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    青井青蓮

    @AMS2634

    重雲受けしかないです(キッパリ)

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    青井青蓮

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    厳密に言うと行秋が取り越し苦労するだけの話

    ※二度目の海灯祭を迎える前に書いたものなので「軽策荘にある飛雲商会の倉庫」の設定がありません

    #行重
    Xingyun

    行秋が損をする話 竹林を抜けた先、軽策荘の入り口に佇む一軒の空き家。
    少々狭く感じるものの日頃から手入れはされていたらしく、少しの間だけ身を置くには申し分ない。
    村長の厚意により一時貸してもらえることとなったその屋内で、旅人の帰還を待つ行秋は途方に暮れていた。

    部屋の隅ですやすやと眠っている白い猫――もとい、変わり果てた親友の姿を一瞥し、幾度目かわからない溜め息を吐いた。



     璃月の冒険者協会から依頼を受けた旅人に任務遂行の手助けをしてほしいと頼まれた行秋と重雲は、碧水の原の北、軽策荘へと続く街道から少し離れた雑木林に来ていた。
    此処最近フォンテーヌの富裕層の間で室内飼い向けの小動物が人気を博しており、特に見た目の良い猫などが老若問わず女性らから受けが良いことから、金持ち相手に搾れるだけ搾り取ろうと画策する悪徳業者によって高値で取引されている。
    今回その業者の一部が璃月に拠点を置く密輸組織と繋がっているとの情報が入り、冒険者協会から依頼を受けた旅人は業者が取引場所と定めた場所へと先んじて赴き、そして助っ人として呼ばれた二人はそれぞれが持ち前の機転と土地勘を上手く活用し、順調にその足取りを追っていた。



     ぽっかりと口を開けたそこそこ大きい洞穴に向かって拳大の石を投げる。
    内部の空洞で反響する大きな音と共に転がる石、奥から何かが反応したような気配は感じられない。行秋は警戒を解くことなく身を滑らせるように洞穴の入り口に足を踏み入れる。
    日差しの届かぬ暗がりの中、無造作に転がされた提灯に火を灯し、照らされた内部を見渡す。
    固い地盤は然程奥までは続いておらず、長く固まっていたらしい黒い土肌は少量の水を吸って間も無いのか、複数の人間に踏み荒らされた跡が僅かに泥濘んでいた。
    洞穴の外へと続く足跡の他には新しい痕跡が見受けられない。狭い内部に身を隠せそうな怪しい箇所が無いことを確認し、行秋は早速調査を開始した。
    空洞内にあったのは大小様々な大きさの粗末な木箱が点在する他、染みだらけの木製の机に無造作に置かれた紙の束くらいだ。提灯を机に置き紙束を拾い上げ、ぱらぱらと捲り内容に目を通していく。どうやら業者が組織に宛てた要望リストのようだ。品種や好まれる毛色の傾向、取引金額と思しき数字――明らかに市場の相場から逸したそれらが事細かに記載されている……こんなものが置き去りにされる理由は見当も付かないが、押収すれば証拠品として充分な役割を果たすだろう。
    紙束を懐に入れ、雑木林の途中で別れた重雲と合流すべく、行秋は洞穴を後にした。







    ――行秋が洞穴に踏み込む少し前。



     重雲を先頭に、二人は雑木林を進む。街道へと続く出来たばかりの人間のものではない足跡を行秋が見つけ、同時に重雲が複数の魔物の気配を察知する。
    ごく普通のヒルチャールのものと思しき跡が3~4、体格の大きいヒルチャール……通称‘暴徒’と呼ばれるリーダー格のものか、明らかにサイズが大きいものが1。それらの足跡がまるで雨でも降ったかのようにべちゃべちゃと泥濘んでいる様を見るに、幾匹かの水スライムでも連れているのだろう。
    人目に付かない場所を縄張りとするヒルチャール達が街道に向かっているとなると、彼らは理由があって何かを追っているのか。追われている‘何か’が人の気がある街道に逃げているのだとしたら、その‘何か’が動物の類である可能性は低い。しかしこんな鬱蒼と生い茂る雑木林に足を踏み入れる人間などそうそう居やしないのではないか。
    いるとすればその‘何か’は追われる前から林の中にいたと考えるのが適切だろう――例えば、今自分達が追っているような連中とか。

     思わぬ二択に行秋が止まる。
    自分達の獲物でもある組織の連中が、何らかの理由から魔物達の襲撃にあったのか。人が襲われているのだとしても、対象が奴らではない可能性も捨てきれない。
    街道まで行けば千岩軍の庇護を受けられるだろうが、群れの中に‘暴徒’がいるとなると辺境に配属された少人数では手に余るかもしれない。加勢は必至、いずれにせよ魔物達の痕跡は追うべきだろう。
    ……しかし兼ねてより目星を付けていたこの場所に、一味の仲間が残っていたとしたら?
    奴らに逃げる隙を与えてしまえば、即ち異国の地で命を物扱いして金儲けを目論む奴らを野放しにすることにもなる――。

    どちらを追うべきかを決めかねていた行秋の思考を断ったのは隣で息を殺す親友だった。
    研ぎ澄まされた刀剣のように鋭い眼差しで群れの足跡が続く方角を見据えながら、傍らの友に声をかけた。

    「行秋、そこに見える岩壁に沿って進めば例の洞穴に辿り着ける筈だ。……任せていいか?」
    「え?あ、ああ……もちろんだ。君は一緒に来ないのかい?」
    「この先の方で水元素の力が少し増した……ような気がする。それに街道の方から微かに人の声が聞こえた、魔物に襲われている人々を放っておく事は出来ない。お前は連中の追跡に専念してくれ」

    ――片付いたらすぐに戻る。
    そう言い残すと重雲は行秋の返事を聞くことなく林の奥へと駆け出した。

    (僕の身を案じるとかそういうのは一切無し、か)

    武芸の手腕に信を置くからこそのそっけなさが、行秋の心をくすぐった。
    魔物に追われているのが何者であれ、魔物相手に重雲が遅れを取ることなどないだろう。僕がするべきことに、今は集中しなければ――。
    友の背が見えなくなる頃には行秋の心も既に切り替わっていた。







     言われたとおりに進んだ先に洞穴を見つけ、結局は無人だった内部の調査を終えた行秋は、重雲と別れた場所まで戻った。
    重雲はまだ戻っていない。あれから一時間と経ってないが、彼にしては些か時間が掛かっている。
    あの程度の魔物共に苦戦するとも考えにくく、とすれば何か他のトラブルに見舞われているのでは?という考えが行秋の脳を過る。
    少々心配になり、重雲が向かった方へと進む行秋だったが、途中で何かが聞こえたような気がして思わず足を止める。
    一帯は水浸しになっており、木の幹や茂みの所々に小さく霜が張り付いている。水スライム相手に重雲が得意の呪術を放ったのだろうが、見渡してもこれと言って変なものは何も無い。
    この先の雑木林を突っ切れば街道に出られるはずだ。友の無事を確認したい行秋が一歩動こうとしたその時。



    ――みゃあぁ。



    気が抜けてしまうような可愛らしい鳴き声に再び止められる。
    声がする方には小さな茂み。身を屈めて覗き込んだ行秋は、そこで見つけたものに愕然とした。
    頭で考えるよりも先に目いっぱい手を伸ばし、茂みに隠れていたものを引っ張り出す。――出て来たのは重雲が普段身に着けている見慣れたフード付きの白い装束と、それに包まれた一匹の猫だった。
    どうしてこんな所に彼の服が、と混乱する行秋を他所に、猫は抱き寄せられるままに小さな頭を遠慮がちに撫でる行秋の親指に鼻を擦りつけたり指先を吸おうとしたりと気ままにじゃれている。
    僅かに湿り気を含む白い体毛は木漏れ日を反射すると薄い水色を帯びており、透き通るようなライトブルーの美玉をそのままはめ込んだのようなまん丸な瞳で行秋をじっと見つめている。

    (そういえば、押収したリストに書かれた品種の中にも白猫って――)

    大人しく腕の中に納まる猫をまじまじと眺め、なるほどこれは確かに金持ちが好みそうな見た目をしている、と内心複雑な感想を抱き、そして行秋はあることに気付く。

    (重雲に、似ている……気がする)

    装束の上衣だけを残し、姿が消えてしまった友。
    残された上衣の中に潜り込んでいた、友に似た毛色の猫。
    見た目だけでなく初対面の人間に対してやけに人に懐っこいところも、行秋の目には重雲そのもののように映る。
    これまで読んできた本の中にあった非現実的な現象を思い返し、――あれは不慮の事故で猫耳と尻尾が生える人間の話であり猫そのものに変わるものではなかったが――所詮は寓話、こんな奇術が実在するわけない、と読書に耽っていたときは思っていた。しかし、目の前に置かれた状況は行秋の背筋に冷たいものを伝わせるのに十分で。

     仙境に篭もる仙人は動物の姿を借りるという話だ。僕が知らないだけで人を動物に変えてしまう奇術が存在するのか。
    まだ信じられないが、仮にこの子が本当に重雲だとしたら。元の姿に戻すにはどうしたらいい?
    最早一人で考えていても埒が明かない。旅人には申し訳ないが追跡任務よりも親友の身を優先させてもらおう。
    降って湧いた災難に行秋は眩暈を覚えながら、旅人との合流場所である軽策荘へと足早に移動した。
    西に聳える山々は夕日により赤く染り始めていた。



     取引先に現れた不審人物の捕縛は無事成功したらしい。先に軽策荘へ到着していた旅人とパイモンに迎えられた行秋は押収した証拠品を旅人に渡しながら、抱えた猫のこと、同行していた重雲がいなくなったことについて一から説明した。
    一通り聞き終わった旅人は少し考える素振りを見せ、すぐに行秋に向き直り璃月港へ向かう、と告げた。
    この状況を打破できる人がいるかもしれない、いなければ絶雲の間の仙人達にも相談しよう。パイモンも口早に相槌を打ち、行秋にはここで待つよう言い残して二人はその場を後にした。

     村の者が気を利かせ拵えてくれた温めのミルクを飲み終え、疲れてしまったのか部屋の隅で丸くなっていた猫姿の重雲を上衣ごと抱き寄せ自身の膝上に乗せ、さらさらとした毛並みを梳く。
    撫でられて気持ちよさそうに目を細める小さい親友の様子に、これが夢なら……せめて解決方法さえわかれば何の憂いも無くこの愛らしい存在を愛でられるのに、と行秋の心中は複雑だった。

    ――もしも彼が元の姿に戻る術が存在せず、このまま猫として一生を過ごすことになるとしたら。

    旅人に渡したリストの内容を思い出し、膝の上ですやすやと眠る温かな毛玉が自分の知らないところへ売り飛ばされる様を想像し、冗談じゃない、と首を振った。
    如何に旅人と言えど、軽策荘から璃月港まではなかなかに距離がある。ここへ戻るのはきっと翌朝になるだろう。
    千夜とも思える一夜、この晩行秋は一睡も出来なかった。







    「行秋ーーー!戻ったぞー!」
    「待たせてごめん」

     旅人達が戻ってきたのは空が白み始めた早朝だった。
    待ち焦がれた二人の声に勢いよく顔を上げた行秋だったが、旅人が璃月港から連れてきたらしい‘状況を打破できる人物’を見て唖然とする。

    「おはよう、行秋。昨日はお疲れ様」
    「……え、重雲…………?」
    「ん?どうしたんだ?」

    紛れも無く人の姿をした白い親友が目の前にいる。違うところがあるとすればいつも着ている白い装束を羽織っていないところだが、それは此処にあるのだから着ていなくて当然だ。
    困惑する行秋を他所に白猫は自ら重雲の元へ駆け寄っていく。慣れた手付きで猫を抱きかかえ、優しげに声を掛ける重雲を微笑ましく見守っていた旅人だったが、状況が理解できないでいる行秋を見かね、一連の騒動をまとめ始めた。

    「え……っと、まず二人に頼んでいた密輸グループなんだけど」
    「ああ。ぼくと行秋とで連中の小拠点らしき場所に目星は付けていたんだが」
    「……調査の最中で魔物の襲撃と思しき痕跡が街道に続いていたから、そこで二手に分かれた。君が魔物の方へ、僕は拠点の調査に。拠点の中には誰もいなかった。あったのは旅人、君に渡した証拠品だけだ」
    「うん。あれ、冒険者協会に渡してきた。総務司に提出するってキャサリンが言ってた」
    「それで、密輸グループは?」
    「それなら大丈夫だ。ぼくが追った魔物達だが、元々は魔物達があの洞穴を住処にしていたようで、件の連中が魔物達が手薄になった頃合を計ってあの場所から追い出したらしく、襲われて逃げていたのも、同じく手薄になった隙に襲撃し返された密輸組織の者達だった。問い詰めたらそう白状した。居合わせていた千岩軍にそのまま引き渡してきたよ」

    さっすが!連携プレイの勝利だな!と囃し立てるパイモンに、洞穴の調査を行秋に任せられたおかげだ、と照れ臭そうに重雲がはにかんでいるのを見て、行秋は自分の中の冷静さが戻って来るのを感じていた。

    「ところで、この猫は……」
    「街道へ向かう時に水の痕跡を頼りに進んでいたんだが、その途中で数匹の水スライムに囲まれていたから助けたんだ。体が濡れていたから服で温めてはいたんだが、あまり長く構っているわけにもいかなかったから、服ごと茂みに隠したんだけど」
    「重雲が戻ったの、きっと行秋がこの子を見つけたあとだったんだね」
    「ああ……盲点だったよ。璃月港じゃなくて先に軽策荘へ向かうべきだった」
    「なんで璃月港へ戻ったんだい?」
    「……発見したことだけでも先に報告しようと思ったんだ」
    「報告?誰に」
    「誰って……この子の飼い主。‘数日前から姿が見えない’とすごく心配してたから……まさか攫われていたなんて」

    ――無事に見つけ出せてよかった。
    そう口にしながら腕の猫に視線を落とす重雲を見て、行秋は己の中で結論を出した。
    追っていた悪は捕らえられ、七星によって厳正に裁かれるだろう。
    任務を共にした重雲もこうして無事だった。
    ついでにいなくなった猫も見つかった……そう、人を猫に変える奇術なんてものは存在せず、その見た目と警戒心の無さからてっきり重雲だと思い込んでいた愛らしい白猫は、人に飼われていただけのただの猫だったのだ。

    「はぁ~~…………」
    「え、行秋?どうした?具合でも悪いのか?」

    知らぬうちに張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れて、盛大な溜め息と共にへたり込んでしまった行秋を心配そうに覗き込む重雲だったが。

    「な、なんていうか……」
    「しばらくそっとしといてあげよう……」

    旅人とパイモンが行秋に同情を寄せるという珍しい光景に、事情を知らされていない重雲はただ不思議そうに首を傾げたのだった。
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    青井青蓮

    DONEめっちゃ遅れましたが重雲誕生日SSです。ごめんね重雲くん
    9月7日のカクテル言葉を参考にしたお話のつもりです
    いつも通り捏造と、お友達の面々もいますがほぼ重雲と鍾離先生です
    乾杯 朗らかな笑い声に気を取られ、首を傾げる者と連られて笑みを零す者が往来する緋雲の丘の一角。
    声の出所である往生堂の葬儀屋特有の厳かさはなりを潜め、中庭では代替わりして久しい変り者の堂主とその客卿、堂主が招いた友人らがテーブルを囲っていた。

     予め用意しておいたいくつかの題材に沿って、始めに行秋が読み胡桃がそれに続く。流麗に始まり奇抜な形で締め括られできた詩を静聴していた鍾離が暫しの吟味の後に詩に込められたその意味を読み解き、博識な客卿が至極真面目な顔で述べる見解を聴いた重雲は詠み手二人に審査結果を強請られるまでの間笑いを堪えるのに精一杯となる。
     題材が残り僅かとなり、墨の乾ききらない紙がテーブルを占領しだす頃になると、審査員の評価や詩の解釈などそっちのけとなり、笑いながら洒落を掛け合う詩人達の姿についには堪えきれなくなった重雲もついには吹き出し、少年少女が笑い合うその光景に鍾離も連られるように口を押さえくつくつと喉を鳴らす。
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