部屋を満たしていく甘い香りに気付き、ペンを片手にうとうとと微睡んでいた航海はゆっくりと顔を上げた。
スン、と改めて意識をして嗅ぐと、焼き菓子特有の卵と砂糖の優しい香りがした。
目の前に広げたままのノートには、文字とは言い難いミミズが這ったような筆跡が残っており、航海は苦笑いを浮かべた。イメージが上手く固まらず、ああでもないこうでもないとしているうちに、どうやら睡魔に襲われてしまったようだ。
覚醒しきらないままの頭を持ち上げながら欠伸を一つ噛み殺し、航海はソファーから立ち上がる。
そのまま香りに釣られるがままキッチンの方へと足を運ばせると、気配を察したのか丁度片付けを終えエプロンを脱いだところで凛生が振り返った。
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