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    bintatyan

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    bintatyan

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    ボーダーライン(https://poipiku.com/198482/11587217.html)のその後
    麻衣視点で麻衣と真砂子がかなり仲良しですがカプは滝安です

    #滝安

    夢じゃなかった今回は結構、ドタバタしてたなあ……とコードを巻き取りながらあたしはため息をついた。
    無事解決したものの、まだ早朝というにも早い。未明だ。ごく普通の一軒家だから、近所迷惑になるのも良くないし撤収作業は寝て起きてから、ってなことになっているものの、なんだか目が冴えてしまって眠れそうになかったので同室の綾子には先に寝ててもらい、ちょっとだけ片付けを進めていこうとベースに戻ってきてしまった。真砂子がいたら止められていたかもしれないけれど、今回はスケジュールの都合が合わず不参加だ。
    「……あーでも、なんか眠くなってきたかも……」
    体は疲れ切っているので、気持ちの高ぶりさえ収まってくれば当然眠くもなる。ふう、と座り込むともう動けそうにない。
    絶対、部屋に戻って布団で寝たほうがいい。わかってはいるけれど、体が鉛のように重い。
    ちょっとだけ、ちょっとだけ……と冷たい床にゴロンと寝転がった。うう、気持ちいい。縦になれない。少しだけこのまま仮眠をとらせてもらっちゃおうかな、と目を閉じてすぐ、そーっと忍ばせた足音が聞こえてきた。1人じゃない。2人か3人……少人数だ。
    誰がどこになんの用だろう、と考えつつもそのまま寝入ろうとしたとき、やはり音を立てないように静かな調子でベースとして借りていた部屋のドアが開いた。
    誰かが忘れ物でも取りに来たのだろうか、見つかったらこんなところで寝るなと起こされてしまうだろうけど、多分覗き込まれなければ物々しい機材の影に隠れて見えない。見つかったらその時はその時、といないふりを決め込んでいると、ひそひそ声が聞こえた。
    「なによ少年、急にこんなとこに連れ込んで。もー眠いのに」
    ぼーさんの声だ。少年、ということは安原さんも一緒か。
    「わかってるでしょ」
    安原さんの声は、なんだかいつもより低くて掠れている。疲れているからというよりは、怒っているような……安原さんがぼーさんに?今までになかったことだ。
    喧嘩だったら止めないと。でも、すぐに出ていけなかった今、盗み聞きしてるみたいでそれも申し訳ない気がする。いや、どう考えてもこのままこっそり聞いている方がまずいよね。
    どうにか眠い目を開けて起き上がろうとした瞬間、ぼーさんが気不味いのを誤魔化すみたいな、あちゃーって感じで笑うので、タイミングを逃してしまった。
    「いつからバレてた?」
    「思いっきりぶつけてるの見てましたから。雪乃ちゃんを庇った時でしょう?」
    雪乃ちゃんは依頼者の娘さんだ。11歳の女の子で、今回の騒動の原因となった霊が暴れた際にとばっちりで吹き飛ばされかけたところをぼーさんのファインプレーで事なきを得た。……確かに、その時、雪乃ちゃんをかかえこむようにして壁にぶつかって痛そうな音がしていたけれど、THE修羅場だったし、本人が「大した事ない」と言うのでそのままになっていた、と思い出す。
    「自分で脱ぎますか?僕に脱がせてほしいですか?」
    「いやんエッチ……はい、ごめんなさい。大人しく脱ぎます」
    うーん。ぼーさんと安原さんって、2人きりでもいつもこんな調子なんだな。本当に仲良いんだから。
    「みなさんの前で隠すのはいいですけどね、あなたってカッコつけだから。でも僕には……」
    「2人になるタイミングがなかなか掴めなかったんだよ。動けるから骨は無事だし、出血もない。医者にかかるほどの事態じゃないし後回しにしてたら今になったっつーか」
    ごそごそと音がする。多分ぼーさんがシャツを脱いだりだとか、安原さんが救急箱を漁ったりだとかしてるんだろう。ぶつけてたの、肩とか背中とかそのあたりだったもんね。
    ……そうか、安原さんはともかくあたしや他のみんなには結果的に言い出せなくなってしまったわけじゃなくて、最初から隠したかったのか。それにまんまと引っかかったわけだ。なんだそれ。
    心配くらいさせてほしいし、簡単な手当てくらいならできるのに。でも、ぼーさんらしくもある。悔しいけれど、騙されておいてあげたほうがいいのだろうか。無事に安原さんが気付いてこうして手当てはしてくれているしな。
    「痛そうな色……それにちょっと腫れてますね。触ってもいいですか?」
    「いいけど優しくしてね♡」
    「僕はいつでも優しいでしょう。……熱持ち始めてるな。骨は問題ないんですね?」
    「ああ、ただの打撲。骨イッてたらさすがに隠せない」
    「じゃ、とりあえず冷湿布で様子見かな。腫れがひどくなったり発熱したりしたら、病院にかかったほうがいいと思いますけど」
    「そこまでおおごとじゃないって」
    大怪我ではないらしい。ちょっとほっとする。それに、怪我を知っている安原さんが近くにいればぼーさんも無理はできないだろう。きっと、みんなが解散したあとにでもいつもの口車でぼーさんを言い包めて病院に連行してくれるはずだ。
    「明日、帰りの運転僕がしましょうか」
    「ったってお前、保険は」
    「1日だけのやつあるでしょ、ネットで申し込みしてすぐ使えるの。とはいえ僕まだ運転に慣れてないし、判断は明日の滝川さんに任せます。しんどいなって思うようなら何か適当に言い訳して僕に押し付けてくださいね、夢見が悪くて寝不足とかなんとか」
    うーん、やっぱり安原さんは頼れるなあ。サクサク話が決まっていく。
    「はいはい。そーするよ……つめてっ」
    「患部広いからもう一枚いきますよー」
    「うおっ、こら、優しくしろって言っただろーが」
    「こんな怪我隠して寝ようとしてた人に対する態度としては十分すぎるくらい優しいでしょ。うーん、剥がれてこないように包帯巻いちゃいましょうか。内出血は多少圧迫したほうがいいんでしたよね」
    「お、サンキュ」
    ……本当にしっかり者だ。あたしと2つしか歳が違わないんだよなあ。ぼーさんはあたしの10コ上くらいだったっけ?そこまでは違わないんだっけ。なんにしても安原さんとはあたしのほうが歳が近いのに、全然そんな感じがしない……なんて考えていたら、安原さんがぽつりと言った。
    「……僕にちゃんと言ってくれるつもりでした?」
    なんだか急に、迷子の子供みたいな声だった。普段と全然違う。
    「そのつもりはあったけど、部屋はジョンがいたしさ」
    「ブラウンさんなら怪我のこと言っても……」
    「あいつだけならまあ、いいんだけど。結構態度に出るじゃん。周りにバレる」
    たしかに、ジョンは関係者の中でも飛び抜けて素直で優しいのでそうかもしれない。なるほど、だから男子部屋――ナルとリンさんはそれとは別の2人部屋だ。狭い部屋になっても5人まとめて同室よりはマシだと言い切った――ではなくわざわざこっそりベースに来たのか。そうでなくとも救急箱はベースに置いてあったわけだから、持ち出したのを廊下で誰かに見られたら怪我人がいるってことがわかっちゃうしな。
    「あいつがすぐ寝てくれて助かったよ。ま、俺が言う前にお前に連行されたわけだが」
    「……だって、約束したじゃないですか」
    「うん、わかってる」
    あれ、と思った。知らず知らずのうちに、体がカチンと固まる。……なんか、なんていうか、ぼーさんの声がこう、砂糖と蜂蜜一緒にかけたみたいに甘い、気がする。聞いたことのない声色だ。
    「なあ、する?」
    「……まだ、包帯巻いてるところですよ」
    「終わったら」
    するって、何を?
    安原さんには伝わってるみたいだけど……。
    「僕の機嫌取ろうとしてるなら、嫌です」
    「そうじゃないって。せっかく2人なんだし、俺がしたいんだよ」
    2人ですること。2人じゃないとできないこと?こんな夜中に、びっくりするくらいベッタリ甘い声で。
    あたしだったら、もしこんな生クリームみたいな声でぼーさんに話しかけられたらワーッて叫んで飛び退いちゃいそうだ。でも安原さんは驚いてもいないようだし、平気らしい。
    「……はい、終わり。きつくないですか?」
    「ああ、平気。ありがとな」
    ごそごそと、多分ぼーさんが服を着ているのだろう音がする。安原さんも救急箱を片付けたようだ。
    ……あたし、なんでこんなところで息を殺してるんだっけ?出歯亀しちゃって本当に本当に申し訳ないし部屋に帰りたいけれど、今更絶対に出ていけない。どうしよう。するって、するって……一体なにをどこまで。
    「しないの、安原。ほらなんだっけ。モルヒネの十倍鎮痛効果があるとかなんとか?」
    「……黙って」
    安原さんがひどく掠れた声で言って、ほんの小さな衣擦れの音のあと、沈黙が落ちた。
    なんの音もしない。あたしの呼吸でここにいるのがバレてしまうのではないかと思うほど。
    「……鎮痛効果、ありそうですか」
    「うん。モルヒネ打ったことないから、効果の程は比べらんないけど」
    「ふふふ」
    静かになり、小さな笑い声がして、また静かになるのを何度も繰り返す。
    ひたすらじっとしていると、唐突に「チュッ」とあまりにもあからさまな可愛い音がした。
    や、やっぱり、キスしてるんだ!――そりゃそうだ、そうとしか考えられないやりとりだった。当たり前すぎる。てことはつまり、ぼーさんと安原さんは付き合ってるってことなのだろうか?いつから?
    「……部屋、そろそろ戻ったほうがいいな」
    「はい……」
    2人が立ち上がる。ようやく解放される、と安心して大きく息をつきそうになって慌てて飲み込んだ。まだ早い。
    「心配、したんですからね」
    ドアノブをひねったカチャ、という音にかき消されそうなほどのかすかな声で、安原さんが言う。ぼーさんはその声をちゃんと聞き取ったのか、「うん」と言った。そうだそうだ、心配してるんだぞこっちは。心の中で安原さんに加勢する。
    ……っていうか、つくづく安原さんってすごい。よく2人になれるタイミングまで怪我のこと聞くの我慢してたなあ。好きな人(ってことなんだよね多分)が痛い思いしてるのを気付いてて、それでも本人の意志を尊重してなんでもないふりするって、きっとすごく大変なことだ。
    「……滝川さん、体、ちょっと熱い気がするんですけど、熱上がってきてませんか」
    「馬鹿、お前、それは…………」
    ぼーさんの言葉の後半はくぐもっていてよく聞き取れなかった。
    というか、体が熱いって、それに気づくってことはつまりドアの手前で立ち止まってなんか……キ、キスとか、ハグとか、なんかそういうことをもう一回してたのだろーか。びっくりするくらいラブラブだ。
    最後に安原さんの「心配して損した」という言葉で、ドアは今度こそ開かれてまた閉じ、ようやく2人は帰っていった。2人分の足音が間違いなく遠ざかっていくのを聞きながら、あたしはようやく全身の力を抜いて脱力する。
    よくわからないけど、ぼーさんは結局熱はなかったのかな。実際怪我の影響で発熱してたら安原さんは心配を損だなんて言わないだろう。
    「はあー……びっくり……」
    付き合ってるのを秘密にしてるのはなんでなんだろう。
    報告してほしかった、とどうしても思ってしまう。なにか隠したい事情があるのかもしれないし、もうあたしは『なんで教えてくれなかったの』なんて駄々をこねたりしないけど。
    でも、まずは。
    「……部屋に戻って、寝て、それから考えよ……」


    「……それで、相談ってなんなんですの、麻衣」
    真砂子が一口紅茶を飲んであたしに話すように促すのを、縮こまって聞いていた。
    今日はバイトは休みだ。あの調査から――ぼーさんと安原さんの例のあれから、はや数日。
    最初は、誰にも話さないほうがいいと思った。だって2人が秘密にしているようなのに、あたしが勝手に誰かに言うわけにはいかない。
    でも、昨日のバイト中にはタカもいた。進学した大学の立地を考えるとバイトを続けるのは難しい、ということで高校卒業のタイミングで辞めたのだが、今もたまに遊びに来る。
    タカはぼーさんの大ファンだ。妹としてしか見られてない、と言いながらずーっと諦めずにいるくらいぼーさんのことが好きなのだ。ファン心理もごっちゃになっているみたいだけど、だからといって恋じゃないとは思えない。
    そんなタカの隣で、ぼーさんが他の人と付き合っていることを知っていて黙ったままでいるのがどうしても苦しかった。誰かに相談したくて、ちょうど『仕事先でおいしいお菓子をいただいたから麻衣にもどうかと思って』と連絡してきてくれた真砂子に泣きついてしまった。
    忙しいはずなのに、直接話したほうがよさそうだからと言ってくれたので2人で放課後に待ち合わせてお茶をしているのである。
    けれどやっぱり『ぼーさんと安原さんが付き合ってる』ってあたしから真砂子に話すのはいけない、と尻込みしているのだ。
    「麻衣。そんなに話しにくいこと?」
    困ったように眉を下げる真砂子に、全部話してしまうわけにはいかないけれどどうしても頼りたかった。
    「う、うぅー……ええっと……あのね、あたしの友達に好きな人がいて」
    「ええ」
    「でも、その好きな人には恋人がいるってこと、あたしだけ知っちゃったの。しかもあたしに気付かれてるってことはその友達の好きな人と恋人も知らなくって、多分付き合ってる事自体隠してて、それでっ」
    「落ち着いて麻衣。……みなさんお互いに知り合いなんですの?そのお友達と、好きな人の恋人も全員?」
    「うん」
    「……ナルのことではないんですわね?その、お、お友達、というのもあたくしではなく」
    「へ?あ、違う違う!それならこんなふうに真砂子に相談するわけないし、ていうかナルに恋人なんかできるわけ……って悪口かこれは」
    へへ、と笑うと真砂子も堪えきれない様子でちょっと笑った。
    「麻衣のお友達をAさん、その好きな人をBさん。そしてBさんの恋人をCさんとしますけれど」
    「う、うん」
    「まずAさんは、麻衣にとって大切なお友達ですの?」
    「大切だよ。それに、ずっと……えーっと、Bさんのこと好きなの知ってたし、応援してたから」
    「Bさんは?麻衣のお友達?」
    「友達……っていうか、うーん、まあ、付き合いもだいぶ長くなってきたし、親戚のお兄ちゃんとか……?結構年上だから友達とはちょっと違うかもだけど、仲は良いと思ってる」
    「そう。ではCさんとはどうですの」
    「友達……なのかな。Cさんもちょっと年上で、うん、気さくな人だし。やっぱお兄ちゃんって感じかも」
    あんなお兄ちゃんいたら楽しいだろうな、って思う。実際に妹さんがいると聞いたことがあるし、すごくいいお兄ちゃんって感じだ。
    「なるほど、BさんとCさんはお二人とも男性ですのね」
    納得したような真砂子の言葉に、目玉が飛び出そうなほど驚いた。
    「へっ?え、えっ?」
    「どちらも麻衣にとって『お兄さん』なのでしょう?」
    「あっ」
    うわあ、バカだ、あたしってば。もうホントに、すっごくおバカ。
    「これは肯定しなくても構いませんけれど、Aさんは高橋さん、Bさんは滝川さんかしら」
    ズバリ言い当てられて、ヒエッと息を呑んだ。
    「ま、真砂子……それは千里眼かなんか?」
    真砂子の能力は霊視というより千里眼なのじゃないか、なんて前にぼーさんたちと話したことがあったのを思い出す。けれど真砂子は、呆れたようにため息をついた。
    「あたくしの知らない麻衣のお友達の話なら、今ここで名前を言っても問題ないでしょう?わざわざ友達だとかその好きな人だとか、回りくどい言い方をする時点であたくしも知っている方のお話だってことくらい察しがつきますわ」
    「ごもっとも……」
    「麻衣がそれをあたくしに……というか、本人たちの関係を知らない相手に話してしまうのが申し訳ないと思って躊躇しているのなら、あたくし、今日だけのこととして明日にはすべて聞かなかったことにします。けど麻衣、あなたって隠し事が下手すぎるのだもの。ぼかして話すなんて無理よ」
    「……だよねえ」
    情けない。来年には大学生だっていうのに……いや、まあ、受かればだけど。
    「それで、Cさんですけれど。安原さん、ということでよろしいの?」
    まあ、特徴的に気付かれないわけないよね。
    「うん、そう」
    「元々、仲が良いとは思っていましたけれど……。付き合ってるというのは確実なんですの?そもそも麻衣が気付いたのは何故?」
    あたしは迷いながら、夜中に偶然居合わせてしまった件について説明した。起き上がるのをあきらめて床で寝ようとしてた下りでは眉間にしわを寄せていたが、とりあえずだまって聞いていてくれる。美少女って怒った顔も美少女ですごい、とほんのり現実逃避しかけながらも、ぼーさんの怪我のことも伝えてしまった。……これを言わないと、ただ単に夜中に人けのないベースにイチャイチャしに来ただけの2人になっちゃうもんね。
    「……なるほど」
    聞き終えた真砂子は、ちょっとほっぺたが赤い。知り合い同士のラブシーンってなんだかすごくいたたまれないし照れくさいよね。
    「確かに、恋人同士のように思えますわね」
    「でしょ?普段全然そんな風に見えないのに。やっぱ、隠してるんだろうなって。なんでだろ」
    「さあ、それはお二人なりの事情があるんでしょう。なにも理由がないなら話してくれるのではない?少なくとも、麻衣にすら言わないのは少々不自然ですもの」
    「え、そう思う?」
    「麻衣だってそう感じたから気になっているのでしょう?」
    その通りだ。
    ずいぶん仲良くやれてると思うし、一緒に大変な局面を切り抜けるとそれだけでなんとなーく戦友感というか、一蓮托生って気分になる。それを何回も繰り返してあたしも多少鍛えられてきたのだし、任せてもらえる部分も増えている。同時にたくさんおしゃべりして、みんなお互いのことを知って、かなり打ち解けていると感じていたのだ。
    なのに、付き合い始めたってことを教えてもらえなかったというのが――
    「……あたし、寂しかったのかも」
    「そうね」
    「言ってほしかったし、……そりゃ、タカのこと考えたら複雑な気持ちにはなったと思うけど、でもやっぱり、よかったねってあたしも言いたかったっていうか、あたしがそういうふうに思うってこと、2人にもわかってるはずって……」
    これは甘えとか驕りなのだろうか。ちょっと不安になって真砂子に視線を向けると、紅茶を一口飲んで当然のように頷いた。
    「でしょうね。だから、よっぽどなにか他に話せない事情があるのではなくて?……その、もしかしたらお付き合いはしていないとか」
    「えっ?いやいやいや、それはないって。だって……し、してたんだよ……チュって」
    「そういうことをする間柄の2人が全員お付き合いをしてる、というわけではないでしょう?」
    なぬ?それはつまりセ、セフ……そういうお友達、的な?言った真砂子も顔が真っ赤だ。積極的だしこういう発想自体はあるのに、本人は別に慣れてないんだろうな、というところがこいつの可愛いところなんだよな、うん。
    「でも、すっごいあまぁーーーーい雰囲気で」
    砂吐きそうなくらい、とジェスチャーする。真砂子は甘い雰囲気のぼーさんと安原さんを想像してみたのか、何とも形容しがたい奇妙な表情をしている。あたしだって居合わせなければ想像もつかなかった。
    「今はまだどちらかが口説いているところ、という可能性は?」
    「……どっちかっていうとぼーさんが積極的だったかなあ?安原さんの方がちょっと、まだ包帯巻いてるところだから、みたいなこと言って。……結局してたけど」
    「なら、安原さんも満更ではないのじゃございません?言えない理由があるか、実は付き合ってはいないか、どちらかじゃないのかしら。わからないけれど、今は高橋さんに話すわけにはいかないでしょうね」
    「だよねえ……ごめん、聞いてくれてありがとう」
    答えは変わらないけれど、一緒に考えてくれた人がいて、真剣に話し合って出した答えがあるってことに安心した。
    「でも、実は麻衣は気付かないうちに眠っていて、夢を見ていたのかもしれませんわよ」
    ツンとすまして言うところがいつも通り可愛くない。
    だけど、これも真砂子の気遣いなんだよね。ありがたく受け取って、夢だったのかも、と思うことにしておこう。
    ……と、思ったんだけど。
    帰り道、真砂子と駅に向かって歩いているとなんとびっくり、ぼーさんと安原さんが、少し前を歩いていたのだ。
    あのあと話題が移ってからずいぶん話が盛り上がってしまって時間が遅くなったので、多分安原さんはバイト帰りで、ぼーさんはオフィスに遊びに来ていたんだろう。
    そうか、2人がいつの間にそんなに急接近したのかと思ったけど、バイトに入るのが安原さんだけの時もあるもんな。そこにぼーさんが遊びに来て2人っきり、てなことも当然あるわけだ。ナルとリンさんは出勤してても基本的に出てこないから、カウントしないとして。
    「ねえ真砂子、あれ……」
    「ええ、滝川さんと安原さんですわね。……帰り道に一緒に歩いてるのは普通でしょう?今のあたくしと麻衣もそうだもの」
    「そりゃまあ、そーだけど。なんか距離近くない?」
    肩がぶつかりそうな距離で、すごく仲良さげに歩いている。それとも、2人が特別な仲だって知ってるからそう見えるんだろうか?
    「……人通りが多いですし、不自然なほどでは……と言いたいところですけれど」
    やっぱ、いつもより密着してるよね。真砂子と視線を合わせて頷き合う。
    声をかけようかどうしようか、悩んでいると駅の手前で2人は脇道に逸れた。
    ……なんか、ぼーさんが安原さんの肩に腕を回して促してたように見えたけど、見間違いかな。そりゃ、ぼーさんはもともとスキンシップ多い方ではあるけどさ。
    「あの二人、帰んないのかな。……ご飯行くとか?」
    ちらりと頭をよぎるのは、『付き合ってないけどオトナな関係かも』という真砂子の想像だ。このあと2人はどこに行くんだろう?
    「……デートかしら」
    「あたしの夢だったって説ぶちこわさないでよおっ」
    「だってあたくしもこの目で見てしまいましたもの。……こう、腕だけ回すのでなくて、体全体がくっついて……」
    言いながら、真砂子があたしの腕を掴んで真砂子の肩に回させてくっついてくる。……そこは素直に真砂子があたしの肩に腕を回せば?いいけどさ。
    でもやってみて思う。なかなかないよね、この距離。目茶苦茶体温感じるもん。
    「やっぱりぼーさんが安原さんのこと一生懸命口説いてるところなのかも」
    「でも、これを受け入れているなら安原さんだって相当滝川さんのこと……」
    「あれかな、付き合う直前のさ、両思いだけど確認し合ってないときが一番楽しいみたいな?」
    「知った風に言って、麻衣は経験あるんですの?」
    「うっ、ないけどぉ……」
    あーだこーだと言い合っていると、駅に着く。そういえばべったり密着したままだった。なんだか照れくさくて、2人で笑いながら離れる。
    「……じゃ、またね。今日はありがと」
    「ええ、また」
    ホームに向かう真砂子を見送って、歩き出す。
    夜中に見たあれも、今日見たことも、全部夢。明日にはあたしも忘れる。そう心に決めた。
    ――数カ月後、2人揃っての交際報告に「やっぱり夢じゃなかったんだ!」と叫ぶことになるのだけれど、もちろん今日のあたしはそんなことは知らないのだった。
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