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    わかば

    @wakabatteru
    ビリグレがすきな社会人

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    わかば

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    ビリグレが氷菓を食べるはなし

    ふたつにわけあうアイスの話はきっとだれかが書いてくれる……

    #ビリグレ
    bigotry
    ##ビリグレ

    Yes granita 時刻、13:40
     気温、36℃

     ここ連日、グリーンイーストは猛暑に見舞われていた。
     照りつける直射日光が容赦なくじりじりと肌を熱し、建物の壁や窓に跳ね返った強い光が周囲を一段ほど明るくさせ、眩しさに目が焼かれて視界が変な色になっている。
     上空からだけではなく、地面からも絶えず熱が立ちのぼり、逃げ場を失った熱は、多くの人間が活動するであろう高度を茹だらせていた。

     少しずつ、思考する力が溶解をはじめる。
     黒い髪であることも起因していそうだ、頭があつい。こころの内側に存在するもうひとりの自分は、犬や猫が暑さで床に伏すようにして、ぐったりと伸びている気がする──。

     一瞬、めまいがした。

     はっとしてまばたきを繰り返す。
     危険だ。
     このままでは、今現在、共にパトロールをしている彼が熱中症になってしまう。
     その恐ろしい事態を危惧し、グレイは隣を歩くビリーを見やり、声をかけた。

    「ビリーくん、大丈夫……?具合わるくなってたり、してない……?」

    「ぅ、ん……大丈夫、だけど……あつ……やっぱもうダメ……」

    「ぁつい、ね……少し、休憩しよう……」

     首まわりをびっしょりと汗で濡らしたビリーにひと休みすることを提案し、グレイは木陰に在るベンチの上へ綺麗なハンカチを敷いて、そこにビリーを座らせた。

    「もう、グレイってば……だいすき……」

    「っぴゃ!?ぇゃ、だ、だってあの、土埃とかを手で払ったくらいではちょっと……ぁぅ……ぼ、ぼくも、すき」

    「オイラ愛されてる~!」

     えへへ、と笑顔を浮かべるビリーの隣にグレイも腰かけ、先程までの茹だるような暑さとの違いに驚く。此処が木陰というだけで、こうも温度に差が出るとは。
     小さく息をついて、熱中症対策にと持参していた塩分が摂取できるタブレットを取り出そうとしたところで、「あ!」とビリーが声をあげた。

    「ビリーくん……?」

    「グレイちょ~っとだけ待ってて!俺っちあそこで買いたいものある~!」

     突如立ち上がって小走りで場を後にするビリーに、もしよかったらビリーくんも、と個包装のタブレットを勧めようと考えていたグレイは少しばかり肩を落とす。
     緑、白、赤のイタリア国旗をモチーフとしたかわいらしい装飾が施された店が視線の先に見え、ビリーはそこへ向かっていたらしく、自動ドアをくぐって店内へと入っていった。

     およそ5分と経たぬうち、自動ドアが開いて、紙袋を持ったビリーが再び小走りでグレイのもとへと戻ってくる。

    「たっだいま~!グレイ~!」

    「おかえり、ビリーくん」

    「えへへ、グレイこれ一緒にたべよ!」

    「……?」

     スプーンと、色鮮やかな何かが入った透明なカップを紙袋から出して、「レモンとオレンジ、どっちがいい?」とビリーが問う。

    「オレンジ……かな」

    「じゃあ僕ちんレモン~!」

     受け取ったそれはひんやりと冷たく、カップにはいくつもの水滴が浮かんでいた。
     オレンジのみずみずしい香りと、橙いろの砕けた氷が輝いていて、まるで宝石のようで、隣に座ってスプーンを手に顔をほころばせるだいすきな彼の髪いろにすこし似ている気がして、グレイの頬がゆるむ。

    「グレ~イ!はやく食べないと溶けちゃうヨ!」

    「はわわ……!ご、ごめん……!ありがとうね、ビリーくん、いただきます」

     少々食べるのがもったいなく感じ始めていたグレイのことはお見通しだったのだろうか、ビリーがわらってグレイが手に持つそれを指差し、グレイは慌てて、ざく、とスプーンの先をカップの中に入れた。

     ひとさじ掬って、口にふくむ。

    「……!わあ……!おいしい……!」

     砕けた氷の粒が舌のうえで溶け、さっぱりとしたあまさと、オレンジの酸味が口のなかいっぱいにひろがって、火照ったからだを冷ましていく。
     まさに生き返るような心地だ。

    「ん~!オイラのもおいし~!!」

     ざく、ざく、と氷の感触を楽しみながら、口のなかへ何度もスプーンを運ぶ。
     オイラにもオレンジ味ちょうだい!あーんして!とねだるビリーの口もとへ、この砕けた氷菓を掬ったスプーンを近づければ、ビリーはうれしそうにそれをひとくち。その様子がかわいくて、少し胸がどきりとして、グレイの耳があつくなる。

    「オレンジもおいしい~!」

    「ふふっ、ところでこれ、なんていうスイーツなの?」

     少し溶け始めたがおいしさをまったく失わないこの氷菓は、以前ウィルと話した際に話題に上がった、削った氷にシロップをかける『かき氷』とも違う気がする。

    「ンフフ~何だとおもう?」

    「えっ?うぅーん……?」

     おそらく違うだろうとわかりつつ、今先ほど思い浮かんだ氷菓の名前を出した。

    「かき氷……?」

    「惜しいけどちょっと違うカナ!」

    「うーん、他に思いつかないや……」

    「OKOK!これはね~!グラニータ!だよ!」

    「ぐらにーた……?」

    「Yes!granita!イタリアのシチリア発祥、フルーツのシロップを凍らせてその氷を砕いた、夏にぴったりのデザートで~す!」

    「わぁ……!ビリーくん物知りなんだね……!」

     情報屋であるビリーは、世界の数あるスイーツにも、それを取り扱うお店にも詳しい。
     さらには、グラニータが生まれた背景や、本場の食べ方も。

     ブリオッシュ、というパンにグラニータを挟んで食べるとおいしい、浸して食べるのもおいしい等、ビリーが披露する知識を夢中で聴きながらグラニータを食べ進めていると、もうカップの中は溶けたオレンジのシロップが少し残るだけになってしまった。
     腕時計を確認すると、思っていたよりも針が進んでいて、そろそろ休憩を終え、パトロールに戻らなければならない時間となっていた。

     グレイの眉尻が、下がる。

     とてもおいしかった。
     あまくて、氷の細かい粒がすばらしい涼を運んでくれて、ビリーの髪いろを彷彿とさせる、鮮やかな色を宿したオレンジの爽やかさがたまらなくて。
     くわえて、ビリーの話はとても興味深く、引き込まれてしまって、歴史的な知識を得たことや、他のメジャーなフレーバーを教えてもらえたことで、グラニータがもっとおいしく感じられた。

     もっと、二人でこうしていたい。もっとビリーの話を聞いていたい、と。
     グレイは寂しさを覚えながら、

    「ほんとにありがとうビリーくん、すごくおいしかったよ、……ッ!?」

     そろそろ戻ろうか。と、そう続くはずだった言葉はビリーの唇によって塞がれ、音になることはなかった。

    「へぁっ、あのっ!びりーくんっ!?」

    「ンッフフ!そ~んな寂しそうな顔しないでヨ、部屋に帰ってからもまた一緒に居られるんだから、ね!」

    「ぁぅぅ……」

     グレイは両手で顔を覆う。
     寂しい気持ちがビリーには筒抜けであったことも恥ずかしい。にししと笑うビリーの八重歯に胸が激しく動悸を繰り返して顔が火照る。

     そして、何より、
     だいすきなビリーから不意打ちで受けたキスは、グラニータの、あまずっぱい、みずみずしいレモンの香りがふわりと伝わって。

    「さてさて~!充分涼んだことだし!お仕事戻りましょ~っと!」

     脳内がぐるぐると大変なことになっているグレイの様子を、いたずらが成功した子供のようにわらって、ビリーは先に歩きだしてしまった。




     ──こ、こんなにドキドキしたままパトロールに戻るなんて、できるかな…………!?


     ──
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    「明日は…朝からパトロールか、寝なきゃ…」

    以前、寝不足で体調を崩してからは睡眠時間の確保に気を使うようになった。
    とはいえ、今日は少し遅くなってしまったなとグレイは心の中で小さな反省をした。
    このままネガティブな気持ちになってしまうのも良くない、とルームメイトであり恋人でもあるオレンジ髪の彼によく言われているため、気持ちを切り替えて、その彼に一言声をかけてから寝よう、と隣の整理整頓された部屋をちらっと見てみる。
    すると、彼は既にベッドに横たわっていた。
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    (今日は疲れちゃったのかな…)

    実を言うと、グレイはあまり彼、もといビリーの寝顔を見たことがなかった。
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