食べ損ねていたバナナが一本、遂に腐ってしまった。
頭領に押し付けられた一房はその時既に斑点が目立っていたから、この未来は星を見るまでもなく決定していた。
寧ろこの結末に至った不幸なバナナを一本だけに留めた自分を褒めてやりたい。
アジト恒例である毎食のバナナづくしで悲鳴をあげている胃腸に更に鞭打ってここまで減らしたのだから。
「――全く、面倒なことこの上ない」
改めて腐ったソレをしげしげと見つめる。
黄色かった皮は黒く変色しきっていて死病にかかった老人のように弱々しくテーブルに横たわっていた。
腐敗臭もする。
中の方ももう2割がた液状化しているのだろう。
「廃棄する他ないようだな」
頭領の懐刀であるあの男に小言を言われるのが容易に想像出来て思わず溜息が出た。
「さて……どうしようか」
早々に処分しなければならないのだが、少しだけこの腐ったバナナに興味をそそられた。
というのも、腐るまでに少しずつ皮を黒くしていったコレにどこか厄災の怨念に侵されたモノと似たものを感じたからだ。
まだ原型を留めてる方から恐る恐る皮を剥くと、思わず目を背けたくなるような匂いが顔面をよぎった。
腐ったバナナが死病にかかった老人なら中身はそれこそ死病そのものだった。
「――――」
誘われるように、強い腐敗臭を放つソレを鷲掴む。
グチャリと不快な音が聞こえ、その感触に今までの様々な出来事が脳裏をよぎる。
憎悪という感情を幼い体に刻みこんだ渇いた夜明け前、初めて人を殺めた豪雨の昼下がり、怨念の泥に直接触れたあの素晴らしい紅い月の夜……。
恍惚とした香りを帯びて蠱惑的に浮かび上がる。
「…フフッ……」
この腐ったバナナは怨念そのものだ。
地に落ちて種が芽吹く訳でもなく、食される訳でもなく、ただただ腐る為だけに生まれたバナナは忌み嫌われるカタチへと変幻したのだ。
「…フハハハ…ッ……!」
果実でさえ腐れば自ら怨念のようなものになり果ててしまうのだ。
動物や人も死ねばきっと同様の事が起こるだろう。
その事実がただただ愉快でたまらなかった。
どんなに取り繕うが生きとし生けるもの全て怨念となる因子を持っているのだ。
であるならば、生きている内に厄災ガノンの供物に捧げても何ら問題はない。ただ怨念の一部となる時期を早めただけなのだから。
己と、そして厄災ガノンの行っている事の正当性を腐ったバナナが示してくれたのだ。
……ここまで
あと少しが書けないんだよなあ…