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    m_rotktn

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    第4回 お題「祝福」
    特異点で現地民をタラタラしてるヨダナにちょっとグっと来てしまったビーマくんのはなし

    ナウツカ姫姉様みたいな兄王子が見たかったなどと供述しており

    #ビマヨダ
    #ビマヨダワンドロ

    まだ名はない「そら」
    無造作にずい、と差し出された手の中には、小ぶりな果実がひとつばかり鎮座している。
    「……」
    こころとからだ、咄嗟の反応が相反し、持ち上げかけた手は半端な位置で静止した。持て余した勢いを掌中で宥めながら、ビーマは努めて静かな声を出す。昼日中、ひと目もある往来でこちらから騒ぎを起こす事態は避けたい。
    「なんだよ、これは」
    「なに、ささやかだが報酬と言ったところか。護衛の任の足労と高貴なこの身を案じる殊勝な心映えは、わし様自ら労うに値するものだからして」
    「……ふざけろ。誰が護衛だ」
    ビーマともそう変わらない筋力A+190cm90kg剛腕巨漢の謀略系ヴィランに必要なのは目付、監視の意味での守り役である。当然ながらそのつもりで同道してきたビーマは、レイシフト先のややうらぶれた街中を孔雀のごとく闊歩する男を横目で睨め付けるが、当の本人はどこ吹く風という顔で長い髪と耳に提げた房飾りを肩口に遊ばせている。
    平然と向けられた手は相変わらずそのままで、たかだか果物ひとつの口実に拘泥しているのを鼻で笑われているような心地がしてくる。気の回しすぎとは自覚しつつ、せめてもの抵抗に小さく舌打ちを落として、ビーマはようよう片手の行き場を見い出す。
    おそらく皮ごといけるだろう。手を汚すこともないしと、英雄は丸のままひと口でその実を食らった。食感も味もなかなかのものだ。ちょうど食べごろだったらしく、思った以上に甘い。そのままでもじゅうぶんイケるが、調理するなら例えば――とビーマが料理人の顔を覗かせたのを見るや、ドゥリーヨダナもおもむろにその果実を口に運んだ。……もしかしてこいつ、ひとを毒見に使いやがったか。
    「人聞きの悪い。味見だ味見。まあ食えんものを寄越しはしないだろうが」
    手の中のものをちまちま齧りながら、ドゥリーヨダナはあとでマスターにもくれてやるかと呟く。
    この果物、確か何かの礼だと言ってこの地の住民から渡されていたのだ。
    「名を付けてやったのだ。あの者の子に」
    「……へぇ」
    「ぜひにと健気に頼むのでなぁ」
    子に、名を。
    こんなろくでなしに任せるようなことだろうか。いや一応これも生前は子を持った親であったわけだが。
    「物好きなやつもいたもんだ」
    「ふん、隠しきれぬわし様の偉大さに感じ入ったのであろう。あの者、たいした慧眼だな」
    「ぬかせ。どうせおまえが誑かしたんだろうが」
    我欲を満たすためなら手段を厭わぬろくでなしでありながら、ドゥリーヨダナという男は生前から人を惹きつけてやまないところがあった。夏の夜の篝火のようなカリスマは、何も同類の悪党ばかりではなく、カルナやアシュヴァッターマンのような連中までも時にその運命に巻き取ってしまう厄介なものだ。
    サーヴァントとして第二の生を得たカルデアでも日に日に人脈を広げているというし(ここはまあ、悪属性仲間を増やしているのがメインだろう。あと何故か幼い姿の者とよくつるんでいる)、レイシフト先でもしばしば現地の人間をたらし込んでいると聞く。
    先ほどの者も例に漏れず、ということか。
    「素直にわし様のコミュ強っぷりを讃えてはどうだ。いつの時代も現地拠点周辺での好感度操作ご近所付き合いは肝要なりと聖杯ペディアも言っておるわ」
    「おまえの妄言じゃねえのかそれ」
    「ぬぁにい?」
    やるかコラ、と下品なジェスチャーで煽ってくる様は、いかにもろくでもない小悪党である。
    ただまあビーマとしても、これに惹かれる心情が丸切り理解出来ない訳でもない。蓮の花色パドマランガの瞳に絹の髪。髭を生やした巨漢となった姿でも見てくれは極上であるし、溢れるほど愛を注がれ育った者特有の傲慢さも、暴風にも噛み付く負けん気も、鼻持ちならない気性まで好ましく思ったことがある。……ああ、確かにあった。
    「……るせぇな。口は閉じておけよ。さもないとすぐに化けの皮剥がれんぞ」
    何故だか無性にイラッとして、ビーマはやかましい口を物理的に塞いだ。具体的には無遠慮に寄せられた額を軽く・・指で弾いてやったのだが、ドゥリーヨダナはひと声あげる間もなく派手に仰け反り、バネのようにぐらんぐらんと半身を揺らしてその場に蹲った。
    ざまあみろだ、バーカ。
    「うぅ……頭が割れ……いや、爆ぜ…………てないかすでに……?」
    「……あの、もし」
    情けなく呻いている男に、旦那さま、と呼びかける者があった。
    「……んん?」
    「xxの子が旦那さまから祝福を賜ったと聞きました。どうか我が子にも、良い名を授けては頂けないでしょうか」
    恐縮のていで深々と頭を垂れるのは、ここらの通りで見かける中でも一段と質素で煤けた身なりの男だった。
    ドゥリーヨダナはくしゃりと乱れた髪を手早く整え、済ました顔で胸を張り、良かろうなどと重々しく答えた。変わり身の速さには、呆れを通り越して感心をさえ覚えるほどだ。
    「……して、その子はどこにおる。名を付けてやるにしても、顔を見んことにはな」
    「ありがとうございます、慈悲深いお方。ええ、我が子はそこに」
    男は道の端に控えていた連れを手招いた。同じく質素な(というのも実のところ幾分控えめな表現である)身なりの老女は、腕に抱かれた子の祖母なのだろう。男も老女も、ひどく曇った顔色をしている。
    「ふむ……」
    「……あまり強くはない子です。乳の飲みも悪い。あるいはそう長く生きられぬやもと……」
    「ほお。……女子おなご男子おのこ、どちらだ?」
    男子おのこでございます」
    「そうか。ではそなたの息子、しばしわし様に抱かせてはくれぬか」
    そう言って、ドゥリーヨダナが両の腕を伸べるのを、ビーマは目を細めて見つめた。己のそれと差して変わらぬクシャトリヤの太腕、あらゆる武具に通じた節くれだつ手指は、この世で最も柔く脆いものを事もなげに抱き留める。
    「おお、おお、なかなかのイケメンではないか。まあわし様には及ばぬが」
    よしよしとあやし始めると、それまでふやふやとか細く声をあげるばかりだった赤子が、突然火のついたような大音声で泣き始めた。
    「も、申し訳ありません……! これ、泣くんじゃあない」
    「嫌がってんじゃねえのか? やめてやれよ」
    「うっさいぶぁーーか。……あー良い良い、問題ない。赤子は泣くのが仕事ゆえな。ふふ……にしても、どこが弱い子か! これだけの声で泣く力を秘めておるではないか、なぁ」
    「……旦那さま」
    「そなたのような子に似合いの名があるぞ」
    花の香のごとく甘い声と唇で、ドゥリーヨダナは腕の中の幼いいのちを言祝ぐ。
    強く、大きくおなり――。
    とろりと綻ぶ眼がほんの一瞬、ビーマの姿をとらえたようだった。



    物好きと言うなら、この男自身も大概だろう。
    ……特異点で生きる者の名付け親になるなど。
    「明日死ぬとわかっている者の空腹は満たしてやらんでもよいと?」
    「……それは」
    欲しがるものにくれてやってなにが悪い。
    「別にこちらは損はしておらんのだしな」
    産褥にある赤子の母に、と袋に詰めて渡された果物の大方を分け与え、軽くなった手をドゥリーヨダナはひらひらと揺らした。
    ひとの心の明日を生きる希望を芽吹かせ、しかしその後の責任など知らぬと言うのである。それもまた、ひとつの道理ではあるだろうが。



    "点"は正しく点となった。
    後にも先にも繋がることなく潰えるものに。
    消えゆく世界に吹く風は、無数の祈りをその内に抱えていた。そこにいた何者かの唇から明日さきにむかって投げかけられた言葉――かわいい、愛しい子、強く大きく――しくおなり。
    行くあても戻る場所もなく行きすぎるそれに、風神の子は腕を伸べてひそやかに別れを告げた。


    ビーマ――ビーマセーナ。
    その名は長大な叙事詩に刻まれ、数千年もの長きにわたり人の世で語り継がれて来た。風神の 神性ちからを継ぐ剛力無双の英雄として、今なお求められることがあるなら、その願い祈りに応えるのがサーヴァントたるものの務めである。
    「ご馳走様! じゃあビーマ、また後で」
    「おう、マスター! ……で、そっちは何の用だ?」
    「とぼけおって。先ほどのはなんのつもりだ」
    ドゥリーヨダナの長い指がカツカツと、たいそう苛立たしげに食堂のカウンターを叩いた。
    「……なんの? 俺はただ、おまえが定食の小鉢ひとつ忘れてったから届けてやっただけじゃねえか」
    そういやその礼がまだだろうと指摘すると、ガキ臭くイーッと歯を剥く。
    「ア・リ・ガ・ト・ウ・ゴ・ザ・イーーーーます! ええい、手間のかかる。いいか、ビーマよ。金輪際あの呼び名を人前で口にするな」
    珍しく声を顰める男に、ビーマはひとつ結びの髪を揺らし、わざとらしく首を傾げてみせた。
    「……なんでか分からねえが、人前じゃなきゃいいんだな」
    「……ん? 何ゆえ結論そうなる??」
    「おまえが言ったんじゃねえか。いいぜ。その願い、しかと聞き届けよう、ス――」
    「やめよ今さら幼馴染みヅラ」
    「いいじゃねえか、減るもんじゃなし」
    生憎わし様は減るが、と苦い顔ですぐさま屁理屈を捏ねる。
    「……ならその分埋め合わせをしてやる。おまえにも損はさせない。……と、それでどうだ? "慈悲深い"旦那さま」
    おまえはこうも言っただろう。欲しがるものにはくれてやると。
    「……おまえに、垂れてやる慈悲などないが?」
    「……ああ、そうだな。俺も慈悲なんぞはいらねえ」
    「えぇー……」
    マジでいったい何がしたいの……と、一周回ってその眼は困惑に揺れた。まあそうだろうな。
    扉を開いたのはほんの些細なきっかけだ。ただ、その中から転げ出て来た昔懐かしい名に寄せる願い想いをなんと呼んだものか、ビーマ自身にもまだ見当がついていない。
    わざわざ抱え込んで名を付けてやると? 
    「…………物好きなやつもいたものだ、とでも言ってやるべきか」
    「物好き、なんて、そんなかわいいもんじゃねえだろ」
    もっと似合いの呼び名がある。
    芽吹いたものに名も付かず、酸いも甘いもの分からぬうちから、その実りの食べ頃を待ち構えている。そういうのはたぶん、悪食、というのだ。
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