ワンライお題
【春光呪詛 / 桜 / 制服】
料理人宿×学生伏
卒業おめでとうございますっ!
わーッと歓声が上がって、所々で啜り泣きの声が聞こえる。
3年間、窮屈な制服を身に纏って真面目とまではいかないが登校してきた校舎にさほど思い入れもない。
友人なんて呼べる人間関係は築いてこなかったし、泣き笑いあう同級生たちを尻目に校舎を後にする。
卒業証書が入った筒を片手に、グラウンドに出れば校庭を囲うように咲き誇った桜が綺麗に咲いていて、風の強さで花びらが舞う。
咲き誇った花びら達は雨や風で容易に千切れて地面へ落ちていく。
その様子を見て、なんだか複雑な気持ちを抱くのは自分だけだろうか…
咲いている間はチヤホヤされて、地面に落ちた瞬間人間は興味を無くす。
ブワッと風が強く巻き、地面に落ちた桜の花びらを舞い上げる。
ピンク色の竜巻が校内をぐるりと周り、中央部分で散開する。
雨みたいだな…
ひらひらと舞い落ちてくる花びらを見上げながら、正門まで歩く。
「腹減った」
卒業式は大体昼まで
そこから各自で分かれて、部活の送り出し会や友人と遊びに行ったり様々で、どちらにも俺の席はないしどうするかなと考える。
考える、と言っておきながら俺の足は既に動いていて、ブレザーのポケットから携帯を取り出し手短にタップする。
直ぐに返信が返ってきて、内容を確認すればあとは目的地に行くだけ。
大きな日本家屋
松の木が植えられ、小さな桜?の木?なのか、咲いているのを横目にガラガラと引き戸を開いて中に入る。
足場には大きな石が埋められていて、それを踏みながら玄関までの道を歩く。
緑に囲まれているこの道が結構好きで、秋には紅葉に染まるのも気に入っている。
まるで四季を揃えたこの道のりを恐る恐る進んだあの日が懐かしい。
二つ目の引き戸
引き戸が滑る音はなんでこんなに心地いいのか
ガラガラと音を鳴らして開いた玄関に身体を進め、靴を脱ぐ。
「宿儺」
「ああ、着いたか」
玄関から上がればいい匂いが漂ってきて、くぅと腹が空腹を訴える。
それを撫でて諌めながら、キッチンのある方に顔を出す。
襷掛けをして、オリジナルで仕立てた着物を着た宿儺が手元から視線を上げて俺を見る。
するりと近寄り手元を覗き込めば鯛が煮込まれていて、甘辛い美味しそうな匂いが鼻から入ってくる。
「なんだ、桜に連れ去られでもしたのか?」
鯛の煮付けをマジマジと見ていれば頭上でけひっと独特な笑い声が聞こえ意味が分からず宿儺を見上げる。
ずいっと目の前に桜の花びらが差し出されて髪についていたのだと言われる。
「まぁいい、手を洗って大人しく座って待っていろ」
「おい、ガキ扱いすんな…」
わしわしと頭を撫でられ言われた言葉にぐっと唇を噛む。
ここにいてもやれる事は無い。
宿儺の独壇場
広いその場所で宿儺は機嫌よく立ち回って、その手から美味しい料理を作り出す。
有名な料理人
雑誌やテレビでも宿儺の店はよく特集されているらしい。
ただ、宿儺自身の快不快で物事を決め、気に入らなければ一切動かない主義の気難しい性格をしているからか、あまりメディアに出ているのを見かけない。
そんな気難しい、歳上の、恋人…
恋人…だよな、一応
知り合いの金持ちに宿儺の店に連れて行かれた際、つい口走った余計な一言を何故か気に入られて、それから宿儺の自宅に招かれる様になり、結果胃袋を掴まれ絆された。
どの料理も美味かった。
最後の一品だけ俺的にはちょっと塩気が足りないと思って、知り合いの金持ちについ口走っただけ。
店の中で料理の評価なんてするものじゃないし言うつもりもなかった。
ただ、さっきまでとは違って全く別の人が作ったみたいなその料理が気になった。
金持ちの知り合いは「そお?そんなに変わらなくない?」なんて美味そうに食べてたけれど。
結局、実際その一品だけ違う人が作っていたらしい。
どうしても宿儺が料理を作りたがらず、困った際に代わりに作る人物の料理だと、後から教えてもらった。
「小僧の料理と俺の料理の違いが分かるのか、面白いなお前は、気に入った」
とは出会って直ぐに言われた言葉だ。
何度も家を訪れて、良くしてくれる宿儺の落ち着いた雰囲気と大人びたそれに惹かれたのかもしれない。
俺の周りに落ち着いた大人の男は居ないから…
「出来たぞ」
ダイニングテーブルの上に湯気のたつ鯛の煮付け
ほかほかでつるりとした白米
ねぎとお麩の浮かぶ味噌汁
綺麗な緑色のほうれん草のおひたし
ふっくらとしたフォルムのだし巻き玉子
ごくりと溢れ出てくる唾液を飲み込みチラリと宿儺を見れば、ふんっと得意げに笑った宿儺が向かいに座って頬杖をつく。
俺の分だけを配膳するのはずっと変わらない。
「いただきます」
手を合わせて今にも食らいつきたい欲を抑えながら箸を持つ。
舌を火傷しない様に少し息を吹きかけ味噌の香りがたつ味噌汁をチビっとすする
「はぁ…うま」
身体に沁み渡るってこういう事だよな
外の風が冷たかったのか身体が意外にも冷えていたみたいでジンっと身体に広がる暖かさにはぁっと息が漏れる。
なんでこんなに美味いのか
もぐもぐと白米を咀嚼しながらチラリと宿儺を見てみれば、満足そうに目を細めて俺を見ていて、その視線に擽ったくなる。
鯛の煮付けだって綺麗な形なのに箸を入れたらほろほろとした身で甘辛いタレでご飯がすすむ。
ほうれん草のシャキシャキ感も堪らなく好きで、ふっくらとした玉子のフォルムを箸で割る罪悪感を感じながらも思わず頬が緩む。
美味い美味いと思いながら箸を進めればあっという間に皿の中が空っぽになって、最後に出される温かいお茶をゆっくりと飲み干す。
「満足したか?」
「ん、今日も美味かった」
「春の新作があるんだが、まだ入るか?」
手際良く空いた皿を片付けていく宿儺の言葉にピクリと反応する。
このタイミングでいうという事はデザートだろうと予想できるしまだまだ余裕はあるのでこくりと頷いて見せる。
一度キッチンに下がった宿儺が持ってきた新作のデザート
ちょこんっとダイニングテーブルに置かれたそれは桜餅だった。
「桜餅?」
「ああ、ちょっと形は変えているがな」
「これ、葉っぱの上に乗ってんのは桜?」
「塩漬けにしたやつを乗せてみた」
ふーん、
良く分からないが見た目がすごく可愛らしい。
餡子をピンク色の餅米で半分だけ包み、餅米で包んだ半分だけをまた葉っぱで包む
どちらかと言うと挟んでいるって言うのか?
その上にちょこんと桜の花びらが乗っている。
これをキッチンで見た目の厳つい宿儺が作っているのかと思うと笑ってしまう。
「なんか、色合いがあんたみたいだな」
「…は?」
薄ら桃色の髪の毛は餅米で刈り上げている部分は餡子、丁度今日着ている渋い緑色の着物を合わせている所為で余計にそう見える。
まさか可愛らしいものに喩えられるとは思っていなかったのか目を丸める宿儺にふっと笑って、桜餅に手を付ける。
「うん、美味い。甘すぎてなくて塩味も丁度いい。あんたの作る料理ってなんでこうも美味いんだろうな。」
「下拵えを丁寧にしているからな」
桜の匂い漬けがきちんと効いているのか、ふわりと香る優しい匂いに目が細まる。
甘い餡子に対して塩っぽさがちゃんと効いていて食べ進めやすい。
後味がすっきりとする桜餅はぺろりと完食してしまう。
「今日で卒業らしいな?」
「まぁ、な」
「だからといってまだ社会を知らぬうちは気を付けろ…お前は変な輩に好かれる」
「だから、ガキ扱いすんな」
なんだ自分のことでも言ってんのか。
心配してくれているのは分かるけれど、それでも歳の離れた恋人に言われるとむかつく。
どうしたって埋められない差があるから余計に…
俺の不服そうな顔を見て小さく息を吐き、静かに立ち上がった宿儺が俺の横にくる。
不審がってチラリと見上げればぐっと顎を掴まれ上を向かされる。
あっと思った時には宿儺の紅い瞳に射抜かれて、唇が食われる。
「はッ!んっ、ぅ、ンンッ」
「舌を出せ」
「っ、う、んは、ぁ、」
ぬるりと滑った感触が唇を走り、割開いてくる。
訳がわからず宿儺の肩を押してみてもびくともせず、言われた通りに舌を出してしまう。
絡め取られた舌が熱くて泣きそうになる。
こんな感触知らなかった
ちゅっと音を立ててキスが続けられる。
口内を舌で舐められ耳を手で弄られる。
「んぅ、ふ、んッ!んん」
「鼻で息をしろ伏黒恵…」
「ぷぁ、はッ、あ、んっ、ぅ」
ちゅっちゅっと可愛い音が聞こえて時々口を離されその合間に息継ぎをする。
荒い息で顔を真っ赤にする俺を見かねたのか、宿儺に言われた様に出来るだけ鼻で息をする。
ぐじゅりといやらしい音に心臓がバクバクと荒く跳ねる。
耳を両方とも抑えられて、周りの音が聞こえなくなる。その代わりに口内の音が脳に響き淫猥さに悲鳴が上がる。
じんわりと熱を持ってくる自分の下半身に焦りと羞恥心が湧き上がってきて、宿儺の着物に縋り付く。
「んぁ…はっ、あ、は」
「俺はお前を餓鬼扱いしたことなど一度も無い、言っただろう?下拵えが重要だと。それともう一つ、卒業したら覚悟しておけとも、言っておいたがな?」
唾液が溢れて顎を伝う
それをぺろりと舐め上げた宿儺が、滲んだ視界の中俺を見下ろしている。
その瞳に獰猛な捕食者の色を含んでいて、背筋がぞくりと泡立つ。
「愛いなぁお前は…今更怖がったところで、逃がしてはやらんぞ。今度は、俺の番だな?」
ねっとりと耳につく低い声に身体から力が抜ける。
じんじんと熱を持った唇から震える息だけが吐き出される。
ぐっと押し返そうとした手は、硬い筋肉に力を吸われて全く意味を成さない。
するりと髪の毛を撫でられ、額に唇が落ちてくる。
「ケヒッ…そう怖がるな、急にはやらんよ、俺は辛抱強いからなぁ?下拵えが終わるまで、丁寧に丁寧に愛でてやる」
耳元で囁かれる声に腰が重くなる。
ぐっと息が詰まる
愛しいものを触る様な、柔らかい手
いつも余裕そうに、俺ばかりが甘やかされる。
「っ、っ、だからっ!高校生だぞ!俺にだってそういう欲ぐらいあるに決まってんだろっ!」
宿儺の着物の襟を握りしめて睨み付ける。
羞恥心で心臓爆発すんじゃないかと思うほど恥ずかしい。
でも、俺だってそういう気持ちはあったし、そうじゃなければのこのことくる訳ねぇだろ…。
ぶるぶると震える手に目を向けた宿儺がにたっと目を細めて口角を上げる。
「ああ、本当にお前は…魅せてくれる」
フワッと身体が浮いたかと思えば、宿儺の腕に抱かれていて、慌てて抵抗する。
啖呵を切ったものの、知識だけで実際には知らないし未知の世界だ。
今日急になんて考えてなかった。
「ま、待て、ちょ、、宿儺ッ」
「くくッ、最後まではやらんと言っただろう…ただ、味見ぐらいさせろ。」
慌てる俺の頬を撫でながら、どすどすと廊下を歩く宿儺の目が柔らかくてどきりとする。
「お前の嫌がる事はしないと誓う、だからお前も少し素直になれ」
素直になれ
そう言われて素直になれればこうもひん曲がった性格をしてないと思う。
素直が1番だというけれど、素直になって傷を負うのは自分だと知っている。
素直に求めて与えられた事なんて俺の人生一度もない。
襖が開き、既に敷いてあった布団にごろりと寝かせられる。
いよいよ、現実味を帯びてきて緊張できゅっと口をつぐんで覆い被さってくる宿儺を見上げる。
ドキドキと高なる心臓の音とカッと熱くなる身体に自分が興奮もしているのを自覚して布の擦れる音にすら身体が跳ねる。
一人で勝手にびくついていれば大きな手が顔に伸ばされ、髪の毛を梳くように撫でられる。
宿儺の大きな手は綺麗に爪が整っていて暖かい…
頭を撫でられる感触にじんわりと心臓が温まり力が抜ける。
空いた片手は引き結んだ唇を指の腹で触り、感触を楽しんでいるのか何度も唇の上を往復する。
「まったくお前は、いつまで俺を呪えば済むんだろうなあ…伏黒恵」
何かを確かめる様に、柔らかい手の動きで顔を撫でられゆっくりと名前が呼ばれる。
その柔らかさにこくりと喉が鳴る。
「す、くな…」
「ん?」
「…ッ、キス、して、くれ」
楽しそうに撫でるのをやめない宿儺に、焦ったさが勝ちおずおずと口を開いてみせる。
素直になるのが怖いのは、裏切られることが目に見えているから。
宿儺になら、きっと素直になっても大丈夫だ
そう思えるほどには俺も宿儺のことを気に入っていて好きでいる。
「ケヒッ、お前が望むのならいくらでも」
end