『そんじゃ、お前らはこれからダブルス組めーーおーー組めーーー』
教師ともつかぬ風貌をしたチューリップ帽は、やけにデカい声でそう告げた。
四天宝寺中に入学し、どんな部活に入ろうかと校内をうろついていると、たまたまハラテツ先輩とヒラゼン先輩に会った。そしてそこで急に、獲物を見つけたと言わんばかりに謎のコントが始まり、流れでテニス部に勧誘され、入部した。今思えば、拉致と言っても差し支えなかった気もするが。
入部動機はこんな些細なものだったのだ。手芸部に入るくらいなら父親の仕事見てた方が楽しいし、お笑いの部活はそもそもなかったし。テニスは何度かしたことがある程度で特に思い入れがあるわけではなかった。そうだ、確かになかったのだ。
そうなのだが………
「急にも程があるやろが!!!」
顧問を名乗るチューリップ帽にダブルスを組むよう告げられ、ようやっとそう叫んだ頃には奴はひらひらと手を振りながら部室を後にしていた。
いや全くもって理解ができない。本日は顔合わせということで、まだ自己紹介しかしていない。それだけで何が分かったというのか。
まるで俺はテニスにおいて、1人でプレーさせるには心もとない半人前と言われているようで、いくら初心者といえど腹が立つ。
それに、ダブルスの相方として指名されたそいつは………
『いや〜〜ん♡一氏くんもテニス部入っとったの?これからよろしゅうね♡』
ああああああああ誰でもいい…もう誰でもいいから嘘だと言ってくれ…………中学一年生が部活初日に抱えられるキャパを完全に超過している。悪夢だ。
奴、金色小春はテニス部員唯一同じクラスのため、クラス内での自己紹介により人となりはある程度掴めている。問題なのは、くねくねなよなよした女みたいな喋り方をする、俺が一番苦手なタイプだということだ。
これからどうする………一瞬部活を辞めるという選択肢が過ったが、せっかくテニスをするという気になったというのに訳の分からん顧問や同期にそれを阻まれるというのは癪なので、それはやめた。
結局観念するしかないという結論に至り、俺はため息を飲み込んで「おう…」と弱々しく呟いた。
この一連の流れをどこかで見ていたのだろうか、チューリップ帽が部室の扉からひょっこり顔を出して『言い忘れとったけど、ダブルスは相手の一挙手一投足を感じられなあかんからな〜〜これからはできる限りお前ら一緒に生活せえよ〜〜』じゃ、と再び手をひらひら振ってくるりと向きを変えた。
「お前はいっぺんそこに直れ!!!!!!!」
精一杯そう奴の背中にぶつけたというのに、奴は意に介さず去っていった。
「そんなこともあったな〜〜」『ほんまよ、あのあと先輩ら空気変えようと必死やったんやで?』「あ~なんか急によう喋るようになったと思ったわ」『まあでも、オサムちゃんがああ言ってなかったらダブルス組んでなかったかもしらへんし、今となっては良かったんちゃう?』「あんなやつに言われんでも、そのうち小春の良さには気づいてたし俺からダブルス持ちかけたわ!!」『ふふっどうやろなあ』
『もしかしたら、ここまでぜーんぶ見切っとったんかもしれへんわね』
「? 小春なんや言うたか?」『何も言うてへんよ、ほらネタ会議の続きしまひょ♡』