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    遊兎屋

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    遊兎屋

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    【宿伏】

    #宿伏
    sleepVolt

    宿伏ワンライ【 彼岸 】

    現パロ
    転生
    記憶なし学生伏に転生した宿が会うお話








    ああ、夢を見ているんだなと…
    そう思うことは今までにも何度かあった。
    現実離れした情景をそれが当然とばかりに受け入れるのは夢であるからで、俺が今見ている景色もその一つなんだろうと思う。

    足元には白と黒の子犬が戯れ付いていて、今まで一度もペットというものを飼ったことのない俺には見覚えのない子達だった。
    真っ暗な空間に俺と子犬が2匹…
    足元は俺が動く都度に波紋のように模様が揺らめいて水面に立っているみたいだ。
    周りには大量の彼岸花が咲き誇っていて、死を連想させるその花をなんと無しに眺める。
    綺麗な赤
    昔は人間が死んだら埋葬をしていた、それを動物に荒らされないために彼岸花を植えたと言う…
    花も茎も根も全てに毒を含むそれはとても危険だけれど惹かれる色をしていて、守るための毒を纏うその姿が単純に綺麗だと思う。

    風は吹いていないのに時折ゆらりと揺れるその赤を指で軽く撫でる。

    きゃんっと足元で小さな鳴き声が聞こえて下を見れば、2匹が並んで尻尾を振りながら俺を見上げていて、まるで撫でてくれと言わんばかりのそれに思わず笑ってしまう。

    懐かしいような…知っている感覚を不思議に思いながら夢で作り出したその柔らかな毛並みを優しく撫でてやる。
    頭を撫でれば耳を後ろに撫で付けて嬉しそうに目を細める姿が愛らしくて癒される。

    伸ばした自分の手を見て、今着ているものが学ランのようね制服である事に気付く。
    俺の高校はブレザーだ…
    学ランを一度でも着てみたいと思ったことがあったか?
    もしかしたら、少しの憧れが夢に反映されてんのかもしれない…。

    白と黒の柔らかい身体が両手に擦り付いてきてベロベロと指を舐めてくる。

    "ギョクケン"

    頭の中で俺の声が響く…

    「ギョクケン」

    ボソリと呟いた言葉が、嫌に舌馴染みがあって何を示す言葉かも分からないそれを何度か繰り返す。

    ーワンっ

    気づいた頃には両手に収まっていた小さな身体がすらりと姿勢を正した成犬の姿になっていて目を見張る。
    ああ、また会えた…
    不思議と嬉しさが込み上げてきて2匹を腕の中に抱き締める。
    知らないはずなのに知っていて、懐かしくて嬉しくて、まるで俺が俺じゃない誰かの気持ちを感じているようで…毛並みを撫でながら顔を埋める。


    いつまでそうしていたのか、夢だから時間の感覚なんてあってないようなものだけれど誰かに呼ばれたような気がした。

    「伏黒恵」

    気がしたはずのそれは実際に俺の名前を呼んでいて、後ろ髪引かれる思いでふわふわな毛並みから顔をあげる。
    誰だ…
    知らない声…

    夢なんだから俺の知ってる人が出てきてもおかしく無いはずなのに、さっきから俺の記憶には無いものばかりだ…
    それでも、どれも懐かしいと感じる。

    「伏黒恵」

    顔を上げて、少し離れた場所に立っている人物を見た瞬間に頭の中で警報が鳴り響く。
    真っ赤な彼岸花に囲まれて、白を基調にした着物を着崩し立つ男…
    その男の紅い瞳が俺に向けられているのが見えて心臓が締め付けられたように痛む。

    逃げろ
    危険だ
    祓え
    また会えた
    愛おしい
    大丈夫だ

    頭の中で間反対な感情がせめぎ合って頭痛がする。
    身体が逃げようとするのに心が求める。
    全て知らない感情…
    それなのに涙が止まらない。
    俺はこいつを"知っている"

    「伏黒恵」
    「 □□□ 」

    呼ばれた名前に答えて、たしかに呼んだ筈なのに声にならなくて咽喉を押さえる。
    俺が"知っている"はずの男の名前
    もう一度呼んでみたけれど、声にはならず俺の耳には名前の音が聞こえて来ない。

    「其方のお前はまだ知らんからなあ」

    困惑する俺に目を細めてゆったりと笑みを浮かべる□□□が俺に近付いてくる。

    白と黒の成犬が俺から離れて男の足元へ歩いていき、纏わりつくようについて歩く。
    2匹を連れた男が俺の目の前に立ち手が伸ばされる。

    大きな手だ…
    その手がどれだけ優しく俺に触れるのか、熱いのか、力強いのか…そして残酷なのか
    頭の中にフラッシュバックのように経験した事の無い情景が勢い良く流れ込んでくる。

    「ッ、□□□、俺は…死んだのか」
    「ケヒッ、面白い事を言う。此処はお前が作った夢の中なのだろう?」
    「夢にしては奇妙だ」
    「夢とは奇妙なものだろう…」

    するりと涙で濡れた頬を撫でられて顎を掬い上げられる。
    夢にしては現実的で、五感のはっきりしている状況に眉を寄せる。
    男の言うように此処は夢の中だ…けれど今までのそれとは確実に違う。

    「今は彼岸だろう…あまり入り込むな」

    何か知っているのか
    思考しようとしていた俺の目元に男の掌が当てられて、心地いい声が降ってくる。
    じんわりと手のひらから体温が移ってくる…
    男の存在を感じたくてスンッと鼻を鳴らせば微かな白檀の匂いがしてこれも"知っている"

    「お前は今も昔も変わらず厄介なものを惹きつける」

    何を言っているのか分からない。
    与えられた暗闇の中、低い声を聞きながら神経を研ぎ澄ませる。

    「失せろ…これは俺のものだ」

    俺に向けられていないだろう言葉…
    自分の意識が曖昧になってきている気がして目の前の男をまた失うような気がして手に触れた着物を握り締める。
    また…?
    またってなんだ…?

    握り締めた手をそのままに時折痛みと共に流れてくる情景が血に染まった俺の手を映し出す。
    同時に上裸で血を流す□□□

    「□□□」
    「恵…俺を見ろ」

    流れてくるそれを見る事が出来れば何か分かる気がしてずきりずきりと痛みを訴える頭に眉を寄せる。
    もう少し意識を向けて…
    そう思っていれば、目元の手が退けていき目を開けるように促される。

    「危なっかしいのは今も変わらずか…」
    「あんたは…一体誰を見てるんだ」

    俺を見ろと言っておきながら、男は俺を通して誰かを見ている。
    そんな理不尽さにムカついて睨み付けるように真っ赤に染まる瞳を覗き込めば、濁りのないその色に魅せられてこくりと喉が上下する。

    「伏黒恵…俺はお前だけを見ている、変わらずにな」
    「俺は、あんたを知らない」
    「くく…もう"知っている"だろう」

    にんまりと細まった瞳が俺を見下ろして、そして顔が近付く。
    詰められた距離に肩が跳ねたのを見られてしまえば面白そうに笑われる。

    「ッ」
    「そう構えるな…取って食う訳でもない。」

    さっきから頭の中に靄が掛かったようにはっきりしない…。
    好きなように□□□の手が俺の顔を撫で回して、髪の毛を撫でられる。

    「あんたの名前は?」
    「…時期に分かる、そろそろ時間のようだ」

    前髪を後ろへ撫で付けられたかと思えばおでこに柔らかい感触がして、近かった男との距離が少し離れる。

    「また近いうちにな」

    腕を組み柔らかな表情で俺を見てくる人物の形がぼやけ始める。






    ぱちりと目が覚める。
    視界に見知った天井が映っていて上体をゆっくりと起こす。
    断片的な夢の内容…
    やっぱり夢だったのかと少しの安心感を感じながら、最後に柔らかな感触があったおでこを触ろうとして、自分が何か握り締めているのに気付く。

    「…彼岸花」

    血に染まるような赤ではない。
    初めて見る白い彼岸花…
    高貴で洗礼されたようなその花を握っていることに眉を寄せる。
    まるで意味が分からない…
    寝起きの頭で考えてみても上手く行かず、折れないように机の上に避難させる。

    時計を見ればいつもより少し遅い時間で、手早く制服に着替えて自分の手元を見る。
    夢の中で見た紺色の制服ではない一般的なブレザー…
    一体なんだったのか

    学校に行く準備が終わって机の上にある白い彼岸花に目を向ける。
    そのまま机の上に放置するのは憚れて、無いよりかはマシだと考えコップに水を汲み即席の花瓶を作ればそれに一本の彼岸花をさす。




    いつもの通学路
    いつもの時間
    いつもの様に何ら変わらず歩いていく。
    違っていた事は、河川敷から何やらぶつかり合う音と怒号、悲鳴、笑い声が聞こえたこと。
    朝から元気だな…
    巻き込まれなければ良い
    そう思いながらも、ほんの少しの好奇心があった。
    どんな奴だろうか…

    いつもの様に土手を歩くのだ、少しくらい覗き込んでも大丈夫だろう。
    同じ制服を着た学生が、騒動を遠巻きに見ながら登校するのと何ら変わらない。

    高架下
    少し影になっているその場所で男たちが倒れていて、今残りの1人がぶっ飛ばされた。
    地面に転がったまま動かなくなったのを眺めて、すげぇなと思う。
    1人で十数人をぶっ飛ばしてのしたのか。

    つまらなさそうにため息をついた様に見えたぶっ飛ばした側の男がゆっくりと振り返る。
    赤く染めた髪がまるで昨日の夢の様で、スローモーションのように見えたのは綺麗な紅い瞳が俺の姿を捉えたから。
    あ、と思った瞬間に夢であったかの様に走馬灯の様な記憶が流れ込んで来る。

    「……すくな」

    目を見開く俺を嬉々とした顔で見つめてくる男の口元が動いた様に見える。


    "また会ったな、俺の唯一"







    end.


    白彼岸花→ また会う日を楽しみに
          想うはあなた一人
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