酸欠で頭がくらくらする。力の抜けた身体はぐったりとイドの胸にもたれかかり逞しい腕に支えられる。
「……すまない」
申し訳なさそうに眉を下げ細められた目がローランを見ている。大剣を握る太い指が優しくローランの口元を拭った。飲み込みきれなかった唾液がつぅと溢れていたのだ。
「あんたを前にするといつも加減が効かなくなる」
付き合い始めてからそれなりの月日は経っている。すまないと口で謝りながらも欲の灯った瞳で真っ直ぐに求められることは嫌ではなかった。色恋事と無縁そうな(実際付き合い始めの頃はキスすら慣れていなかった)人間に、そんな目で見つめられるのは悪い気分じゃない。
しかし、最近のイドには余裕が出てきたのは少し面白くない。それが不満というわけではないのだが。
前であれば初々しく辿々しい手をローランが導いていたというのに。気づけばそんなことをしなくてもちゃんとエスコートされるようになった。ベッドの上以外も含めて。ポテンシャルはある方だと思ってはいたが、成長が早すぎる気もする。
「続き、してもいいか?」
何よりも顕著なのが待てができるようになったことか。欲を孕んだ目をローランに向けながらも必死に耐えようとしている。我慢が聞かず謝りながら手を出してくる彼は本当に可愛かったのに。
ずっと可愛いだけだった恋人がだんだん格好よくスマートになってきた。自分がこの無垢だった男を育てたのだと嬉しくなる反面、主導権を握られることが増えてきて悔しい気持ちもある。
自分だって男だから。
けれど惚れた弱みというものは厄介だなと、ローランは身を持って知った。
悔しいけれど彼に見つめられて耳元で囁かれてしまえば自分の気持ちなどどうでもいいように感じてしまうのだから。
「いいですよ、イド君」
息を整えて彼に笑いかける。
「とびっきり、気持ちよくしてくださいね」
ヒュッと彼が息が飲むのとベッドに乱暴に押しつけられたのは同時だった。
でもまだこういう不意打ちに弱いのはまだまだ可愛げがあっていい。いや、今のイドも可愛いのに違いはないのだけれど。
「煽ったのはあんただからな」
興奮しきった目を向けられたローランは返事をする代わりに、イドの首に腕を絡めてキスをした。