Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    浬-かいり-

    @Kairi_HLSY

    ガルパ⇒ハロハピの愛され末っ子な奥沢が好き。奥沢右固定。主食はかおみさ。
    プロセカ⇒今のところみずえなだけの予定。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 138

    浬-かいり-

    ☆quiet follow

    ハロハピ

    #ガルパ
    galpa
    #ハロハピ
    halo-happi

    笑顔で待ってる ベッドに腰掛けたままカッターの刃をゆっくりと出すと、ちきちきちき、という特徴的な音が耳に届いた。いつもはなんとも思わない音なのに、今日に限ってはいやに不快で、耳を刺すように響いてくる。頭が痛いのは、きっと音が不快だからってだけじゃない。

     頭が痛い。ガンガンと低い音が鳴り響くように感じるのに、夕陽が射し込む部屋の中はあたし一人しか居なくて静まり返っている。それが余計に、あたしの中の思考をぐるぐると掻き回していた。
     言われた言葉が、経験した出来事が、まるで今さっきの出来事だったかのように反芻しているような気さえして吐き気がする。気分が悪い。中学生にもなって、油断すると大声を上げて暴れて泣いてしまいそうだった。悲哀にも、焦燥にも、苛立ちにも、どれに部類するのか自分でもよく分からない、ぐちゃぐちゃとした感情がせめぎ合って胸の奥をのたうち回る。

     考えているうちに耐えきれなくなって、あたし自身を保っていられなくなりそうで。カッターを握ったままの右手を動かす。
     銀色の刃が夕陽を反射して、それが眩しくて目を細めた。構わず、左の手首に刃を当ててみる。冷たくて、無機質な感触。ゆっくりとそのまま横にスライドさせてみれば、あっけなく赤い線が刻まれる。


    「……痛、」


     小さく呟く。
     裂傷から赤い血がぷっくりと出てくるのを、ぼんやり眺める。脳に伝わる痛みと視覚に入る赤色で、ぐるぐるしていた頭の中が少しだけクリアになっていくのを感じた。ちょっとずつ、冷静さを取り戻す。


     死ぬ度胸は無い。大層な怪我をする度胸も無い。だけど、自分で自分を傷付けることでしか、痛みを感じることでしか、この行き場の無い気持ちをぶつける方法が無くて。

     こんなこと、やっちゃいけない。頭では分かってるはずなのに、「もっと逃げたい」という心の欲求に逆らえなくて。
     罪悪感に苛まれながら、またカッターの刃を手首に当てた。今度はもう少し強くやってみようと、ぐっとその右手に力を込めた。そのままスライドさせようとして、



    「どうしてそんな顔をしているの?」



     右手に、あたしのものではない手が重なった。
     びっくりして顔を上げてみると、知らない女の子が目の前に居た。しゃがみ込んで、あたしの顔を見上げている。金色の長い髪と、金色の大きな瞳。重なった手が温かい。
     知らない人が急に自室に居たことに本来なら恐怖を覚える筈なんだけど。手の温もりになんだかひどく安心して、泣きそうになってしまう。


    「うわ、どうしよう、痛いよね……っ。絆創膏する?」


     反対の左手を、また知らない女の子に取られる。同じようにしゃがみ込んでいるのは、短いオレンジ色の髪の女の子だった。
     心配を孕んだまん丸の目が、あたしと傷口を交互に見つめてくる。
     ああ、どうしよう、泣きそうだ。鼻の奥が痛くなるのをどうしようか困惑していたら、両手の温もりが無くなって。代わりに頭に手を置かれた。
     潤み始めた視界の中、あたしに目線を合わせるように膝を折る水色の髪の知らない女の子が居た。優しく頭を撫でてくる。


    「もうすぐ会えるから。もうすぐ笑顔になれるから。だから、もう少しだけ、待ってて」


     また、横から腕が伸びてきて抱き締められる。見上げてみれば、紫色の長い髪をした女の子……というより、女性と言う方が相応しい知らない人。


    「私達は、みんな美咲に会えるのを楽しみにしているよ」


     撫でてくる手の感触も抱き締めてくる腕の感触も優しくて、温かくて。安心するな、と自覚した瞬間に涙がぽろっと溢れた。もう自力じゃ止められないそれは、嗚咽と一緒に溢れていく。


    「笑顔よ、美咲」


     金色の髪の女の子が笑う。ベッドに横にされれば、あっという間に瞼は重くなる。
     もう朧げになってきた意識の中で、頰と目尻を指が撫でる感覚がした。
     おやすみ、またねって。そんな言葉が聞こえたような気がするけど、その四人がどんな顔をしていたのかは、もう確認する気力が無かった。



     あれ、今の人達、なんであたしの名前を知ってるんだろう。





     アラームが鳴り響いて、目が覚める。今日の予定はなんだっけ。バンドの練習が午後からあって、新曲を作って、それからこころの家にみんなで泊まるんだった。
     寝不足だからか、やけに重たい頭を無理やり起こしてベッドに腰掛ける。……何か、夢を見ていたような気がする。

     左手首にぴりっとした痛みを感じた。見てみるが、そこに傷は一つも付いていない。
     首を傾げてから、立ち上がる。早く支度して出掛けよう。
     今日はなんだか、いつもより早くみんなに会いたいような、そんな気がした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works