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    浬-かいり-

    @Kairi_HLSY

    ガルパ⇒ハロハピの愛され末っ子な奥沢が好き。奥沢右固定。主食はかおみさ。
    プロセカ⇒今のところみずえなだけの予定。

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    浬-かいり-

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    ハロハピ年少組+戸山市ヶ谷

    #ガルパ
    galpa
    #ハロハピ
    halo-happi

    サマーナイト・センセーション「……やっぱり、さ。無理だよ、あたしには」


     7バンド合同の野外ライブ。特設ステージの裏、機材が並びスタッフが往来する灯りの少ないスペースで、ライブTシャツを着た奥沢美咲は蒼い顔をして首を振った。
     今は夜。日中にぎらぎらと殺人的な光を放っていた太陽は引っ込んでいるとはいえ、熱帯夜の今日は蒸した空気が流れていて嫌な暑さだ。ステージの方からは熱気の冷めない観客達の声が聞こえてくる。


    「諦めるのはまだ早いわ、美咲!」

    「そうだよ、みーくん! そんなこと言わないでよ……!」


     眉を下げる美咲を囲うようにして声を掛けているのは、同じバンドメンバーである弦巻こころと北沢はぐみだ。この二人も今日はステージ衣装とは違い、この日の為に作られたライブTシャツを着用している。
     珍しく真剣な顔をしたこころと、必死に訴えかけるような表情のはぐみ。そんな二人に詰められても、美咲の曇った表情は変わらない。


    「でも、さっき見てきたけどなんかたくさん居たし……。あたしの力じゃ……」

    「まだやっていないのに、ダメって決めつけるのは美咲の悪い癖だと思うの」


     ぎゅ、とこころが両手で美咲の手を握る。この暑さの中、美咲の手はひんやりと冷たい。真剣に見据えてくる金色の瞳から、美咲は目を離すことが出来なかった。


    「あたしたちがすぐ傍に付いているわ。何も怖くないわよ、美咲」

    「そうだよ! 何かあっても、はぐみたちがみーくんを守るよ!!」


     美咲の反対側の手を、はぐみも強く握りしめる。美咲は二人の顔を交互に見た後、ちらりと視線を逸らして。——再び首を振って俯いてしまった。


    「でも、あたしじゃ二人みたいには……、」


     そこから先は声になることはなく、美咲は口を噤んでしまう。自分もやると決めたのは他でもない自分なのに、いざその場面を目の前にしたら動けなくなってしまうなんて。情けなくて仕方ない。
     そんな彼女の背中を押すように、こころとはぐみは二人で美咲を抱き締める。体温の高い二人に抱きしめられ、しかもここは冷房も何も無い夏の野外。暑いはずなのに、不思議と嫌な気持ちはしなかった。


    「これまで、色々調べて準備してくれたのは美咲じゃない。美咲が居ないと意味がないわ」

    「そうだよ! はぐみだって、みーくんと一緒にやりたい!」

    「こころ、はぐみ……」


     身体を離した二人の顔を、美咲は見つめる。そのブルーグレーの瞳からは、もう迷いは怯えは消えていた。


    「……ごめん、ありがとう二人とも。そうだよね、弱気になってたって仕方ないよね」

    「この為に色々頑張ってきたんだもん、みーくんなら大丈夫だよ!」

    「あなたならきっとできるわ! 行きましょう!」


     手を引くはぐみとこころに、美咲は力強く頷く。そうして三人はゆっくりと歩み出した。
     ————ステージとは真逆、公園の林の方へ。


    「ウワッやっぱ気持ち悪い色んな虫がひしめきあってる……!」

    「そこよ、美咲! そこに居るわ!」

    「狙ってるのだけ素手でガッていけばいいんだよ、みーくん!」

    「やっぱり無理はぐみかこころがやって……! わああああああなんかこっち飛んできた!!!」

    「わぁ、大きなちょうちょさんね!」

    「それ蛾だよ、こころん!」


     そんな奮闘する林の外。騒ぐ三人を見やる市ヶ谷有咲は、眉間に皺を寄せた顔で隣に居る戸山香澄に声を掛けた。


    「……なあ、香澄」

    「なぁに、有咲?」

    「ライブはもう終わったのに、ハロハピは真剣な顔して何やってんだ?」

    「あそこの木にカブト虫がいっぱい居るんだって」

    「カブト虫」


     女子高生三人が、夜の林でカブト虫を捕るべく盛り上がっている。
     カブト虫以外の虫も大量にひしめきあっている木に腰が引けている美咲、応援しながら意識は大きな蛾へと奪われるこころ、そしてクワガタを片手に応援するはぐみ。その姿はさながら、夏休みの小学生男子となんら遜色はない。

     やがて少しして、興奮した様子で三人が林から戻ってくる。捕獲に成功したらしい。


    「あいつらマジで何してんだよ……」

    「あっ市ヶ谷さん、ほら見て見て。大きいカブト虫捕れた」

    「こっち持ってくんなよ!!!!!!!」


     矛先が急に此方を向いたので思わず声を荒らげて追い返す。自分以外のバンドメンバーは興味津々で美咲が右手で掴むカブト虫を見に行った。お前らも小学生か。


    「ていうか、こんな都会の公園にカブト虫とか居るのな……」

    「あのね、あーちゃん。バナナを焼酎と砂糖と一緒に揉んでハッコー? させるといいんだよ!」

    「なんでライブ会場に丁寧に罠仕込んでんだよ」


     しかもそれ、1〜2日前に準備しないといけないやつなんじゃねーの? こいつら此処にライブしに来たのかカブト虫捕りに来たのかどっちなんだよ。
     有咲は呆れて肩を落とすが、恐らく両方である。ハロー、ハッピーワールド! というバンドにおいては、きっとこの虫捕りすらもバンド活動の一部であると言うだろう。


    「そうだ、こころん! カブト虫の歌を作るってどう?」

    「それは素敵な考えね、はぐみ! 今ならとっても良い曲が作れると思うの!」

    「えっ、今!? 待って待って、録音するから!」


     鼻歌を歌い出すこころに、美咲が慌ててスマホを取り出す。カブト虫を肩に乗せた状態で。
     ……それで本当に曲が出来ちゃうところがハロハピの凄いところだよな、と。有咲は一人感心する。ライブ直後に虫捕りする姿勢は全然理解出来ないが。


    「ねえ有咲! 私たちも、」

    「却下」

    「まだ何も言ってないよ!?」


     この流れに身を任せると、自分のバンドも虫捕りするとか言い出しかねない。香澄には悪いがその要望は実行に移さぬまま、一緒に夏に閉じ込めておいて欲しいと有咲は切に願うのだった。
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