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    やはづ

    @ywzbg76

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    やはづ

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    両片思いのビリグレ
    こっからもだもだしてなんやかんやあって両思いになる自カプみたいなあと思ったから書きたい、書きます

     ベルベットのギフトケース。グレイの髪と似たネイビーの色が、箱の曲線を辿って濃淡を見せるのがつややかだった。触感は違っていて、グレイはもっと癖があって、ただ撫でて素直に毛先の方向が変わるほど素直な髪はしていなかった。
     そんなふうに呑気なことを考えていられるのは。ただ、ビリーがこの場に置かれている状況が飲み込めておらず、できるだけ現実を放棄してしまいたいと無意識に思っていたからだった。
     どうしてグレイがこのようなものを所持していて、そして、同居人のビリーも行き来するこの部屋で、堂々と自身の机の上に分かりやすく放置してしまっているのか。外したゴーグルが右手から滑り落ちそうになるのに気づいて、やっとビリーは明らかな"グレイのプレゼント"から一旦目をそらすことが出来た。
     ゴーグルを子脇に抱えて、手袋は外さないまま、慎重に。今度は両の手でケースに触れた。持ち上げる。どう考えても安物では無い重量に息を飲む。コレ、貰ったやつ? それとも、渡すやつ? わからない。なら、確かめるしかない。
     グレイは友だちだ。ビリーにとって初めての友だち。家に上がったことも、唯一の家族である父に会わせたことも、何もかもが初めての、大切な友人。だから、この行為には少々胸が痛む。ただ、ビリーは、それと同時にミリオンが誇る情報屋だった。友だちが持ってる、ちょっとお高そうなアクセサリー。そんなの、この目で確かめなければソンだ。
    「……ワァオ」
     シルバーの、細いチェーン。真ん中を飾るのは、それまたシンプルなリング。リングネックレスだ。これって。
    「指輪、だよネ?」
     銀色に光る小さな輪は、恐らくプラチナ製では無いみたいだった。とはいえ光沢が眩しい。指紋ひとつないそれを手に取るか迷って、流石に辞めておいた。ホルダーが付いているわけでは無いが、リングの形からすると指にはまりそうなシンプルな輪っかのデザインだった。誰かからのプレゼントだろうか。
     誰かからのプレゼントならば。少々疑問が残る。グレイに渡すためのリングネックレスだ。それなら、この指輪はもっとグレイに相応しい大きさでないといけない。これでは小さすぎて、グレイどころかビリーの指にも、というかそもそも、成人の男の指であればほとんどの人がはめられないくらいのサイズだった。確かにヒーローという職業だし、グレイは職務中大抵グローブを着けているから、指輪をはめても周りに牽制が出来ないだろうと判断してのリングネックレスのチョイスなのかもしれない。そういった可能性も、なくはなかった。でも。
     ビリーは今、確信している。これは誰かからの、グレイへのプレゼントでは無いということを。
     ベルベットの重たい蓋を開いた時、ヒラヒラと机の上に一枚の紙切れが落ちた。裏返しのそれを折り曲げないよう慎重に捲る。……ああ、やっぱり。
     名刺サイズのカードは、ネックレスの保証書ではなかった。引っくり返したその紙には、何も書かれていない。ただ、橙に彩られた多種の花々を背景とした、メッセージカードだった。
     控えめなデザインのアクセサリーに、まだ何も手を加えられていないメッセージカード、なんて。こんなの、こんなの。どう考えたって、誰が見たって、グレイが渡したがっている、誰かに対するプレゼントに決まっていた。
     ビリーは努めて静かに鼻から息を吐き出す。チリすら入り込まないように、そんな気持ちを込めて、カードごとそのまま蓋を閉めた。最初の位置から何も違和感の無いように、慎重に箱を机に置く。誰もいない部屋で、足音を立てないように自室のスペースに歩を進めた。
     ビリーがハンモックに身を沈めて数分後、グレイは慌ただしく部屋に戻ってきた。思わず目を瞑って狸寝入りをした。
    「び、ビリーくん……?」
     ただいまよりも先に、ビリーが寝ているか否かの確認をされた。何も反応しない。ごく自然に、口を少しだけ開いて、規則正しく鼻から息を吸って、吐く。
     グレイはビリーの寝顔を様子見したあと、ぱたぱたと自室のスペースに向かった。コトン。机の上にあったあの箱を持ち上げる音。少しして、どこかの引き出しにそれをしまい込んだ。きっと、写真立ての置かれた棚の、何段目かだろう。ビリーの部屋側からはよく見えない、グレイが誰かから貰ったり、思い出のものだったり、大事なものをしまう場所。
     ずき。分かりやすく心臓が痛むのが辛い。締め付けられる感覚に目尻が熱くなる。なんで心臓が痛くなるのか、どうして涙が滲むのか、分かってしまうことの方が苦しかった。
     あのネックレスはただのプレゼントなんかじゃない。特別な感情を含んだ、グレイが悩みに悩んで選んで、メッセージカードに何を書くかすら迷うほどの重たい気持ちが込められたような、好いた相手への贈り物だ。
     そしてそれは、ビリー相手に向けられたものじゃないことも。
     グレイは友だちだ。ビリーにとって初めての友だち。アイスを分けて食べるだけのことに涙まじりに感動し、買ってきたカップケーキを渡しただけでこんなにも幸せだと頬を綻ばせるような、素直で可愛い、大事な友だち。なのに、
     グレイが自分以外の誰かにプレゼントをあげることを、どうしても素直に応援してあげられる気はしなかった。
     だって、ビリーは、友だちであるグレイに恋をしてしまった、愚かな男であったから。
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