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    猫の日なので過去作再掲(加筆修正ver)
    猟師呂蒙が行き倒れチェシャ猫甘寧を拾った後の話

    Lost Forest 2 呂蒙は決して、一斉に飛び立つ鳥達の群れだとか、タイミングを見計らったかのように止んだ雨だとか、小屋を開けた途端襲ってきた旋風だとかに驚いたわけではなかった。
     ただ、件の化け猫が木からふらりと身を投じた瞬間、無謀にも受け止めようと咄嗟に走り出していた己の行動に、何よりも驚いていた。



    Lost Forest 2



     毎日、森の中の小屋に通っては、眠れる森の化け猫に世話を焼く。このイレギュラーな生活も、すでに一週間が経とうとしていた。
     昨日ぶりに二匹の猟犬を伴ってやって来た呂蒙が異変に気がついたのは、丁度小屋の前に着いた時だった。
     やけに静かな森の空気に、突然止んだ雨。小屋に向かって低く唸る猟犬達が決定打だ。
     一週間前の己の行動が吉と出るか、凶と出るか。結果が分かる時がついに来たようだ。
    「………いくぞ」
    深呼吸して、ゆっくりと扉の取手を掴む。猟犬達は依然、牙を剥き出しにして威嚇していた。
    「うわっ!?」
     呂蒙が一気に扉を引いたと同時、凄まじい旋風が小屋の中から飛び出してきた。表現に間違いはない。何度でも言う。小屋の中から、旋風が、飛び出してきた。
     強烈な旋風はあっという間に頬を掠めて通り抜けていった。呂蒙は咄嗟に顔を覆ったが、風が触れた箇所は擦り傷を負った時のようにぴりぴりと痺れた。
     周囲の木々から葉を掠め取り、巻き込み、辺りを散らかしまわる旋風。冬にはまだ早いというのに、一帯の木々という木々から葉がなくなってしまった。
     好き放題に暴れた旋風は、最後に小屋の前の大木を激しく身震いさせ、一本の枝に留まった。
     猟犬達は一向に吠えることをやめない。大木に向かって吠え続けている。犬達だけではない。ここ一帯の木で羽を休めていたのだろう鳥達は、ギャアギャアと耳障りな鳴き声を残して、一斉に飛び立ってしまった。
     予感はあった。ささやかながら平和だったこの森に、この不穏な空気を伴ってやってきた元凶とも呼ぶべき存在が。
    「そこに、いるのか?」
     呂蒙がそう問いかけると、ざわめき立っていた森の中が不意に静まり返った。旋風の元である件の存在が、やっと姿を現す気になったらしい。
     吹き荒れていた旋風が、ふわりと穏やかな風へと変わった。巻き込んでいた木の葉が、はらはら散ってゆく。
     風の壁が消え去ると目に映ったのは、金色の髪と大きな耳。意思の強い切れ長の瞳と、不敵に歪む口元。
     一週間前に拾った迷い猫は、自分を仰ぎ見る呂蒙と、そのそばで吠え立てる犬達をちらりと眺めると、ふんっと鼻を鳴らした。
    「そいつの為に大騒ぎしてんのか知らねぇが……そりゃあ、逆効果だ」
     にんまりと笑いながら、猫の目がすうっと細まる。
     獣の目だ。
     獣の要素が残る耳や手足、尻尾を除けば、人間とそう大差ない形をとる獣人。だが、人の血が混ざっているとは思えないほど、この存在からは獣のにおいしかしない。
     人の形をした獣を前にして、呂蒙は自身が身震いしていることに、ようやく気づいた。
     今にも食ってかかりそうな勢いで唸っていたはずの猟犬達も、尻尾を丸めてじりじりと後退している。
     完全にこの場を掌握した猫は、怯える二匹の姿を満足そうに眺め、舌舐めずりをした。
     このまま黙って見ているわけにはいかない。
     呂蒙は気を抜くと動かなくなってしまいそうな自身の足を叱咤して、睨み合う獣達の間に割って入った。
    「あんたは話が分かりそうだな?」
    「ああ、分かりあおう。分かりあうためにも、その物騒なものはしまってもらおうか」
    「物騒? その点は、お互い様じゃねぇのか?」
     猫は呂蒙が携えていた猟銃に視線を送る。呂蒙は猫から目をそらすことなく、猟銃を地面に置いた。
    「よしよし、いい子だな」
     満足そうに笑う猫から、思いもよらない言葉をかけられ、呂蒙はたじろいだ。
     思っていた反応と違ったのか、猫は不思議そうな顔で疑問符を浮かべている。
    「動物を褒める時、みんなこう言うだろ?」
    「……猫に褒められたのははじめてでな」
    「そりゃあよかった。おめでとう」
     物騒な気配はなりを潜め、猫は足を組んで大木の上に座り込んだ。
     ぎらつく獣の視線から一変、何にでも興味を示す子どものような瞳が爛々と輝いていた。先程の値踏みするような視線とは別の意味で、大層居心地が悪い。
     得体が知れないことに変わりはないが、どうやら危機的状況からは脱したようだ。
     呂蒙がほっと息を吐いたのも束の間。再度、大木を見上げた時だった。
    「は………?」
     猫は突然、大木の上からふらりと身を投げた。
     ここで話は冒頭に戻る。
     まだこんな瞬発力が残っていたのか。
     気づけば駆け出していた己の体を、呂蒙はどこか他人の体のように感じていた。
     そもそも、ただの猫じゃない。この高さを、あの大きさの猫が、降ってくるのだ。受け止める側ももちろんただでは済まない。
     分かっている。分かってはいる。頭では十分。
     けれども、早く早くと急く足は一向に止まる気配を見せない。猫まっしぐらだ。
     あと少しで地面に激突するというところで、呂蒙の体は猫の落下地点目掛けて頭から滑り込んでいた。
    「上手く形が保てねぇ」
     来たる衝撃に備え反射的に目を瞑っていた呂蒙は、半ば放心状態で固まっていた。
     うつ伏せになって倒れ込む自身の真上から聞こえた声は、件の化け猫のものに違いない。背にのしかかられている気配もある。なのに重いわけでも、ましてや軽いわけでもない。質量が伴わないのだ。
     ここで、呂蒙は猫を拾った一週間前のことを思い出した。電灯のように点いたり消えたりする猫を、なんとか引き摺って小屋に連れていった時のことを。
    (そうだった。こいつは、重さが……)
     いらぬ心配だった。呂蒙が起き上がろうとすると、それは唐突に襲ってきた。
    「化け猫め………重さまで変えられるのか?」
     文字通り尻に敷かれ、勿論不満ではあった。しかし、背中にずしりと乗りかかった図体通りの重さは、不思議と呂蒙を安堵させた。
    「猫に重さは必要ねぇのさ。俺はあんたが望んだ重さになったまでだぜ」
    「ならばもう一度、空気のように軽くなってくれ。この重さでは、小屋まで運ぶには骨が折れる」
    「注文が多いのは、猫の特権のはずなんだけどな?」
    「……特例区域ということにしておけ」
    「なるほど」
     呂蒙が適当に返したことに、素直に頷いた猫はぐるるとひと鳴きし、今度は重さどころか、姿形も消してみせた。
     またか。呂蒙が唖然としていると、視界の隅にちらつくものがある。小屋の中から手招きするように、太く長い獣の尾がゆらゆらと揺れていた。
    「重さはともかく、急に消えたり現れたりするのはやめてくれないか。心臓に悪い」
    「あんたが空気のようになれって言うから」
    「まさか例え話を現実に出来るとは思わんだろうが」
    「特例区域、なんだろ? ま、そういうこともあるんだろうよ」
     猫は大きな耳と尻尾以外を消して、追いかけてきた呂蒙を迎えた。ついでに、先程の適当な法螺話を引き合いに出され、為す術もない。
    「それ……ここに連れて来るまでにも、随分と苦労させられたんだが」
     苦し紛れに恨み言を呟く呂蒙に、猫はさも当然であるかのように言った。
    「そこにあると思うからいけねぇんだ。空を掴む。猫を掴む時はそう思った方がいいぜ」
    「つまり、いかれた化け猫などここにはおらず、ないものを掴むつもりで扱え…と?」
    「そういうこった」
     頭が痛い。先程から展開される猫理論に、もうそろそろついていけそうにない。
     今度は耳まで消して、尻尾だけを揺らしている。小屋の外から様子を伺う猟犬二匹が、動きに合わせて忙しなく目を動かしていた。なんだか緊張感が削がれる光景だ。
    「今は血が足りてねぇから、保てる形はせいぜい〝尻尾一本分〟ってとこだな」
    「………人間と犬の血は美味くないぞ」
    「知ってる」
     冗談なのか、本心なのか。一向に読めない。
     猫の反応はと言うと、呂蒙と猟犬達が同時にびくついたのを見て、にんまり笑ったくらいだった。
    「それにしても、困ったな?」
    「何?」
    「この場にいない〝尻尾一本分〟のいかれた化け猫の話を、あんたはこうして聞いてるわけだ」
     呂蒙が内心頭を抱えていることはお見通しだろうに、猫は話を続ける。
    「いないはずの〝尻尾一本分〟の猫と会話が出来るあんたは、ここにいるのか? いねぇのか? いかれた化け猫と会話が出来るあんたはやっぱりいかれてんのか?」
     尻尾一本分くらいは、困ったな? 改めてそう締め括る猫の顔で、呂蒙は決意した。
    『熊注意』『獣人保護区』の隣に『化け猫注意』の看板を取り付けることを。


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    k_r_r_r_n2

    DONEこの後事情を知った権に「おま、お前たち……このっ………馬鹿者ーーーーー!!!!!!!」ってめちゃくちゃ泣かれる

    7月7日の蒙甘というか、蒙と甘
    ※ピクブラ掲載作品→一時的にポイピク避難中
    ミルキーウェイにはほど遠い 酒盛りを終えた二人は悪童よろしく、隠れ処の屋根へとよじ登った。大の男が二人屋根に腰を下ろすと、ぎしりと嫌な音を立てて木材が軋む。したたかに酔いが回った頭は、その音がなにやら愉快なものだと判断したらしく、揃ってけたけたと笑いあった。
    「一年、か」
     一息ついた呂蒙が、名残惜しそうに呟いた。寝そべっていた甘寧は、隣に座る呂蒙を横目でちらと見る。
    「なんだよ。頼んできたそばから惜しくなっちまったか」
     呂蒙はふむ、と顎を摩る。しばし考えて、そうかもしれんと肯定した。
    「彼の地は要所中の要所だ。お前ほどの適任者はいないという殿のお考えに俺も賛同したからこそ、こうして話しにきたわけだが」
     頼みがあると隠れ処に呼び出され、なにかと思えば川向こうの要所を一年間守りきれという。上官からの、ましてや他でもない呂蒙の頼みだ。断る理由などないというのに、このお人好しの上官殿は面目ないという風体で頭を下げた。
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