少しだけ背をかがめて事務所のドアをくぐる。いつ来てもこの事務所は綺麗なもんだ、と確かめついでに目を巡らすと、ソファには見慣れたユニットメンバーの青年が先に来ていた。まるい頭をわずかに俯かせ、手元の本に集中しているようだ。
「お疲れさん。早いな北村」
「あ、雨彦さん。お疲れ様ですー」
声をかければ顔を上げてこちらに気づいた素振りを見せる。開かれたページは予想に反して文字よりも挿絵が多そうで、「何の本だい?」と尋ねてみると北村は大きな目をぱちりと瞬かせた。
「丁度よかったー。雨彦さん、マッサージはいかがですー?」
「ん?」
***
誘われるまま位置を取り換えてソファに座らされた。背もたれの後ろに立った北村は俺の両肩に手を添える。背後に立たれるのはあまり落ち着かない、まして相手が北村なら尚更──。わずかな緊張を悟られないように口を開いた。
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