ようこそ!はばたき市へ 高校入学と同時に幼い頃に住んでいたはばたき市へ戻って来た。そんな日にわたしは一人の男の子に出会った。絵になるようなかっこいい人で、しかも高校まで同じなんて運命の出会いかも、なんて勝手に思っていた。
ところが、その彼、佐伯瑛くんはかっこいい外見とは裏腹に口が悪く、学校に内緒で店を手伝っていることを黙って欲しいと言っていたが、何だか偉そうな感じがした。これからの学校生活、どうなっちゃうのかな……なんて考えながら歩いていたら、
「あれ? どっちだっけ?」
帰り道に迷子になってしまった。学校の辺りは小さい頃でも来たことがほとんどなかったから道が分からない。折角新生活が始まるというのに、ここに帰って来てからいいことなんて何もない。もしかして、わたし、ここに帰るべきじゃなかったのかな……。
「何してんだよ、こんなとこで」
声がして振り返ると、佐伯くんがいた。もう既に制服からお店の服装に着替えている。
「佐伯くん。実は迷子になっちゃって……」
「何だまた迷子か。今朝の地図、持ってるか?」
「うん。これだよね」
今朝、初めて佐伯くんに会ったときに書いてもらった地図を出した。
「今いるのがここだから、このまま海岸沿いに歩いて突き当りを右に曲がれば大丈夫だろ」
佐伯くんは地図を手に説明してくれた。
「うん、ありがとう。わたし、引っ越して来たばかりだから、この辺のことまだ分からなくて」
「そうか。なら一つ教えてやる」
佐伯くんは海の方へ視線を移す。海を見る彼の目は今まで出会った彼の中で一番キラキラしていた。
「ここから海が見えるだろ? 明日の帰りにでも見てみろよ」
「うん。何かあるの?」
「それは明日になってから。っと、店の買い出しあるんだった。さっき言った通りに帰れよ」
「分かった。ありがとう」
店の買い出しへ走った佐伯くんを見送るように手を振る。明日の帰りにここで何があるんだろう……海を見る佐伯くんのあの目からつい期待してしまう。
そんな次の日の帰り、佐伯くんに言われた通りの場所へ来た。そして、海を見ると、
「わあ……!」
夕焼けに染まる海がすごく綺麗だった。はばたき市にこんな場所があるなんて知らなかった。
「中々いいサンセットスポットだろ?」
「佐伯くん!」
気が付くと、佐伯くんも来ていた。
「俺、ここから見える夕焼けの海が好きなんだ」
と、話す彼の目はやっぱり輝いていて。海が大好きなんだなって思った。
「わたしも気に入ったよ。教えてくれてありがとう」
初めて知る場所に、初めて触れた優しさ。やっとわたしもはばたき市に迎えられたような気がした。