てて口を抑えた。でも、遅い。それをしっかりと聞き終えたグレイは、ビリーの鈴の張った目とは反対に、ゆっくりと三日月に歪めて、笑っていた。
    「僕も、ビリーくんのこと。ずっと独り占めしたいなって、思ってたんだ」
     そうして、ふたりの軟禁生活が始まった。とは言え、ヒーロー活動を辞めるわけにはいかない。ビリーは情報屋の仕事だってある。相手を縛りたくても、ずっと閉じ込めておくのは厳しい。だから、自由である休日にのみ、縛りをかけるようにした。それも、時間を決めて。時間をきっちりと決めるようにしたのは、そうでもしなければ、ビリーはいつか休日という制約を破ってまで、グレイのことを縛ってしまうと思ったから。つまり、この決まりは、保険に過ぎなかった。

     ふたりして休日が重なる、貴重な一日だった。これが、どういう意味を示すか。今日は、ビリーとグレイが、お互いに軟禁し合う日だった。ビリーはグレイに足枷をはめて、グレイはビリーの時間を拘束した。一日中一緒にいよう。グレイはビリーに、言葉で縛りをかけた。結局、ビリーは外に出ることで、グレイの繫縛を解いて、離れてしまったけれど。
    「本当に、本当にごめんね、グレイ」
     もう、何度も口にした言葉だ。それでも、申し訳なくて、それから、ビリーが守れなかった縛りを、グレイの方は今日一日守っていてくれたことが、何よりも嬉しくて。ビリーは澄んだ青の眼で、グレイを見つめた。
    「さっきも、言ったけど……ビリーくんが、帰ってきてくれて。それだけで、嬉しいんだよ。僕のこと、ずっと考えてくれてたんでしょう」
     何度も、首を縦に振る。当然だ。グレイのことを考えないときなんて、もう、ビリーには無かった。それほどに、グレイというひとりの人間に、心をゆるして、そして底の方へと沈んでしまっていた。それはきっと、グレイも同じ。自分たちは、お互いに、底なしの渇求の沼へと、自ら溺れていった。
     もう、約束の時間は過ぎてしまったから。拘束のための道具は使えないけれど。グレイのことを手放したくないと思って、ビリーはグレイの背に手をまわして、きつく抱きしめた。
     ビリーくん。耳元で、水面に雫が落ちるみたいな、そんな静かな音。穏やかで、でも含まれた感情は大きい、胸の底が疼くような、心地良い声だった。グレイがそっと身を引く。ハグは、イヤ? ビリーは眉を下げて、腕の拘束をゆっくりと解いた。ううん、そうじゃなくて……。グレイが言い淀む。なにか、ビリーに望むことでもあるのだろうか。俺に出来ることなら、何でもするよ。約束を破ってしまった、その贖罪として。
     シーツに置かれた恋人の左手に、己の右手を重ねた。指の腹に当たった、でこぼこした感触。指の隙間から見えるのは、鈍く光ったプラチナ。一緒に暮らし始めたとき、ビリーが渡した指輪だ。グレイはずっと外さずに、つけてくれている。もちろん、ビリーも外したことはない。本当は、これだけでよかった。ずっと傍に居られるのであれば、本当に。
     そう、心の中で思って、それから、自嘲した。その考えは、お互いのスマホにつけられた鳩のオーナメントが、すでに間違いだと否定していた。それこそ、本当に、それだけで良かったはずだったのに。ずっと仲良しでいられるのであれば、不安も何もなかった。ずっと、友だちでいられるのであれば、グレイを縛ることなんて、なかった。はずだったのに。
     友だち同士の綺麗な約束は、いつしか恋も含めるようになって、やがて歪んだ愛を形成した。指輪を渡して、恋人としても縛りをかけた。グレイに、誰よりも、ビリーのことを想っていて欲しかったから。そうして今、それだけでは飽き足らず、お互いに、お互いを拘束している。心から、身体まで。全てを。
    「……明日、ビリーくんってお昼から?」
    「ウン。グレイは確か、夕方からだったっけ」
     ハニーにも、そしてビリーの頭の中にも、くっきり、はっきりと、グレイのスケジュールは刻まれていた。惚けたように言ってみせる自分が、なんだか滑稽に思える。どれもこれも全部、グレイには格好つけていたいからだ。余裕があるように、見せていたかった。多分、男としての、変なプライド。
    「じゃあ……まだ、朝はゆっくりしていられるよね」
     相手に問いかける、というよりは、独り言みたいな声だった。そうだネ。確かにグレイの言う通り、朝はのんびり過ごすつもりだったので、一応頷いてみせる。ふふ。ゆったりとした、柔らかい笑い声。花がやわ風に揺らぐみたいな、その雰囲気。こういう、大人っぽい、それでいてあどけない様にも見える綺麗な面差しが、ビリーの心を焦らせていた。なんだか、すっごく、余裕があるみたいで。
     かちゃん。ビリーが、ぐるぐると思考を巡らせているうち、手元で小さな音が響いた。えっ? 視線を落とす。ビリーの右手と、グレイの左手。その手首には、それぞれ手錠が掛けられて、繋がっていた。
    「帰ってきてくれて、嬉しかったけど。でもやっぱり、寂しかったから……」
     朝まで、ずっと繋がってたいな。グレイは、ビリーに掛けた玩具の手錠を、とろんとした瞳に映していた。ビリーは、その蕩けた眼を視界に入れた途端、肌の表面がぶわっと震えて、粟立つ感覚を覚えた。背筋にはぞくぞくと電流が走ったみたいに微弱な刺激が襲って、身体中に熱がまわる。咥内には唾液が溜まって、渇きを潤すためにか、興奮を飲み込むためにか、喉がごくりと音を立てた。心臓は早鐘を打ち、ぎゅう、と苦しいくらいに締め付けられた。目鼻の奥はつん、と熱くなって、口端はつりあがるのを抑えきれなかった。
     ああ、なんだ。やっぱり、グレイも、余裕なんてないんだ。薄い、飴細工よりもずっと脆い、そんな理性が、崩れかけていく。抑えが効かない。やっぱり、もう二度と、この小さな世界から、出られないようにしてあげたい。ふたり、こうやって、お互いのことを愛しくてたまらないなら。それでもいいんじゃないかと、心の底から思った。
    「ビリーくん、大好き」
     グレイの柔くて、温かい、優しい声が耳朶に響いた。繋がっていない、自由な右腕で、ビリーの身体を抱きしめる。崩れかけた倫理観が、引き戻される。優しくて、どうしようもなく愛おしい友だちを、恋人を。完全に縛りつけて、閉じ込めておくのは、やはり間違っているような気概にもなった。
    「俺も、大好きだよ。グレイ」
     真っ直ぐに想いを返すと、グレイは腕の拘束を強めた。そうして、ビリーはふっと息を弛めた。無理に縛って、永遠に閉じ込めなくても。グレイはきっと、自由なままでも、自らビリーのところへ戻ってくるし、離れることもない。重苦しい愛を向けられて、ビリーはようやっと安心する。
     かしゃ。ビリーはグレイを抱きしめ返そうとして、片手が繋ぎとめられていたことを思い出した。グレイは本当に、やさしくて、やさしくて。それでいてひどい男だ。諦めて、自由な左腕だけをそっと、グレイの薄い背中へとまわした。
     こんな玩具の手錠、マジックが得意なビリーに、外せないわけがなかった。一瞬のうちにするりと、ついでにグレイの手首に繋げられたそれすらも、簡単に外してしまう。グレイはそれをわかっていた。そして、その上で、ビリーに手錠をかけた。
     ビリーは絶対に、グレイの元を離れようとしないと。それを分かった上で、緩やかに、穏やかに、縛りつけて。愛しい恋人は、ビリーが自ら、グレイの方へときつく縛られていくのを、静かに、ただその美しい目を細めて、じっと見守っていた。
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    Replies from the creator

    recommended works

    かも🦆

    DONEモブグレ(ビリグレ 前提)

    無料100連で🧁星4ヒーロー出なかったらモブグレ書くという約束をした結果です。(ちなみに星4出ました)(矛盾)
    フォロワーさんから【薬入れられる系のモブグレ】という設定を頂きましたのでそちらを書いてみました。
    健全パートはこちらに流します。
    それ以降(R18)を含めた完結品はpixivの方に後ほどあげるのでよろしくお願いします〜。
    《今日はグレイと一緒にパトロールだったヨ!とっても優しい僕ちんだからみんなに可愛いグレイをおすそ分けしちゃう〜

    #隠し撮りgotcha♪
    #後でもう一人の子に怒られちゃった
    #その子についてはナイショ♡》


    《ん〜、デートの約束は忘れちゃったのかナ

    #ほっぺつんつんしても起きないヨ
    #バディのモノマネしたら抱きつかれちゃった
    #オイラも寝るネGood night♪》






    カシャ。
    うん、とてもいい写真だ。
    まあ撮ったのは僕じゃなくてアイツだけど。
    スクリーンショットをしたグレイくんの画像を印刷し、僕の作ったアルバムに入れる。
    (あぁ…最高だ)










    事の発端は、つい1か月前に僕が財布を落としたことだ。
    気づいた時には膨らんでいたはずのズボンのぽっけが萎んでいて、どうしようと1人で焦っているときだった。

    「あ、あの…」
    「はぁ?」
    「ひっ…す、すみません…探しているものって、これ…ですか?」
    「っ!それです!」

    必死に探している時に声をかけられ
    つい声を荒げてしまったから
    声をかけてくれた彼…そう、グレイくんを怯えさせてしまった。
    今となっては当時の自分を 3479