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    jodyheavn

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    軍曹会議6の記念本に寄稿した「モブが見た月ちま基!」がテーマの現パロ鯉月←(?)←モブなお話です。
    芸能人な鯉✕一般人の月(双方記憶あり)

    #鯉月
    Koito/Tsukishima

    書店員は連休に泣く 盆暮れ正月、GWに最近は秋のシルバーウィークとやらも。
     世の中には旅行に最適な長期休暇を取れる人間と、休日加算されてなお最低時給とほぼ等しい賃金をちまちまと稼ぐ人間がいる。後者が私だ。
     低賃金で重労働、「やりがい搾取」の権化である書店員として十年のキャリアを持つ中年、それが私。

     さて、同じ店に十年もいればそれなりに常連さんの顔も覚えるわけだが、老若男女様々なそれを「お気に入りのお客さま」と「そうではない客」に分けてしまうのは許してほしい。店員といえど人の子なので。
     その「お気に入り」の中でも特にとびきりの存在がいる。
    「月島基」さん。
     注文表に書かれた名前を見て「横棒の目立つ名前…」と思ったのが第一印象。
     だいたい土曜の午前中にやってきて、海外文学のコーナーを見ていることが多い。これは私の偏見だけど、坊主頭のマッチョという見た目とはギャップのある趣味だと思う。
     月島さんは特にロシア文学が好きなようで、本の注文をされることも多いのだが、いつも丁寧な字で連絡先を記入してくれることに気づいてから気になる存在になってきた。

     まず、何年も通っていて当然顔見知りであるのに、必要以上に馴れ馴れしい態度をとらないところがいい。常連の中には一方的にスタッフとの距離を詰めてくる人もいるから、きちんと一線を引いた態度を崩さないのは安心感がある。
     買っていく本もロシア文学の他はミステリの文庫やスポーツ雑誌が多く、「死ぬまでセックス特集」ばかりのゴシップ誌や、流行りのインフルエンサーが書いたあやしいビジネス本なんかには興味はないようだ。
     知的な紳士、さらに鍛え方から察するにストイックで真面目。
     見た目の厳つさから人を寄せ付けない雰囲気もあるが、会社では上からも下からも信頼される中堅ってところだろうか。
     面倒な仕事も誠実にこなしてくれそうだし、なんといってもあの太い二の腕や厚い胸板…週六で届く大量の段ボールを捌くためにあるような逞しさ!同僚として働いてくれたらどんなに頼もしいことだろう。
     本音で言えば、同僚としてではなくもう少し個人的に親しく…やましい気持ちではなく、ただ純粋にもっといろんな事を話してみたいという気持ちがある。
     「海外文学がお好きなんですね、オススメを教えてください」でもなんでもいい、勇気を出してあと一歩踏み込めたら…しかし店員からそれを言われるのは嫌な気分になるのではと短い会計の間にぐるぐると考え、気づけば自分の口からは「またお越しください」の定型文が淀みなく流れているということをもう何回繰り返しただろうか。

     今度会えたら絶対に!と意気込んで迎えたある日のこと。
     月島さんはやってきた。見たことのあるTシャツにジーンズ、定番のスニーカー姿にいつも通りスポーツ雑誌を持って。
     いつもと違ったのはその他にも雑誌を持ってきたことだ。おや、と思いつつ受け取った一番上には人気俳優が表紙の男性ファッション誌。
     月島さんが…ファッション誌?
     私が知っている限り、月島さんがこの手の雑誌を買ったことはこの数年一度もない。
     いやいや、月島さんもおしゃれすることだってあるだろう。
     今だってダサいわけじゃないし、推定三十代半ば、大人の男としてさらに磨きをかけようと思ったのかもしれない。
     などと若干の動揺を抑えながら次の本を見た瞬間、自分の心にヒビが入る音がした。
     有名なテーマパークのガイド本だ………。
     いつもは買わないファッション誌と、月島さんが興味があるとは思えないキラキラしたテーマパークの裏技ガイドという組み合わせから導き出される答えは一つしかないだろう。

    「次の連休に遊びに行かれるんですか?楽しみですね!」
     あれだけ悩んでずっと声をかけられなかったというのに、スラスラと言葉が出てくる。
    「え!あ、はい。そうなんです。初めて行くんで…」
     急に話しかけられて月島さんも驚いたのだろう。モゴモゴして恥ずかしそうにしている。
    「今はスマホで予約したりするらしいし大変そうですよね」
    「それさえ初耳です…これで勉強しないとまずいですね」
     困ったように笑う月島さんに、楽しんできてくださいねと声をかけ、その後はマニュアル通りの会計を済ませる。
     最後に「ありがとうございました」と頭を下げると、月島さんもぺこりと返してくれた。

     勇気を出してもっと早く声をかけていれば、いやその前にこんな仕事じゃなきゃ私だって連休とって旅行くらい…苦い後悔とあったかもしれないいくつもの未来が混乱した頭に浮かぶ中、店を出ていく月島さんの背中をぼーっと眺める。
     出入口のすぐ側に立つ男に声をかけると、二人はそのまま楽しそうに連れ立って街に消えていった。

     あぁさようなら月島さん。
     次に来る時はちょっとおしゃれになっているのかと今からなんだか楽しみです。
     本日はご利用ありがとうございました、またのお越しをお待ちしています。
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