アイドルの仕事がオフでも、男道らーめんは営業日だ。昼営業が一段落して、また夜からの開店準備に勤しむ道流が空になったダンボールを出しに裏口から出ると、店脇の路地から猫の鳴き声がした。きっと─チャンプか覇王か名前はまだ決着していないが、顔見知りのあの子猫だろうと当たりをつけて覗きこめば、猫と一緒に室外機の陰にしゃがみこんでいる姿があった。
「漣。来ていたんだな。店に入ってくればいいのに」
「別に。オレ様は覇王に用があっただけだし」
声をかけると顔は上げたものの、すぐにふいと目をそらされる。口ぶりからしても機嫌が良くないようだった。対照的に猫の方は機嫌が良いらしく、道流にもニャアと擦り寄ってきた。
「お、どうした? 腹が減ってるのかな。しかし今あげるとなぁ。もうすぐタケルもおやつを持ってくるかもしれないし…」
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