拝啓、過保護なきみたちへ。「おかえり、みーくん! よかったよ〜〜〜!!」
不覚にも敵のアジトに捕らえられて尋問……というか拷問に近いソレに合うも、ボスであるこころに直々に救助されて。無事に五体満足で本拠地に帰ってきた。
涙目のはぐみに出迎えられて、きつくハグされる。正直身体の節々が痛いけれど、心配を掛けさせちゃったからな。大人しく受けておく。はぐみも無事みたいで良かった。
薫さんと花音さんも手を振って出迎えてくれるけど、いやあなた達も敵アジトに乗り込んでたこと知ってるんですからね。白々しくない? 有難いけどさ。
「そうね、美咲はまずお風呂に入ってくるといいわ! そのままだと寒いでしょう?」
今のあたしは、水を頭から被った為ずぶ濡れだ。帰る時に、寒いからと自分のジャケットを貸そうとしてくれるこころと一悶着もあった。惨敗したので今のあたしの肩にはこころのジャケットが掛けられている。濡らしちゃったけどこれ一体いくらするジャケットなんだろう。怖いので聞かずにそのまま黒服さんに託しておいた。
何故か付いて来ようとする四人を手で追い払って、一人でシャワーへと入る。身体を動かす度にあちこち痛いし、シャワーのお湯が傷口に滲みる。なんとか温まって、着替えて自室に戻った。
「やあ。おかえり、美咲」
自室のドアを開ければ、出迎えたのは薫さん。よく見るとその後ろに他の三人も居る。
「……なんでみんな居るわけ?」
ここ、あたしの部屋なんだけど。ボスの部屋でも無い狭い部屋に、ボスと幹部が揃い踏み。まあ集まっている理由は大体察している。あたしは視界の端に、花音さんの持つ救急箱を捉えた。一つ、深い溜息。
「美咲は怪我をしているでしょう? だから———、」
「あー、うん、ありがとう。救急箱持ってきてくれたんだよね。じゃあ、あとはあたし一人でやるから貸、」
「あたし達で手当てしようと思うの!」
ボス自ら??? ボスであるこころの台詞を遮って主張しようとするものの、強引に言い切られてしまった。ちくしょう、最初からそのつもりで此処に来たな。
花音さんから救急箱を奪おうとしたけれど、腕は避けられ空回り、薫さんに手を引かれそのまま椅子に座らされた。あたしも幹部の一人だけど、どっちかと言うと指示役と言うか、参謀的な裏方の立ち位置だ。純粋な戦闘員である二人に身のこなしで敵うわけがない。
「ほら、美咲ちゃん。痛いところ出して?」
微笑む花音さんに、あたしは観念して袖を捲った。こんなやりとり、一度や二度じゃないじゃないか。腕の擦り傷と痣に、花音さんは手慣れた様子で消毒液を傷口に塗り、ガーゼを貼ったり湿布を貼ったりしていく。他の三人はそれを近距離で眺めていた。何これ。絶対これ四人もいらなくない?
「わ、これ痛かったよね……?」
「いや、大したことじゃ……」
あたしの手首を取って、花音さんが顔を顰めた。両手首はロープで縛り付けられていた為、擦り切れてしまっている。結構きつく縛られていたから、結構傷跡は痛々しい。
「消毒、滲みるかもしれないけど我慢してね」
「みーくん大丈夫? これお風呂痛かったよね……?」
正直痛かったけど、敵のアジトに捕らえられて尋問にあっていたのだ。四肢が無事で帰って来れただけでも幸運なことなんだろう。
あたしは首を振って、はぐみの頭を撫でる。嬉しそうな顔をするはぐみに安心して微笑むのも束の間、今度は薫さんに顎を掴まれた。
「……顔も怪我しているね。可哀想に」
「まあ殴られたりもしたんで……、いや近い近い」
さっき鏡を見たら、口元が切れて目元には痣が出来ていた。傷口を見るにしては不自然なくらい薫さんの顔が接近して心臓に悪い。押し返したいけれど、本気で心配してくれてるのは理解しているので無碍にもできない。
「はい、できた。これで終わりかな?」
「うん。ありがと、花音さん。薫さんも」
手首には包帯、口元には絆創膏、目には眼帯。正直過保護過ぎる処置な気がしなくもないけれど、それだけ大事にされてるってことでいいのかな。
終わったので椅子から立とうとしたら、こころに後ろから両肩を掴まれて椅子に戻された。驚いて振り返り見上げると、不満げな顔。
「……なに、こころ?」
「まだよ」
「え?」
「まだ診てもらってないところがあるでしょう?」
にっこりと笑うこころから目を逸らそうとして前を向こうとしたら、両手で顔を掴まれて阻止された。至近距離にこころの顔。笑ってるのに怖い。
「あの、こころ……?」
「何かしら?」
「もしかして、怒ってる?」
「いいえ?」
首を振るこころ。いやこれ絶対怒ってるでしょ。
ボスの笑顔の威圧に怯えるあたしを見兼ねて、花音さんがあたしの手を取った。
「こころちゃんね、美咲ちゃんのことすごーく心配してたんだよ」
もちろん私たちもだけど、と花音さんはちょっと怒ったような顔をして付け足した。
はぐみが一人で泣きそうになりながら帰ってきた時、こころは単身で救助に向かうつもりだったらしい。それを止めた結果が、総出での敵アジト襲撃に繋がったと。……心配してくれるのは嬉しいけど、やることはムチャクチャだ。
「……わかったよ」
観念したあたしは、着ていたタンクトップの裾を捲ってお腹を見せる。そこには一番大きな痣。思いっきり蹴られたせいだ。
振り向けば、少しだけ眉を下げたこころの笑顔があった。心配と、安心と、慈愛を含んだような笑顔だった。あたしはまだ、この顔に慣れない。
心配されるのはくすぐったいけれど、嬉しくて。あたしはよく一人で無茶をしてしまうから。こうして自分のことのように心配して過保護になってくれる人達が傍にいるのは、結構効果があるように思う。
こんな仕事だけど。こんな仕事だからこそ。あたしを大切にしてくれる人たちの中で、あたしも自分自身を大事にしていけたらいいな、なんて思う。……あんまり過保護過ぎるのは、勘弁だけど。