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    やはづ

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    やはづ

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    ビリグレWebオンリー「はじめての恋人」にて無配している8p折本小説の本文です。

    BOOTHにてPDFの無償ダウンロード配布、ネットプリントにて配布(別途印刷代が掛かります)してます。
    https://profcard.info/u/sC14h6FQDjZMCuSwAsHFWySo3tu2

    正しい距離のはかりかた 友だちの距離感って、どのくらいなんだろう。肩を抱くのは友好の証、ハイタッチは挨拶で、もちろん握手もする。ついでのように手を繋いで歩くし、寒かったら腕だって組む。
     躊躇わなかった。向こうは。それは、ビリーくんのことだから。きっと慣れているんだろう。人よりも少し綺麗好きな彼だけれど、いつも、ちゃんと手袋をしているし、それに、直接肌に触れるわけじゃ、ないから。
     ハグは喜びを分かち合うのに必要なことで、鼻同士擦り合わせることも、友だちならよくあること、なんて笑って言われる。それから、頬にキスをされるのだって。おはようと、いってきますと、ただいまと、おやすみと。オイラたち、仲良しだもんネ。三日月の湖が揺らぐ。ゴーグルを隔てない蒼色が、ひどく眩しかった。
     手が触れる、それから、ついでのように繋がれる。触れ合わされた手のひらが熱く、じっとりと汗ばんでいる。今まであったはずの黒い手袋は、一体どこに行ってしまったんだろう。グレイに触れていない時は、ちゃんとビリーの手元にぴったりと戻ってきていて、それが少し、いや、かなり安心して、グレイはビリーにバレないように、そっと肺いっぱいに酸素を取り込んで、それから、音を立てないように息を洩らす。
     どうか、その整った爪が覆う白い指先が、グレイの元から離れてしまっているときには、たった一枚の布の壁で、何もかもを防いでいて欲しい。いつからかグレイは、心の底から願うように、祈るようになってしまった。
     友だちって、いったい、なに? わからなくなる。分からなくなるけど、グレイの昔からの、大切な友だちのことを思い出した。バディ。バディとは、勢いよく飛びつかれたときにはハグをしてる。それから、お手もするから、これは、手を繋ぐことにカウントされるのかな。グレイが美味しいものを食べたあとや、横になって寝ている時、あとは、バディに何か嬉しいことがあったとき。よく鼻と鼻をくっつけたり、顔を舐めてくれたりすることもあるから、やっぱり、こういうのも、友だちの距離感として、合っているのかもしれない。
     正しいなら、いいのかもしれない。正しいから。このままでも、問題ないのかも。
     ──問題があるのは、グレイの方だった。
     友だちの距離感なのか。これらは。ビリーにとって、ぜんぶ、全部。……こんな、こんなにも、距離が近すぎる、のに?
     じゃあビリーは、グレイが顔を熱くさせて、心臓をうるさく鳴らして、指先を震えさせているような、この「友だち」たる行為を、ずっと正しいと思って、グレイと接しているのか。それから、グレイだけじゃなくて、他の──ううん。やっぱり、想像するのは、やめた。
     近づかれるのは嬉しい。触ってもらえるのも嬉しい。それから、近づくことが出来るのも、触れることが出来るのも。友だちだから。友だちだと、ビリーくんとこうやって、ずっと一緒にいられる。
     メンターが居ない夜、共用スペースの広いソファで、ぴったりくっついて映画を観てくれるのは、どうして。ああ、でも、弟もたしか、友だちを連れてきてお泊まりで鑑賞会をしていたことがあったはずだ。
     オフの日が被ったとき、一緒にどこかへ遊びに行くことをデートって呼んでくれるのは、どうして。そういえば、妹も女の子の友だちとデートに行くのだとお洒落をして出かけることがあったんだっけ。
     『友だち』と、『友だちじゃない』が、頭の中で勝手に揺らいでる。身勝手だった。ビリーくんは、きっと、僕みたいなことは考えてないから。ビリーくんは、『友だち』の好きを持ってる。グレイは、もう長いこと、『友だちじゃない』好きも、ビリーに対して抱いていた。



     距離が、近い。何とか息を殺して、相手になるべく聞こえないようにする。呼吸の音が聞こえるほどの距離は、すごく恥ずかしい。左肩が熱くて仕方ない。どうしてこの並びで座っちゃったんだろ。下手したら、心臓の音がバレちゃうんじゃないかって、心配になる。指先は震えそうで、でも手元が狂ったら、ゲームに負ける。ビリーくんが見てくれている手前、そんなヘマはしたくなかった。唾を飲みこみかけて、でもその音がビリーくんに聞かれたら、緊張してるってことがバレちゃう。そんなの恥ずかしい。我慢する。耐えられなくなって、やっぱり飲み込んだ。結構、大きい音がした。唾を飲み込んだ後の、鼻から洩れる息の音で、絶対にバレたってわかる。恥ずかしくて目を伏せた。伏せたら、ゲームの中の自分が倒れた。
    「──あちゃあ、惜しかったネ、グレイ」
     でもすっごく強かった、さすが〜! カラッと笑う目顔に、緊張はひとつも滲んでなかった。それどころか、のぼせ気味のグレイの首筋を通って、右肩にビリーの腕が伸びる。肩を抱かれる。身体が跳ねてしまいそうになるのを、必死に抑えた。
    「ちょっと、緊張しちゃって……せっかくビリーくんが見ててくれたのに」
    「相手も強かったもんね。ていうか、俺っち席詰めすぎ? 手元あんま自由に動かせなかったかな」
     そんなことないよ。談話室のカウンター席、仕切られた一席分の机の前に、椅子が二つ。たしかに距離は近かったけど、手はちゃんと動かせてた。ただちょっと、手汗が滲んで端末は滑りやすかったけど。
    「オイラ、グレイがゲームしてるの好きだからさ、つい夢中になっちゃった」
     耳朶に響いた声が熱い。いつものコロコロ跳ねる音じゃなくて、静かに、じんわり染みてくそれに、頭の中がビリーくんでいっぱいになった。身体と身体とが、くっついてる。顔と顔の、距離も、近すぎる。音にもならない声が出そうで、喉の奥が震えてる。ゲームで勝ったわけでもないのに、ちかちか、視界が明るくなる。
    「……緊張してるの、オイラのせい?」
    「えっ」
     短い眉毛が、ちょこんと垂れる。困った顔、してる。
    「友だちなのに、こんなにくっついてるのは、ダメ?」
     ダメじゃない、って、言えない。声が出ない。そのまま、右肩と首を覆う熱が、ビリーの腕が、するりと解けていく。待って、
    「だめ」
     ビリーの手を掴む。ふたりの部屋じゃないのに、ビリーの手袋は外されている。いつの間に。こまった、困ったけど、でも、良い。ゲームをやるからって、自分も革手袋を机の端に置いておいたことを思い出す。やっぱり、だめ、手汗が滲んでる、汚いかも。
    「ぐれい、」
    「と、『友だち』だと、だめ。『友だちじゃない』、なら……」
     自信がなくなる。勢いのまま、全部言っちゃえばよかったのに。それが出来なくて、俯いた。どうしよう、ビリーくんは、僕と同じ気持ちじゃないかもしれないのに──
    「良いの?」
     手の、指と指の合間。熱がぴったし、ハマるみたいに、お互いの指が絡んだ。思わず顔を上げた。熱い。熱いんだけど、ちょっと冷たくも感じる。ビリーの指先は、冷たかった。それと、手のひらには、手汗が滲んでるから、たぶん、それもある。でもこれ、僕のだけじゃない、きっと、ビリーくんも、同じなんだ。だって、ビリーくん、顔、赤い。
    「いい、よ」
     『友だち』だとダメだけど、『友だちじゃない』なら。この繋ぎ方は、この距離は、間違ってない。わからなかったはずの答えが、今、はっきりとわかった。
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