Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    sougetsu_nhz

    常に文書きリハビリをしている。
    @sougetsu_nhz

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 5

    sougetsu_nhz

    ☆quiet follow

    七夕のいちゃいちゃしてるやつ

    #ジクアグ
    dikuag

    鵲の橋の上甲板を滑っていった雲の向こうに、踊る金の髪を見た。
    夜半のことである。
    「何をしているんだ?」
    艇が風を切る音に紛れて気づかなかったのだろうか。おもむろに手を宙へ伸ばしたアグロヴァルは、そのまま固まってしまった。辛うじて首だけが動いてジークフリートを見る。
    「少し酔って風にあたっていただけだ。……抱きつくな、鬱陶しい」
    人目がないのをいいことに気まずくそろそろと下ろす腕ごと抱きすくめる。酔ったという体はたしかに常より少し熱を帯びているが、酒になのか船になのかは定かでない。拒否は言葉だけで腕には収まっていてくれる男の視線を真似て空を見る。
    「星が掴めそうだ」
    「貴様」
    「すまん、唇を読んだ」
    垣間見えた詩情が思いのほか胸を打って、捕まえておきたくなったのだった。国土を離れ空にある時の男は時折、王や兄と名のつく殻からやわらかい魂だけがまろび出たかのような顔を見せることがある。その様はどうしようもなくジークフリートの追う慕を誘った。
    アグロヴァルが人知れずもらした言葉の通り、艇から見上げる空には雲も少なく、一面に星が満ちている。
    「星祭りの伝承では雨が降ると天の川が増水して年に一度の逢瀬が叶わなくなるそうだが、こうして雲の上を飛んでいればその心配はないんだろうか」
    「益体もないことを」
    眼下の島々は今、低い雲に覆われている。途上で乗り込んできた他の団員によれば数日は広く雨が続いているそうだった。異国の説話にならって艇の共用部に飾られていた笹は、次の島で下ろされるべく倉庫に眠っている。
    「星の河より高く飛べる艇などなかろうし、雲の上を永劫飛び続けることも我らにはできぬ」
    また雲の一群が甲板を滑り、そこにいる人間などお構いなしに通り過ぎていく。まもなく地上に雨を落とす雲はもののついでのようにふたりの髪と肌を濡らしていった。
    「潮時だな。我は戻る」
    腕の中から抜け出たアグロヴァルは数歩分の距離をあけたところで立ち止まり、ジークフリートを振り返った。濡れて先ほどより重くなった髪は風に流れず、そのほんの少しの距離でも掴み損ねる。
    「そも、星祭りの男女が逢瀬を年一度、しかも晴れて橋のかかる時だけと禁じられた理由は恋にかまけて本来の職を疎かにしたからなのであろう」
    七夕の夜、幼い団員たちが聞かされた物語をどこかで耳にしたのだろうか。向き直ったアグロヴァルは薄らと笑んでいる。瞼の間で、赤い瞳がそれこそ星のように光を弾いた。
    「貴様は天より処罰を受けるほど怠惰だったか?」
    あらかじめ否定を含んだ問いを投げるだけ投げてアグロヴァルは踵を返した。歩調は常よりも速く、その背中らあっという間に船室へ続く扉の向こうへ消え、船室に姿のなかったアグロヴァルを探しにきたはずのジークフリートがひとり甲板に残される。
    己のことはともかくとして、ジークフリートと交誼を結ぶようになってからのアグロヴァルが己の責務を怠るようになった、などということは当然なかった。むしろ互いに耽溺できるような素朴な関係ならばいくらか簡単だったかもしれない。ゆえに、このことを天から罰せられる謂れはないとアグロヴァルは言外に語るのだ。
    濡れた髪から伝った雫を手で拭う。そういえば彼の髪も随分濡れていた。
    (新しいタオルを運んだら受け取るだろうか)
    そんな口実も不要と受け入れられたようなものだが。
    艇の上での逢瀬は別に天罰でなくとも稀である。その時間が得難いものとなるように希って、とうに消えた彼の背を追った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖🙏🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    sougetsu_nhz

    REHABILIジクイベ後1年くらい弄って書いてたやつ
    その日、所用があって艇内のジークフリートの部屋を訪れたパーシヴァルは、作り付けの机上に見慣れない筆記具が置かれているのを目にした。深い青の軸に、天冠とクリップの金が目を惹く万年筆である。クリップには彫金が施されており、遠目にも瀟洒なつくりのそれはそもそも物の少ない船室の中で浮いてさえ見えた。
    「ああ、アグロヴァルの……お前の兄上のものだな」
     パーシヴァルが気にしていることを見て取ったジークフリートは、あっさりと、だが意外な名前を口に出した。当然の経過としてなぜ兄の物がここにあるのかを問うと、「諸般の事情でウェールズを訪れた際に取り違えて持ってきてしまった」と言う。
     パーシヴァルは兄が万年筆を使うところを見たことがなかった。城にあって政務についているならば執務室内に置かれたペンとインクを使うだろうし、視察先で必要になったとしても従者が携えているだろう。兄自らが懐に筆記具を携帯している場面があるとは思えない。それがどういう誤りがあってこの男の手元にやってくるのだろうか。首を傾げるも、肝心のジークフリートはそれ以上このことをつまびらかにするつもりはないようだった。こういうとき、問い詰めたとしてろくな回答がないだろうことは予想がつき、また強いて必要なこととも思えなかったので早々に追及を断念する。
    4716

    sougetsu_nhz

    REHABILIなんか風景書きたくて書いたやつ
    恵まれた秋空に色づく木々の合間から覗く空は、よく晴れて高く蒼い。
    緩やかに歩ませる馬の背から眺める森の風景は穏やかだ。木々が陽光に向かい先を争って枝を広げ葉を茂らせる夏よりも、落葉樹が務めを果たした葉をいくらか放した今の方が森は明るい。暗がりを好む魔物は何処か他所へ去り、時折顔を見せる者達はおとなしく、冬支度にと落ちた木の実を集めている。
    歩む蹄の固い音は厚く積もった落ち葉に吸われてしまう。今アグロヴァルを包む光景は信じがたいほど静謐だった。
    午後から視察に出るとだけ言えば優秀な側近は事情を飲み込んだ。そもそも数日前に隣国の港に懇意の騎空団の艇が停泊しているという話を吹き込んできたのも彼であったので、特段驚くべきことでもないのだが、物わかりのよさが少々落ち着かない事案でもある。視察に行くと言いながら馬を引いてまで人出のある街と反対方向の森に来たのはそういう事情もあった。これから顔を合わせるだろう相手はどうせ、アグロヴァルがどこに姿を隠そうが勝手に見つけ出す。ただ察しのよすぎる側近には、どこかで示し合わせて落ち合うような気安さではないことを言い訳しておかなければならなかった。
    1536

    related works

    recommended works