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    somakusanao

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    somakusanao

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    一行目から展開が読めると思いますが、ご想像通りの展開です。
    ムーチョが出てくるのは、単純にわたしがムーチョが好きだからです。

    #ココイヌ
    cocoInu

    九井一が恋人に指輪を贈るらしい 九井一が恋人に指輪を贈るらしいと小耳に挟んだ。

     東京卍會の集会所になっている神社では、それぞれの隊によって、たむろする場所がなんとなく決まっているが、まだ不慣れな乾が彷徨っていた時だ。
     ふだんは噂話など気にしない乾だが、「九井」という声を耳が拾った。東京卍會に九井はひとりしかいない。乾のたいせつな幼馴染だ。もしココのことを悪く言うやつがいたら、オレが許さねぇ。こぶしを握りかけたところで、「恋人」と「指輪」という単語が耳に入ってきた。統括すると九井は恋人に指輪を贈るらしい。 
     伍番隊の武藤なる彼は宝飾店のショーウィンドウの前にいた九井とたまたまばったり遭遇し、「誰かにやるのか」と聞いたらしい。

    「へぇ、九井はなんて答えたんですか」
    「そうだって言っていた」
    「金儲けしか考えてなさそうな奴なのに、どんな彼女なんですかね」
     
     どうやら武藤は年上かつ隊長らしいので九井の呼び捨ても許してやるが、三途某は許さねぇと心に決める。「どんなタイプなんスか」「つきあってどんくらいなんですかね」三途がなにかと聞き出そうとするも、武藤は無口な人物らしく、しばらくたってようやく「すごくかわいいらしい」とぽつりと言った。
     彼らの話はそこで終わってしまったが、乾は彼らの言葉に心に止めておいた。



     乾と九井は体の関係がある。
     もともと幼馴染で、友人だったが、姉を喪って以来、その関係性は濃密になった。九井は乾の姉が好きだった。姉の身代わりにされている。そんなことは分かっている。けれど、九井に見つめられるたび、ふれられるたび、よりそうたび、九井の特別であることを目の当たりにするたび、たとえ身代わりであっても嬉しいと思っていた。
     姉の身代わりということは「恋人」扱いされるということでもある。
     でかければ車道側を歩くのは九井だし、荷物を持つのも九井だ。食事をとるときは乾の好みが優先された。誕生日にはプレゼントを贈られた。
     ふだん冷徹でさえある九井の目が乾を見るときはやさしく、慈しみがある。声には甘さがある。
     そういう顔をされると乾はどうしていいか分からなくなる。オレは赤音じゃない。もちろん九井だってわかっているだろう。赤音をラーメン屋には連れて行かないだろうし、赤音にバイク用品をプレゼントしない。

     あれは映画を見た時だ。九井の仕事が終わるまでの暇つぶしのつもりだったが、九井も見たいと言ったので、ふたりソファーに並んで鑑賞することになった。
     映画は高校生が主人公のヒーローアクションだった。人気作品だけあって、ストーリーはテンポよく、アクションは派手で、手に汗握りながらのめりこんでいた。彼には意中の彼女がいて、ヒーローとして巨大な敵に立ち向かう彼も、彼女には奥手で告白さえできない。
     乾は自分で思っている以上に映画に夢中になっていたのかもしれない。ふいに九井と手が触れた。隣に座っているのだ、触れても不思議はない。さりげなく離れようとしたその手を繋がれた。はっと息を飲む。たぶんそれが失敗だった。
     知らんぷりをすればよかった。あるいは笑い飛ばせばよかったのかもしれない。
     乾は動揺してしまって、おそらくそれが顔に出てしまった。九井と目が合う。ああ。ばれてしまった。九井が好きなことがばれてしまった。
     もう目を離すことができなかった。
     画面から光が漏れる薄暗い部屋。九井の瞳はまっくろで、吸い込まれてしまいそうだった。
     ぶつん、と画面が消える。リモコンで九井が消したのだ。どうして、と乾は聞かなかった。もう、自分の身になにが起こるかを知っていたから。
     目の前が翳る。手をつないだまま、ゆっくりとくちびるが重なった。
     ひどく泣きたい気分だった。おそろしくて、うれしくて、しあわせで、くるしかった。でも逃げたくなかった。九井と指を絡ませて、じぶんからキスをした。
     九井がイヌピーと呼ぶ。苦しそうな声だった。ああ、おまえもつらいんだな。それでも、やめられないんだな。くろい瞳がするどく光る。いまからオレはココに抱かれるんだ。それがわかって、乾はぜんぶをゆるしてしまった。
     九井はくるしそうでつらそうで、さみしそうで、そのままにしていたら、しんでしまいそうだった。だれかがあたためてやらないといけなかった。ほんとうならそれは赤音の役目なのだろうけれど、姉はいない。ここには乾しかいない。九井を抱きしめるのが自分しかいないことを、乾はよろこんでしまった。いくら辛くたっていい。痛くたっていい。酷くされたっていい。おれのことをすきにしたらいい。
     乾の言葉に九井は驚いた顔をして、そして嬉しいと言った。
     イヌピー。ありがとう。と言った。
     それだけで乾はすくわれた。
     思った以上に痛かったし、怖かったし、身体はぼろぼろになったが、そんなことはどうでもいい。
     
     けっきょくあの映画の中でヒーローが彼女に告白したのかを乾は知らない。



     九井は赤音が好きなのだとばかり思っていた。だから乾を身代わりにした。けれどそれは永遠じゃない。いつか九井は我に返るときがくる。だっておかしいだろう。弟を姉の身代わりにするなんて、ありえない。いくら顔が似ていたって、乾はかわいい女の子じゃない。やさしい女の子じゃない。別れたくないと縋りついて泣ければよかったのに、九井は嫌がるだろうなぁと思うとそれもできない。乾にできるのは九井と別れてやることだけだ。
    「せめてオレから振ってやろう」
     別れを切り出されるのを待つではなく、こちらから言ってやろう。九井はどんな顔をするだろう。すこしだけでいいから、傷ついてくれたらいい。乾から切り出してくれてありがたいと言われたら、それこそ落ち込んでしまいそうだ。
     アジトに戻って、九井を待ちかまえているあいだ、ひどく手持無沙汰だった。ふと思い出してクローゼットを開く。どれもこれも九井が買ってくれたものばかりであることに、今更ながら驚く。いま乾が着ている服だってそうだ。九井に限ってはないと思うが、別れることになって、九井が購入したものすべて置いていけと言われたら、それこそ乾は全裸で出て行かなければならないだろう。それなら、どうせなら、最後だけかっこつけてやろう。九井が「似合う」と言っていた服を手に取って、身に着ける。どうして店のスタッフが手伝ってくれた時のようにはならないのだろうか。鏡の前で首を傾げていると、「ただいま」と声があった。九井の声だ。
     九井の顔を見たら、なんて言おう。「おまえに話がある」と切り出せればいいのだが、口下手な乾にはあまり自信がない。だからといって開口一番「おまえとわかれたい」と言えるとも思えない。「ココ、おまえ、好きなやつができただろ」これじゃあ、当てこすりのようだ。やっぱり妥当なのは「おまえに話がある」だろうか。うまくいくといいんだけれど。
     ドアノブを回して、一歩足を踏み出す。九井が振り返った。「え」と言って固まる。想定外だ。何だその反応は。この格好が変なんだろうか。ボタンがひとつずれているとか?

    「イヌピー、どうしたの」

     意外な反応だった。九井なら「似合うな」と言ってくれるのかと思っていた。嫌な感じではない。なんというのか、見惚れているというのが近い気がする。いや、九井に限ってそんなわけないか。何となく不安になって「変か?」と聞くと、ようやく本来の九井に戻って「いや、似合うよ」と言ってくれた。

    「でもイヌピーどうしたの。外に食いに行く時だって、そんな格好してくれないのに」
    「飯を食うときはおまえの買ってくれた服を汚しちまうと思って」
    「そんなの、いいのに。イヌピーに着てほしくて買ってるんだから」

     なんだこのいい感じの雰囲気は。まるでついあいたての恋人同士のようだ。そんなふうに思ったことにびっくりする。乾と九井は幼馴染で、気の合う友人で、赤音の身代わりとして大事にされているだけだ。でもそれはさいごにしなくてはならない。九井には好きなやつがいるのだ。赤音の身代わりである乾は九井の幸せを祝福しなければならない。もし九井から別れを切り出されたら、どうなってしまうかわからない。怒るくらいならまだいい。泣いてしまったら最悪だ。そうなる前に、九井から別れを切り出される前に、乾から別れを告げよう。九井を振りたいわけじゃない。心構えがあったほうが傷つかないという理由からだ。  
     けれどどうにも口が動かない。なんて言っていいかわからない。そのとき九井がはっとした顔をする。

    「まさかおまえ、知ってた?」
     
     武藤が九井に会ったと話していたということは、九井も武藤に会って話した自覚があるだろう。まさか武藤と乾が通じているとは思いもしなかったに違いない。しかしそこは同じ東京卍會の隊員だ。話をしてもおかしくはない。じっさいは乾が武藤と三途の話を立ち聞きしただけなのだけれども。
     こくりと頷くと、九井が「あー」と唸る。ばれていないと思っていたのだろう。立ち聞きさえしなければ、まったく気づいていなかった。こめかみを抑えた九井が、気を取り直したようにポケットの中に手を突っ込んだ。それで乾にも余裕ができた。そうだ。先に言わなくては。九井よりも先に切り出して、優位に立たなければ。

    「ココ、オレと」
    「イヌピー、オレと」

     九井と目があう。くらい夜の色。その瞳が絶望に染まったこと。悲しみにくれたこと。そして快楽に溺れたこと。乾はぜんぶを見てきたが、はじめて見る色だと思った。先に言いだしたはずなのに、乾は躊躇ってしまった。だから。

    「オレとつきあってくれ」

     九井が突き出してきた天鵞絨の箱の中に、きらりとかがやく指輪が入っているのを見て、すっかり仰天してしまった。

    「え……?」
    「え?」
    「ココはオレと別れるんじゃなかったのか?」
    「は?」
    「……え? なんだこれ?」
    「なんだって指輪だけど。は? 別れる? イヌピー何言ってんの?」

     九井一は恋人に指輪を贈るのだと聞いていた。つまりそれは。

    「え。オレたちつきあってたのか?」

     九井のひきつった顔を見て、乾は今度こそ腰を抜かした。





     それからの居たたまれなさと言ったらなかった。どうにかソファーに移動をしたものの、九井の視線がつらい。目の前に天鵞絨の箱があることも落ち着かない。疎い乾でもわかる。あれはぜったいに高級品だ。十代の乾がもらっていいような代物ではないことは明らかだが、いまはそういう問題ではなかった。

    「イヌピーが誤解していることはなんとなく知っていたよ」

     先に切り出したのは九井のほうだった。

    「告白もするつもりだったけど、オレは信用されてないだろ。だから指輪を贈れば証拠になるかと思ったんだけど」

     それはひどい言いがかりだ。乾はすぐに否定する。

    「オレはココを信じてる」
    「おまえが好きだって言ったら信じたか?」

     途端に目を泳がせる乾に九井は「そういうとこ」と溜息をついた。だって信じられるわけがないだろう。九井は赤音が好きなはずだ。「赤音さんは大事だし、一生忘れない」と九井は言う。そのうえで「イヌピーが好き」だとも言う。そんな都合のいいことがあっていいのだろうか。けれど九井の目を見れば、彼を信じたいとも思う。

    「まえに映画を見たとき」
    「え、」
    「いっしょに映画を見ただろ」
      
     勘のいい九井はそれだけでなんのことか思い出したようだ。
     いっしょに映画を見たあのとき、一線を超えたあの夜に、九井はありがとうと言った。あれはオレの傍にいてくれてありがとうの意味だと思った。実際そうだっただろう。

    「最後まで見なかったけど、あのふたりはつきあったのかな」
    「あー……」

     映画を消してしまったのは九井だった。あのときはそういう雰囲気だったから、映画を消してしまった九井を責めているわけではない。ただ、あのときのヒーローは彼女とつきあえたのだろうか。それだけはちょっと気になっていた。
     九井が身を寄せてくる。黒々としたその目。なんとなく分かってきた。たぶんこれは欲情の色だ。

    「イヌピーって俺を煽るのがうまいよね」
    「煽ってない」
    「あの時、オレのことをすきにしていいっていったこと覚えてる? 下心のある男に言うもんじゃないぜ」
    「ココにしか言わねぇ」 
    「そういうところが煽ってるっていうんだよ」

     ゆっくりとくちびるが重なる。

    「イヌピー、おれとつきあって」

     いいよ、と言ったつもりの言葉は九井のくちびるの中に飲みこまれて行く。



     次の日ソファーに寝そべりながら、映画の続きを見た。一歩も歩きたくない乾に代わり、九井は甲斐甲斐しかったが、映画が始まると並んで鑑賞しはじめた。二度目になっても、名作はやはり面白い。一度目は見逃していたシーンも見られたし、アクションはやはり楽しかった。ヒーローは勇気を出して彼女に告白をして、彼女が答えようとしたその瞬間に敵に襲われて。

    「……次回作に続くのかよ」
    「あー……そういう展開ね……」

     ヒーローと彼女の仲は進展していなかった。てっきりハッピーエンドだと思い込んでいたので、とんだ肩透かしだ。不貞腐れる乾を九井が笑う。

    「イヌピーはやさしいよな」
    「は? どこが?」
    「そういうとこ」

     九井が乾の髪を梳く。その指にはしっかりと指輪が収まっている。彼氏かよと呆れたが、彼氏であるのだろう。告白されたし、乾はいいよと答えたのだから。翌日だし、ふたりきりだし、許してやることにする。なんだか照れくさくていたたまれなくて、「腹が減った」と言うと、九井が「なにが食べたい」と笑う。
     赤音の身代わりとして恋人扱いされていると思っていたけれど、もしかしてこれが九井の素なのだろうか。ロマンチストで甲斐甲斐しく、甘ったれでさみしがりで、そのうえセックスもうまい。幼馴染が怖すぎる。思わず「おまえからにげられる気がしねえよ」と呟くと、「それ、なんの冗談?」と目が笑っていなかったことは気づかないふりをした。

     
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