十二国記パロ② それにしても、と禎衛は、巧国に登極する王の姿を眺めた。蓬莱に渡っていた麒麟の帰還と王の誕生に、蓬山は浮足立っている。女仙たちがあれこれと走り回っているのをてきぱきと指示しながら、今回の塙王を眺めていたのだが。
そうときまっているわけではないが、王は美丈夫が多い。登極まもなくの国は荒れていることが多く、王が立ちまわることが多いからかもしれない。とはいえ、塙王延王や戴王のような武人と言う感はない。まだ若いということもある。見た目であれば、十代後半。かの慶国の景王くらいであろう。彼女は若々しく凛々しいが、彼女ともまた違う。なんというか。
「朱氏のような方ね」
思わず口に出してしまい、はっとして噤む。幸いにも聞き留めた者はいないようだ。ほっと息を吐いた。
蓬山ではいま塙王の身の回りの世話をしている。蓬莱で育ったいわゆる胎果である王はあまりにもこの世界の道理を知らない。ひととおりの知識を与えてからの登極となる。とはいえ、知識だけではどうにもしがたいことがある。彼の奮闘は目に見えているため、出来る限りのことはしてやりたい。
そんな事情もあり、女仙たちはみなが塙王の前歴を知っている。学生である。口には出さなかったが、嘘でしょう、と禎衛は思った。学生があんなすさんだ顔をするものか。よっぽどの目にあったとみえる。肝が据わっているというか、なんというか。
「塙王はずいぶんと若い王なんだね。まぁ、僕とおなじくらいかな」
「泰台輔」
「ひさしぶりだね」
おだやかな笑みを見せる泰麒に、おもわず禎衛の顔がゆるむ。女仙は麒麟に甘いものだが、やはり蓬山うまれの麒麟にはひときわ思い入れが強い。泰麒は行方知れずになっていた時期があるから猶更だ。
「どうしてこちらに」
「塙王が同い年くらいの胎果と聞いて、説明役を仰せつかったんだ。塙麒もまだこちらの世界には不案内だろう」
塙王だけでなく、塙麒もまた蓬莱生れである。雁国の前例があるとはいえ、珍しいことではある。たしかにこちらの世界に不案内であるので、苦労はするだろう。それを見越して泰王が提案してくれたのだと泰麒は言うが。
「体のいい人払いだと思うな。いや、麒麟払いか。なにか血まなぐさいことをされるおつもりなんだと思う」
「泰麒」
「国を立ち行かせるためには、どうしても仕方のない場合がある。そういうことなんだと思うな」
あまり国を空けたくはないが、塙王のためという大義名分もあって、重い腰を上げてきたということだった。
「さきほど塙王に挨拶をしてきたよ。ずいぶんと頭のいい人だ。おおよそのことを把握していた」
「そのようですね」
食事などを運ぶ時に、他愛のないことであれば、禎衛も受け答えをすることがあった。たしかにこの世界のおおよその知識はそらんじているようだった。いまだにまごついている塙麒とはまるでちがう。
「破れ鍋に綴蓋とでもいうのかな」
「なんでしょう、それは」
「蓬莱のことわざかな。もともとあちらでも知り合いだったというし、いいコンビになるんじゃないかな」
「こんび?」
ああ、ええと、いい主従になるんじゃないかなということ、と泰麒は言い直してくれた。泰麒は幼い時分から気遣いがやさしい麒麟である。懐かしさに禎衛の口元がゆるんだ。
「ええ。ずいぶんと仲がよろしいことは重々にわかっております」
「おや」
「寝台を共にしておられます」
「おやおや」
「王と麒麟とは共にあるものだろうと、こちらにきてそうそうに塙王が命じられました。食事も湯浴みもすべてごいっしょです」
泰麒は王に仕えてからずいぶんとしっかりしたようだが、もともとはおっとりとした気質の麒麟であるが。
「それはずいぶんと仲良しだね。羨ましいな」
予想外の反応だった。そう来たか。
禎衛はその立場上、泰王をすこしだけ知っている。いかにも武人といったお方だった。
もしかしたら私は口を滑らせたのかしら、と禎衛は思ったが、伴侶なく登極した王は伴侶を得ない。塙王と塙麒、泰王と泰麒が寝台を共にしたところでなんの問題もない。
「それはよいご提案かもしれませんね」