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    GSでじーえすと読む

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    牧師にゼラニウムに似た赤い痣とかできちゃったら台風の情緒が大変なことになるよなー!と思って書きました。
    愛でられるだけの花じゃない、過酷の環境の中で咲いて嵐を乗り越える生命力に溢れた強い花。

    #台牧
    taimu

    幸福を祈る 見つけたぞー! ヴァッシュ・ザ・スタンピード!!
     600億$$の首よこしやがれーーー!!
     とっくの昔に失効しましたけどぉーー!?
     まーた出たか、情弱が。
     何度目になるか数えることすら諦めた、砂漠の旅の乱入者。世紀末を体現したような髪形の連中に真実を指摘しても、大体は逆ギレするか、伝説のガンマンを仕留めて名を上げるぜヒャッハー!にシフトするかなので、聞き分け良くバイバイしてくれることはない。
     なので、返り討ちにする。黒焦げにした後、太陽で二度焼きされる程度の気絶状態で転がしておいて、さっさと先を目指す……いつもなら。乱入者が巨大な装甲バギーに乗って迫って来たのは今回が初めてだった。
     車間距離という言葉なんて知らん!と言わんばかりにケツから突っ込まれ、ウルフウッドのバイクもヴァッシュが乗っていたサイドカーも空中に投げ出されて360度回転した。

    「ワイのアンジェリーナに何してくれとんねんボケカス!! 有り金身包み弾薬ガソリン全部置いてけやゴラァ! ケツ毛だけ持って帰れ!」
    「どっちがゴロツキか分かんない台詞だなぁ」
    「!? 元はと言えばオドレが原因じゃろうがクソトンガリ!!」
    「飛び火した!?」

     それなりの銃撃戦が終了したので、襲って来た乱入者たちをパンツ一丁状態で炎天下の砂漠に正座させて並べ、迷惑料として毟れるだけ毟った後にリリースして先を急いだ。それでも、360度回転して乱暴に着地してしまったバイクが心配だと、途中で立ち寄った町でメンテナンスついでに一泊することにした。

    「ウルフウッド、お風呂開いた……よっ?!」

     節約のためにツインルームを取るのにも慣れてきた。先にバスルームを使って汗と砂と硝煙を洗い流して部屋に戻ると、ヴァッシュは絶句した。ベッドに腰かけていたウルフウッドの顔に、赤い痣があったからだ。

    「ッチ、もっと長湯せえや」
    「どどどど! どうしたのソレ!!? ずっとサングラス外さないと思ったら!」
    「どうもないわ。唾つけときゃ治る」
    「治らないよ!」

     ウルフウッドの左目の周囲に赤い痣が点在していた。
     昼間の銃撃戦で負ったものか。やはり、バイクごと360度回転したのが原因か。ダイナーに入っても宿に入ってもずっとサングラスを着けたままだったのは、この痣を隠すためだったのか。
     ウルフウッドは、この痣をヴァッシュに気づかれる前にベッドに潜り込んで寝たふりをしてやり過ごそうとしたのだが、思ったよりもヴァッシュが早くバスルームから出て来てしまったので、こうしてバレてしまったのだ。

    「おまえさー、ちょっとは自分の身体を大事にしろよ」
    「オドレに言われたないわ」
    「ほら、見せて」

     ヴァッシュは荷物の中から白いチューブを取り出した。
     ウルフウッドの顔に触れると、左目の下に出来た痣の具合を確認する。目立った傷はないが、内出血を起こしているようだ……良かった、左目に傷はない。
     白いチューブからクリームを絞り出し、痣にそっと乗せて優しく伸ばす。クリームからは、爽やかな香りがした。

    「薬かこれ?」
    「ただのボディクリームだよ。保険屋さんたちに貰ったんだ、傷跡に塗ってくれって。自然由来成分だけを使っているから、顔にも使えるんだって」

     自然由来成分と言っても、原材料は全てプラント産なのでオーガニック100%と呼んでいいかは分からない。でも、薬用成分やワムズ由来の材料は使っていない。実は、結構高価な物である。
     ヴァッシュがそっと痣にクリームを塗り込んでいる間、ウルフウッドはされるがまま大人しくしていた。赤い痣は、ウルフウッドの左目を取り囲むように小さな痣が点在している。このまま放置していたら、変色してもっと痛々しい状態になっていただろう。
     ヴァッシュ小さな痣の一つ一つに、丁寧にクリームを塗り込む。

    『……何かに似ている』

     ウルフウッドの左目の痣は、何かに似ていた。
     小さな花弁が集まる赤いナニか……彼女が好きだと言っていた、紅い「決意」。

    『あ……』

     ウルフウッドの左目に、紅いゼラニウムが咲いている。
     触れても散ることのない紅い花。プラントたちが生産する嗜好品とも違う、野生の花。
     地球の人間たちが咲かせる園芸の花でもない、過酷な環境の中でも凛と自らの生命力でのみ咲き誇り、嵐の中を生き抜く美しい花。

    「ウルフウッド」
    「何やトンガリ」
    「抱き締めても良い?」
    「……」
    「あ、別にやらしい意味じゃなくて。ちょっと、ハグしたくなったから」
    「明日の朝飯」
    「奢る!」

     その言葉をOKと受け取って、ヴァッシュはウルフウッドを抱き締めた。彼の左頬に自身のそれで触れると、クリームの臭いが強く香る。
     クリームの臭いでもかき消されない煙草の臭いがする。
     心臓の音がする。
     服越しに体温が伝わって来る。
     耳を澄まさないと聞こえないほどの、小さな吐息が聞こえる。

    「ウルフウッド」
    「今度は何?」
    「……折れるなよ」

     嗚呼、どうか……どうか、彼という花が散りませんように。
     彼の鼓動に耳を澄ませる小さな幸福が、共に明日を分かち合うこの日々がまだ続いていて欲しい。
     ゼラニウムの花言葉は「決意」
     そして、「君ありて幸福」

     翌日、ゼラニウムにも似た痣はすっかり消えていた。
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