トラウマ今でも思い出せる。
あの日、あいつを斬った感触を。
あの日、あいつから体温が無くなっていく感覚を。
手が、震える。
結局俺は守られてばかり。
俺は誰も、何も守れやしないんだ。
『ああそうさ、お前は何も守れない。そして皆お前の事を憎んでいる。側にいる者からも』
そう、言われてニヤリと笑われた。
「っ!」
一気に目が覚める。
額と背中には大量の汗。
「……最近、よく見るな」
最近よく見るんだ。この夢を。
そして隣にはあいつが眠っている。
あいつは奇跡的な力によって戻ってきてくれた。
俺の側にいる事を約束してくれた。
あいつが俺を選んでくれた事は嬉しいし、今度はどこかで生きていてくれたら良いじゃなく、側で共に生きたい。
でも、よく見る夢によって本当にそれでいいのか、この夢は俺があいつの側にいるべきではないという警告なんじゃないのか、と思えるようになってきた。
「……銀時」
寝ていると思っていたのに名を呼ばれて体がびくりと震える。
「あ……起きてたのか」
「お前がうなされてたから」
「そりゃ……すまねぇ」
謝ると、高杉は俺の額に触れてきた。
汗を拭われる。
「怖い夢を見ていたのか?」
優しい声でそう問う高杉。
甘えて本音を言ってしまいそうなところをぐっと堪える。
「……お前に甘味を奪われる夢だ」
「そりゃァ、怖い夢だな」
「あぁ、すげー怖かった。明日冷蔵庫のプリンがなくなってたらお前のせいだ」
「ククッ、プリンなんかいくらでも買ってやらァ」
そう言って頭にぽんと手を置いた後、その手が背中に回った。そしてぐっと体を引き寄せられる。
目の前には高杉の胸元。生きている音が聞こえる。
「俺はここにいる。手を伸ばすなら俺にしろ」
うなされてた時何か言ったのか、無意識に手を伸ばしていたのか、高杉は俺の欲しい言葉をくれた。
「……俺、変な事言ってたか」
「別に。でも、俺に関する事なんだろうとは思った」
そう言って高杉は俺を見る。
その目が言え、と言っているように思えたから、一息吐いた後口を開く。
「……お前を斬った事、トラウマになっちまってる。そんな夢だ」
種明かしをすると、抱き寄せられたままの腕に力が入るのを感じる。
「俺ァ、あの時お前に斬られて幸せだったよ」
「それでも……好きなヤツを斬るなんざ、させるもんじゃねえよ高杉」
あの時はああするしかなかった。
それによってこの星は守られた。
けど、俺の心は深い傷がついた。
「その後目の前で松陽も消えちまったし……流石の俺も堪えたよ」
だから今目の前にいる高杉も気付いたら消えちまうんじゃないか、そう思わない事もなかった。
高杉の寝間着の袖をきゅっと掴む。
「なぁ高杉、俺、お前が思う程強くなんかねぇんだ……幻滅する?」
自嘲するようにそう言うと、高杉の手が髪に触れる。
「お前が強いのも、弱いのも知ってる。考えもしねぇ事やるクセに臆病だったりな。だが、俺のせいでトラウマ抱えるようになっちまったってんなら、毎日俺を感じさせてやる」
高杉の袖を掴んでいた俺の手に高杉の手が触れる。
そして指の隙間を埋めるように握られた。
所謂、恋人繋ぎってヤツだ。
「……お前だって、チビのクセに猪突猛進野郎だよ」
「だったら、俺の手ェ離すんじゃねェよ。こうやってりゃ走れねぇだろ。あと身長は関係ねぇ」
手を離すな、か。
以前の俺らなら出てこない言葉だったろうよ。
そんな事を思って少し笑った。
「お前は俺を抱えてでも走るだろ」
「わかってんじゃねぇか」
「本気でやりそうだけど、街ではやめろよな」
「俺ァ、お前は俺のモンだって見せつけてやれて好都合だけどな」
「飲みに行った時揶揄われるからマジでやめてくんない?」
「ククッ、いいじゃねぇか。俺は気分がいいぜ」
楽しそうにそう言う高杉の手をキュッと握る。
「……見せつけてやらなくたって、俺はとっくにお前のモンだよ」
そう言って高杉の胸に顔を埋める。
言った後熱くなった頬を隠す為に。
「あぁ、知ってるぜ、銀時」
心地よい心音を聞いている内に瞼が降りてきた。
「このまま寝てもいい?」
「まだ夜明け前だ。今日は仕事もないんだろ? ゆっくり眠りな」
心地よい声を最後まで聞いた後、眠りに着いた。
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いくら強い銀さんでもあの日の事はトラウマになっているんじゃないかな、と思って書いたお話。
皆、強いけど弱いんです。人間だもの。