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    Ac_4265

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    『そこは猫じゃないのかよ』
    ※未来捏造同棲設定

    サン…オコラボネタです。

    ##シャムウィル

     【HELIOS】は市民に親しみを持ってもらうため、企業と提携することも少なくない。提携と言っても勿論仕事を手伝うなどという話ではなく、パッケージに『ヒーロー』の姿が印刷された商品が扱うなど――俗に言う『コラボ』というものが行われる。
     そしてこの度【HELIOS】は日本のキャラクターメーカーとコラボしたらしい。女性をターゲットとした可愛らしいキャラクターが多いとのことで、おそらく男性が多い故女性ファンが多くなりがちな『ヒーロー』との相乗効果を図ったのだろう。そこにとやかく言うつもりは勿論シャムスにはない。
     さて、何故騒がしい場所を嫌う彼がわざわざショッピングモールに足を運んでいるかと言えば、このコラボのための特設コーナーができているからである。無論シャムスは市民たちのようにグッズを買うつもりはない。このコラボについて楽しげに語っていた『ヒーロー』である恋人の話を聞いているとちょっとだけ――ほんのちょっとだけパネル展示くらい見に行こうという気になっただけである。女性の人波を掻き分けながらグッズを手に入れようとする気概は生憎シャムスにはなかった。腹立たしいことだが、動物において雌とは往々にして強い生き物なのである。
     だが――パネルを見た瞬間、自分の体が固まることになるなどシャムスは思ってもいなかった。


     ウィルは困り果てていた。原因は勿論と言うべきか、彼の恋人である。家に帰ったその時から彼の機嫌が悪いのは明白だった。しかも1年に1度見るかどうかというレベルの悪さである。もし彼が【サブスタンス】をまだ持っていたなら、この家は爆発で焼け野原になっていたかもしれない。
     心当たりを脳裏に思い浮かべてみるが、ここまで機嫌を損ねられるほどのことをした記憶はない。よって本人に聞くしか手段はないのだが、恋人はウィルの『ただいま』にも応じることなく先程から一言も話し出しそうな様子はない。日本で言う『取り付く島もない』とはこのようなことを指すのだろう。
     ともあれ、このまま無言の応酬が続いては埒が明かない。ここは年上である己が覚悟を決めるしかないだろう。ウィルは息を1つ吐いて恋人――シャムスを伺うように見やった。
    「ねぇ、シャムスくん。――何か嫌なことでもあったの? それとも俺が気付かない内に何かやっちゃってたかな?」
     努めて優しく尋ねてみるが、シャムスが口を開く様子はない。しばらく1人にしてあげるのが彼のためなのだろうか。ウィルが先程とは違う理由で息を吐くと、シャムスの眉がぴくりと上がった。
    「…………今日」
    「今日?」
    「お前の仕事、見に行った」
    「え、パトロールの時にいたの? 声掛けてくれたらよかったのに」
    「ちげーよ。……今やってるだろ、コラボ」
    「ああ、パネルを見に行ってくれたんだ?」
     可愛らしいキャラクターと写真を撮るというのは少し気恥ずかしさもあったが、知名度の高い『ヒーロー』から選ばれたこともあり反応は上々らしい。妹からも最近見に行ったと連絡を受け取っていたウィルは顔を綻ばせた。
    「ふふ、ありがとう。……もしかして人混みが凄かったからそんなに機嫌が悪いの?」
    「機嫌なんか悪くねーよ」
    「嘘。さっきから俺とも目を合わせてくれないじゃないか」
     そう言われ、反射的にウィルと目を合わせてしまったことにシャムスは直ぐ後悔した。目の前には大地を思わせる目を真っ直ぐこちらに向けるウィルがいる。どこまでも誠実なその瞳を見るとシャムスはもう嘘を吐けなくなるのだ。
     本心を言葉にするのはとても恥ずかしい。が、そんなちっぽけなプライドで恋人を悩ませたくはないし、そもそもウィルには格好悪いところを散々見られてきた。今更だろうとシャムスが結論づけるのにそう時間はかからなかった。
    「……笑うなよ」
    「笑ったりしないよ」
    「……で、…………じゃなかったんだよ」
    「え? ごめん、もう1回言ってくれる?」
    「何で! お前は猫じゃなかったんだ!」
    「…………へ?」
     予想外なシャムスの訴えに、ウィルは目を丸くする。ねこ、猫。シャムスが猫を可愛がってるのは周知の事実だがそれは関係ないだろう。確か今日コラボの展示を見に行ったと言っていた。自分と一生に写っていたキャラクターは――。
    「……赤いヤツと青いヤツは猫だったから、お前もそうなんだろうって思ってたんだ」
     ばつが悪くなってシャムスは視線を逸らす。自分でも馬鹿馬鹿しく、子どものような駄々を捏ねている自覚がある。それでもアキラとレンが並んでいたキャラクターを見た時、つい期待してしまったのだ。……その結果がこの有様だという訳だが。
     どれほどの沈黙が続いただろう。シャムスが再びだんまりを決め込んでいると、再び笑い声が頭上から降ってきた。
    「わ、笑うな!」
    「ご、ごめん。でも……ふふっ」
     ウィルは口を手で抑えるものの、笑いは堪え切れておらず今にも目に涙を浮かべそうだ。こうなったらいくらでも笑えば良いとシャムスは1つ舌打ちした。
    「……あのさ、シャムスくん」
    「なんだよ」
    「ごめんね、猫じゃなくて」
     花がモチーフだったのと、自身がかつて中心となったイースターの【LOM】が好評だったからあのキャラクターになったのだとウィルは語った。
    「アキラは赤色! っていうのがイメージだったし、レンは猫が好きだから……ってとんとん拍子で決まっちゃったんだよね」
    「……わかってるっての、そんなの」
     いくら発言権があろうと多忙な『ヒーロー』のことだ、おそらくコラボキャラのプロフィールを確認することくらいがせいの山だろう。それをしてるだけマシだとも思っている。
    「今度は猫関係でコラボできるようにお願いしておくよ」
    「そんなこと一々言わなくていい!」
     ウィルはレンやシャムスの影響で猫と親しむだけで、彼自身が猫が好きかと言えば普通だろう。そんな発案をすれば誰の影響かなど考えるまでもなくなる。
    「え〜? 良いと思ったんだけどなぁ……」
    「別に猫なんか何時でも会えるからいいんだよ」
    「…………ふふ、そうだね」
     明日は一緒に餌やりに行こうか。そう言うウィルにシャムスは1つ頷いた。


     ――これは余談だが、後日ウィルのエリオスチャンネルが更新された。写真には笑顔の彼と、彼の横でピースをする猫のキャラクター。どうやらコラボということで着ぐるみが会場に来たらしい。
    「ハッ、馬鹿らしい」
     そう嗤いつつも、ハートと星型のボタンを押したのはシャムスだけの秘密だった。
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