幾星霜の瞬きは、ただ常盤に燦いて1.
糸がふつりと切れる音がして、マレウスは己の半身が死んだことを知った。
蝶が羽ばたきをはじめるような繊細な動作でマレウスは長いまつ毛を瞬いた。宝石の輝きを秘めた黄緑色の虹彩に光が入る。珍しく玉座でうたた寝をしていたらしい。石造りの静かな謁見の間はがらんどうで誰もいなかった。マレウスは肘置きについていた頬杖を解く。無造作に伸ばされた黒髪が肩からこぼれ落ちた。
マレウスは虚空に向かって呼びかける。
「リリア。すこし留守を頼めるか」
「ああ、構わん。こちらとしては待ちに待っていた事だからの」
一陣の風が起こり、謁見の間の中央に小さな人影が屈託のない笑みで立っていた。マレウスは色の薄い己の唇へ右手を遣ってじんわりと滲むような苦笑をたたえた。
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