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    pokeuri3

    @pokeuri3
    ポケモンのホモ絵や設定を流しちゃうぞ☆

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    POIPOI 13

    pokeuri3

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    生まれつき片目(左目)の視力が弱い杉と声が出せない銀のお話
    の尻叩き用

    #高銀
    highSilver

    人々は与えられた物を当たり前のものとして受け入れ生きていく。それがどれほど恵まれたことかなど考えることも無く。かく言う俺も、その人々の一部に過ぎない。



    いつもと変わらない喧騒の中。その片隅で小競り合いをする馬鹿共がいるのもいつもの事で、そんなのは気にも止めやしないのに、この日は何故かその数人の集まりが気になってしまった。若い男数人に囲まれる白い男。比喩でも何でもなく、見たまんま真っ白い男だった。頭髪が白で目立つのもそうだろうが、その男は白いパーカーに色あせて薄水色になったジーンズ、大きな白いトートバッグを肩から下げマスクをしていて頭から足先にかけ、身につけてる物のほとんどが白くざわざわと忙しなく行き交う人々の中でも一際目立っていた。
    その男たちがいる方へ丁度向かう所だったこともあり少しばかりそいつらの近くをわざと通れば白と思って居た髪はむしろ銀に近く、ふわふわと手触りが良さそうにぴょこぴょことあちこちはね回っている。その色と言う色を宿さない様に見えた男の中で唯一色と言えたのは白にとてもよく映える、柘榴のように鮮やかな赤い瞳だけだった。
    丁度横を通り過ぎようとしたタイミングで、数人組の男の1人が覇気のない白銀の肩に手を回し細い路地へと入っていく。いつもならこれ以上の詮索なんてしないのに、この日は何故かあの白銀が気になってしまい静かに男達が入って行った路地を覗けば、その綺麗な髪を鷲掴みにされ、壁へと叩きつけられる白銀。その光景を見てなぜだか無性に腹が立った。思わず助けに入ろうと路地へ足を踏み入れた瞬間、目の前で白銀が舞う。
    まるで蝶が空へ舞うように軽やかに、重力なんてものが存在しないのではと思う程自然に。一人の男の頭に華麗に足を回し入れた白銀から、目が離せなかった。
    気づいた時には数人の男共は地面に尻を付き、狐に摘まれたような顔を目の前の白銀へ向ける。少しして我に戻ったのか慌てて俺の横を走り抜け大通りへと戻っていく。その男達の背を追いかけていた赤い瞳が俺を捉え、微かにその眉が寄せられる。あからさまに不快感を顕にさせながら眠たげな瞳を何度か瞬きさせ、何もしてこない俺にとりあえずの警戒を解いたのか道の端に落ちたトートバッグを持ち俺の反対方向の路地から出ていった。

    今目の前で起こったことがまるで夢だったのではないかと思えるほど俺の突っ立っている路地は静けさを纏った。小さく息を吐いて、その場を立ち去ろうと踵を返そうと動いた時、手帳のような物が視界に入る。
    少し前まであの白銀が立っていた場所。その落ちている手帳を恐る恐る手に取り中身を確認すればその間からはらりと落ちてきた学生証。その学生証を見て驚いた。

    「……同じ大学なのか、あいつ」

    坂田銀時。
    その名の通り、銀を身に宿した男。
    それが、俺と銀時の初めての出会いだった。




    翌日の夕方、一通りカリキュラムを済ませ、各々個人的な課題に取り組み始める時間。昨日拾った学生証を眺めながら昼に学食で買ってきたミックスサンドに齧り付く。
    写真の中ではあの鮮やかな白銀も赤い瞳もなりを潜め、ただ死んだ魚のような目がやる気なさげにカメラへ向けられている。

    「(美術学部、絵画専攻。…あいつが?)」

    絡んできた輩を華麗にいなしてみせる身体能力と専攻のギャップにただ無意味に学生証をくるくると表裏を行ったり来たりさせる。書いてあることが変わることなど無いのに。柔らかく吹いた風が頭上の木々を揺らし木漏れ日が形を変えていく。その様子をぼんやりと眺めていると、大きなギターケースを担いだサングラスにヘッドフォンとこの大学に居てもなかなか目立つ格好の男が近づいてきた。

    「ここに居たか晋助」

    俺を見つけるなりかけられた言葉に小さくため息が出る。

    「いや何、新しい曲が出来たのでな晋助にも聞かせようと思ったのだ、今日じゃなくて構わんから聞いてみてはくれぬか?」

    いつの時代の人間だと言いたくなる様な口調のこの男、河上万斉はこの大学の音楽学部、作曲専攻に通っている。そしてこうやって度々作り上げたデモテープを渡してくる。そんなのは暇な教員に頼めと何度も言っているのだが、「晋助の助言の方が的確で助かる」との理由で俺の助言は受け入れられていない。
    差し出されたデモテープを受け取りながら、残りわずかだったミックスサンドを口に押し込んでお茶で流し込む。

    「分かった」

    一言だけ返してから荷物をそうそうに片して傍に置いていたトートバッグとバイオリンケースを手に取り、腰を上げれば万斉が首を傾げる。

    「どこかに行くのか?」
    「ちぃと野暮用がな、美術学部ってのは何処だ?」
    「美術学部?それならこの道を真っ直ぐ突き当たりまで行けば美術学部の敷地だが、何故また美術学部に?」
    「落し物を拾ったんでな」

    じゃあな、と離れれば万斉はそれ以上言及してくることは無かった。おそらく頭の中では職員に渡せば済むことなのになんて思ってるんだろう。しかしこれは他人に任せるにはあまりに勿体なく思ってしまった。あの白銀の事が知りたい、そんな下心を抱きながら俺は言われた道を1人歩いていた。
    この大学は音楽学部と美術学部が一緒になったデカい芸術大学で、俺はそのまま音楽学部の器楽を先行している。もっぱら使うのは音楽学部の校舎の方ばかりで正直美術学部の方に足を踏み入れるのはここに通って3年目になるが初めてに等しかった。美術学部も向こうと同じで何棟もの建物が連なっていて、全く土地勘のない俺では探し人を探すのさえ難しそうだった。タイミング良く、話し込んでいるグループの人間が目に入ったのでそいつらに声をかけた。

    「すまねぇ、絵画専攻ってどこで活動してる?」

    バイオリンケースを背負った見るからに音楽学部の人間が声を掛けてきたことに驚いたのか、キョトンとした目を向けられる。

    「絵画専攻の奴の学生証を拾ったから、届けてぇんだが」

    少し困ったような声を出しポケットからその学生証を見せればそいつらは納得したようにひとつの校舎を指さした。ただ1つ注意されたのは各々の場所で創作してるヤツらが多く、校舎に行っても見つけるのは大変かもしれないとの事だった。まぁ、行けば何とかなるだろうと思いそのまま言われた校舎へと足を向ける。
    言われた校舎に入れば、絵の具の匂いなのかそれとも別の薬品の匂いなのか独特な匂いが鼻をかすめる。校舎の中を歩いているとさっきのやつらが言ったように校舎のあちこちで作品を作っている奴らが目に入った。ちらりと俺を視界に捉えながらも直ぐに自分の作品へと向き直るその様はなんとも画家というものを体現しているようで笑いそうになった。そんな中、俺はあの白銀を見つけるべく奥へとすすむ。
    ここの学部の奴らはほんとに自由らしい。歩いていれば教室でも作業室でも、廊下や階段の踊り場など、どこででも何かしらの作品を描いている。
    それに最初こそ感心していたが、だんだんThe自己中とも言えそうなその光景に自分には到底分からない世界だな、なんて思いながら階段を上がる。
    しかし、それなりの時間この校舎を探し回ったが一向にお目当ての坂田は見つけられない。さすがに扉の空いていない部屋は学部が違うだけに開けずらいため確認もできない。もう今日は諦めて帰ろうかと踵を返そうとしたその時、遠くの方でキラリと白銀が視界の端に揺れた。見間違いかとも思ったが慌てて後ろを振り向けば見覚え之ある柄のトートバッグが丁度角を曲がっていくところだった。急いで後を追って曲がって行った角を曲がれば、そこに人影はもう無く、変わりに少しだけ隙間の空いた扉があった。
    ちょうど西日が煌々と差し込む角度の様で廊下全体が橙色に染まり、細かい埃が光を反射しキラキラと舞う。何だかこのまま別の世界に迷い込んでしまう様な大袈裟な小説のワンシーンのようで、そんなことを一瞬でも考えた自分におかしくなった。しかし、それでも何故か早まる鼓動を落ち着かせるように小さく息を吐いてその閉じかけの扉に手を伸ばした。

    キィィィ、

    蝶番の錆び付いた音が、扉を開ける際に静かな空間に響き、別に悪いことをしている訳でもないのに中に居る人物にバレてしまいそうで鼓動はまた早くなる。
    中に入れば、廊下と同じように西日がたっぷり注ぎ橙色に染まる教室。その真正面に大きなキャンバスが壁に立て掛けられその周りにはブルーシートが敷かれていた。その大きなキャンバスにただ黒一色だけで描かれた絵に、絵画の事など少しも知らない俺でさえ息を飲んだ。
    大きなキャンバスに描かれていたのは桜で、ただ1本の大きな桜の木だった。黒の濃淡だけで描かれているにも関わらず、その木に注ぐ光やそよぐ風の音、薄紅色の花弁が見えるかのように鮮やかだった。少しずつその絵に近づいていたその時。
    きぃぃぃ、と部屋の奥の扉が開かれた。
    その音の鳴る方へ顔を向ければ、探し求めていた白銀と目が合う。
    射抜くように真っ直ぐ向けられる赤い瞳。その顔が少しだけ歪み、あからさまに表情に「お前誰」と浮き上がる。前も思ったが、こいつは相当表情に感情が乗りやすいらしい。

    「…お前、坂田銀時か?」

    声を掛ければその顔はさらに歪んだ。
    坂田が何か言う前に俺はポッケに入れていた学生証を出し坂田の前に差し出す。

    「昨日、てめぇが絡まれてた場所に落ちてた」

    学生証と俺の顔を交互に見てようやく記憶と合致したのか歪められた表情は一気に気の抜けたものへ変わり俺の手から学生証を受け取る。
    ぺこり、と軽い会釈だけ返されて坂田はそのまま絵の前に行ってしまう。
    ありがとう、の一言も言わないのかなんて思わなくもなかったが、これだけでこいつとの関わりが終わってしまうのが何故か無性に残念に思えて、俺は坂田の後ろに移動する。

    「その絵、お前が描いてるのか」

    声を掛けてきた俺に少し不思議そうな顔をしていたがまたこくりと頷く。

    「そうか、うめぇな」

    美大生なのだから当たり前か、とも思ったが、ポロリと本音が零れた。それにも表情ひとつ変えず坂田はおもむろにスマホを取り出し何かを打ち込み出す。
    すぐに打ち込み終わった画面が俺へと向けられ俺はその文字を読む。

    『ありがとう』

    そのくらい口で言えば良いだろ、と思ったのが顔に出たのか坂田は何かに気づいたような表情になりまたスマホに素早く文字を打ち出す。そして差し出された文面に俺は今までの人生で一番の衝撃を与えられた。
    比喩でもなんでもなく、本当に生きてきた十数年で一番驚かされた。

    『俺、声が出ないの。』

    差し出された画面の後ろで「あー」と口を開けながら喉を抑える坂田が居た。確かに呼吸のような掠れた音は聞こえても、それは声と言うにはあまりに遠いもので、俺はまじまじと坂田を見つめた。
    何も声をかけることが出来ずただ呆然としている俺にまた坂田が画面を突きつける。

    『学生証、ありがとう。知ってるだろうけど、俺は坂田銀時、あんたの名前は?音大生さん』

    そう言って画面の向こうで笑う坂田はとても意地の悪い、イタズラ小僧のような無邪気な笑顔をしていた。
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