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    五十歳になった司類

    お題「真紅の怒りをまといしお茶」
    15分トレーニング 17 ※作業時間1H

    2990文字(所要時間約6分)

    #司類
    TsukasaRui
    ##司類

    「類、お前も呑むか?」
    「……ああ、最初から赤ワインなんて、珍しいねぇ」
    「うむ。これなら、呑みやすそうだしな」
    「司くんは本当、食べ物に詳しくなったよねぇ」

     海に沈む夕日を眺めていた。しっかりと、この景色を忘れないように。
     爽やかに流れる海風が涼しい。
     まだ、夏は始まったばかりだ。薄いYシャツだけではこの老体に応えるかと思ったが、思っていた以上に今日は天候がよく、むしろ少しばかり汗ばむような、そんな行楽日和の一日だった。

     類が、このヴィラのバルコニーに一人佇んでいる間、共にこの場所へ来ていた司は、いそいそと二人夕涼みをする準備をしていたようだ。
     彼の、年なりに少しかすれた声に振り返り、その方を見てやると、そこには備え付けられた真っ白なソファテーブルの中央に、先程二人で買ってきたワインと、色とりどりのフルーツが並べられているのだった。

    「ディナーまではあと二時間もある。少し、この場所で休むぞ」

     先に座っている司は、同じくキッチンから持ってきたらしいフルーツナイフで丁寧にオレンジを剥いていた。彼は相変わらず料理がうまい。五十を超えて、未だに料理という物を覚えてこなかった類にとって彼のそんな手さばきは、まるで魔法を使っているかのように見えるのだった。

    「司くん、ありがとう」

     そんな彼を見つめたままで、斜向いのソファに座る。じっとりと、深く落ちてゆく自身の体。その疲労度の強さに、これまでの時を思った。今日、神代類は五十歳の大台を超えた。五十年。せわしなく、ひどく短い月日であった。もっと、もっとこのまま世界が続いてほしい。そう思う日も次第に強くなってきた頃だ。

     類は高校を出た後、舞台演出を学ぶべく芸大へ進んだ。その活動を認められ、流れるように舞台演出家としての経歴を積んできた。在学中より新生の演出家として見初められ、卒業後からは第一線の裏方として。二十、三十は記憶がなくなる程働いた。海外へ出向き、舞台演出を更に磨き上げ、ようやく息をついたと思えたのが四十も半ばであった。五十となり、半世紀を生きてもまだ類を求める人々の声は絶えない。これからも、自身は演出へ身を注いで生きていくのだろう。今はまだ、そう思っている。

    「どうした? 皮肉なお前らしくもないな」
    「そうかい? ……僕は、キミの前では素直だと思っているけれど」
    「うーむ。そんなことがあったか?」

     目の前の司とは、高校の時からの仲だった。共に舞台を作り上げ、技術を競い合ってきた好敵手であって、そして、長らく関係を続けてきた恋人同士でもあった。初め、彼から想いを告げられて断り続けていた頃が懐かしい。何度も告白されて、ついに類が折れたのは高校卒業の日だった。それから、二人の関係はつかず離れず続いていく。二十代・三十代はお互いに忙しく、会うことのない日々があった。舞台演出家、そしてスター俳優へと上り詰めていった彼らには、お互い以上に目指したいものが強くあったのだ。

    「ふふ、昔はもっと、尖っていたけどねぇ」
    「……まぁ、少しは丸くなったのかもな」

     軽くため息をつきながら、司はワイングラスをこちらに寄せた。慣れた様子で注がれていく真紅の酒だ。キラキラと赤い夕日に反射して、よりその美しさを保っている。類はそのまま引き寄せる。すると、芳醇なフルーツの香りが鼻孔にふわりと駆け抜ける。吸い寄せられるように一口その味を頬張ると、爽やかな、けれど心を落ち着かせてくれるような、肌に染み込んでくる甘い苦味が口いっぱいに広がるのであった。

    「美味しいお酒だね」
    「類は、甘い酒も好きだったな」
    「お酒の趣味だと、司くんの方が辛党だよね」
    「まぁな」

     そう言いながら、司も類と同じように酒を飲み込んだ。なめらかにグラスを傾けて、類よりも多めに口に含んでいく。あっという間にそれらを飲み込んでしまったかと思えば、再び、自分でおかわりを注いでいる。

    「ふふ、喉でも乾いていたのかい?」
    「……ああ。今日は結構、動いたからな」
    「うん。買い物も、観劇もしたからね。明日はヨットまで手配しているんだっけ。僕達、そんなに動ける体だったかい?」

     茶化してやると、ははは、と彼は軽く笑うのだ。類より先に、彼も五十代に入ってはいたが、相変わらず愛嬌のある顔つきは変わらない。類よりも、元より運動に長けた性格であったからなのか、少しばかり筋肉質で、貫禄がついたような気もしている。

    「できるなら類とは、色々なことを楽しみたいからな」

     しみじみと彼は言う。そうなのだ。こうやって、二人、会える時はそう多くない。
     恋人同士とは言え、目指すものの多かった二人であった。俄然、お互いに優先すべきは仕事の方であり、だからこそお互いに、成功を収められたというのもあるのではあるが。

     恋人となり、しかし何も変わらない日々が何十年も続いていた。えむや寧々、それから他の同年代の者たちが少しずつ変化をしていったとしても、彼らの生活は何ら変わらなかった。二人が恋仲であることを世間に公表したのも三十に入ってからで、けれどお互いにしがらみを残したくなかったせいで、パートナー協定を結ぶことをしなかったのだ。

     けれど、世界は少しずつ変わっていく。前年、類は過労に倒れ、数週間の入院を余儀なくされた。もう五十も近い。精神がどれだけ若くとも、体の方がついてこれなくなっていた。ここがセカイなら――彼らが若かった頃、バーチャル・シンガーのミク達と会っていたあの場所であったとしたら、もしかしたらいつまでも動き回る事ができるのではないかと考えた事がある。けれど、それも二人がお互いの想いを叶えたその時に、彼らは役割を全うしたとばかりにセカイごと消えてしまったのだ。淡い青春の思い出のように、彼らは心の中にだけいる。たまに、思い出して会いたくもなる。そんな時、司とその思い出を話すのが、類の楽しみの一つになってもしまっているのだが。

     ただ、世界が変わったとしても良いことはあったのだ。世間の流れが少しずつ大きく変わっていたおかげで、つい前年、同性同士でも籍を結べるようになった。実を言うと、類の本当の名前は今、『神代』ではなく『天馬』だった。芸名としては元の物を使っていたが、日々の生活ではそのくすぐったい姓を名乗っている。この年にして、何だか慣れない気持ちがあるというのも不思議であった。けれど、楽しい。彼と共にいることができれば、類はいつだってそんな浮ついた気持ちにもなるのだった。

    「……色々な事、ねぇ。でも司くんとは、もう結構二人で遊んだ気もするけどね」
    「ああ。だが、足りないな。お前だってそうだろう? 演出だけじゃない。俺は、お前ともっと一緒にいたい」

     ストレートな言葉を、それもまっすぐにこちらを見つめながら言われる。相変わらずの司くんであった。けれど、彼のそういうまっすぐなところは、ストレートに類の心に響いてきてしまう。

    「ふふ、そうだね。明日も楽しみにしているよ」
    「ああ。期待していてくれ!」

     お互い、同じタイミングでグラスに残されたワインを飲み込んだ。再び香る、芳醇な果実の香り。まるで、これまでの人生を味わっているかのような充実した時間であった。
     静かな波の音。暮れる夕暮れに照らされた二人の体。けれどまだまだお互いには夢があり、燃えるような赤い気持ちが消えていないことが幸せだった。




    [20210414]
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    TRAINING司の作るカリカリベーコン

    お題「嘘の夜風」
    15分トレーニング 20

    1372文字(所要時間約3分)
    妙に気だるい朝だった。目を開き、辺りを見渡すが照準が合わない。もぞもぞと動いてみるが、肩と腰が妙にぎくしゃくと軋んでいる。
     類は、元より低血圧である。だから起きがけの気分は大抵最悪なのではあるが、今日のそれはいつもの最悪ともまた違う、変な運動をした後のような気だるさがあるのだった。

    「類、起きたのか?」

     まだ起ききっていない頭の片隅を、くぐもった通る声が聞こえてくる。司の声。どこから声をかけてきているのか。それに、妙な雑音が彼の言葉に混じって聞こえ、よくよくその場所を判別できなくなった。

    「……起きてるよ、たぶんね」

     重い体を何とか起こしてみる。体に巻き付いているシーツがいつもと違う。自室にあるソファに投げ捨てられているシーツでも、家の中にあるベッドとも違う、少し手触りの良い物だ。それに、類は今、何も身につけていなかった。
     布団を通り抜け、ひやりとした風が入り込んでくる。少し回復してき思考が回り始めてからようやく、昨日、司の家に泊まったのだと思い出すのだった。

     司は、大学に入ってから一人暮らしを始めた。類はそんな彼の現状を甘んじて受け止めて、よくよく彼の家に泊まるよ 1422

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    たまぞう

    DONE先にポイピクに載せます。
    日曜になったら支部に載せます。
    将参のお話。この間のとはセカイは別になります。
    ちょっと痛いシーンがありますがそこまで酷くないです。
    寧々ちゃんが森の民として出ますが友情出演です。
    最初と最後に出ます。
    何でもいい人向けです。
    将校は参謀と同じ痛みを感じて(物理的)生きたいというよく分からないお話ですね。
    誤字脱字は見逃してください。それではどうぞ。
    将参(友情出演寧々)「ねぇ、その首の傷痕どうしたの?」
    「っ、っっ!?」

    仕事の休憩中に紅茶を飲んでいた時のこと。
    正面の窓から現れた少女に私は驚き、口に含んでいた紅茶を吹き出しそうになった。

    「っ、ごほ…っ、げほっ、ぅ………。来ていたのですか…?」
    「うん。将校に用事があって……というか呼ばれて」
    「将校殿に?」

    森の民である緑髪の少女ーーー寧々は眉を顰めながら、私の首をじっと見つめている。そこには何かに噛み千切られたような痕があった。

    あの日のことを話そうか、少し迷っている自分がいて。
    どうしようかと目線を泳がせていると、寧々が強い力で机を叩く。

    「ほら!話して!」
    「………わっ…!わかり、ました」








    あまりの気迫に押された私はぽつりと語り始めた。
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