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    ミトコンドリア

    @MtKnDlA
    捻じ曲がった性癖を供養するだけの場所です

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    『お前の鼓動は20億回ぽっちで止まる』
    👹が拗らせ散らかしてるだけ

    鬼子母神 ミスタの薄い腹のあたりに耳を寄せる。きゅう、くる、くう、きゅる。内臓の脈動、生命の駆動音。ミスタはベッドに入るとき服を着ないので、その薄い皮や肉、細い骨の奥でほとんど直にそれを感じる。
     目を閉じている彼が死んでいるのではなく、ただ健やかに眠っているだけだという証。……人間というのは、死んでもすぐ様相が変わらないから、ヴォックスは毎朝眠るミスタを見ては胃の底を冷やしているのだ。誰にも言っていないし、この先言うつもりもないけれど。
     目を伏せ、そのまま頭を滑らせて心臓の上に横たえる。規則正しく刻まれる鼓動は起きているときよりだいぶスローペースではあるものの、それでもヴォックスのものよりずっと速い。 同じ血の色をしていて、似たような皮を被っていて、彼と自分のそれが同じ形をしていても、同じ時を刻むことは決して無い。ミスタはどうしたってヴォックスを置いてゆくし、ヴォックスはどうしたってミスタから過ぎ去ってゆく。
     人間になりたい……。
     同じ速さで老いて、同じ土の下に埋まりたい。
     ヴォックスは時たまフッとそう考えては、叶わない望みに真剣に手を伸ばす自分がおかしくってクツクツ笑うのだが、今日は違った。疲れていたのかもしれない。もう日が天辺に差し掛かろうという空が珍しく晴れていて、アテられてしまったのかもしれない。
     白い腹に手のひらをぺったりつけて、ゆるゆる撫でる。…………。人間の条件とはなん だろうか。ひとの胎から生まれたならば、それは人間だろうか。 十月十日を過ぎても母の胎にいた鬼子というのもあったが。

     ────ア、ミスタの胎に還りたい。

     ……しかし、渇望する柔らかなゆりかごはもちろんミスタには無い。そもヴォックスは胎の中の生ぬるい安寧を知らないので、母胎回帰願望というと少しズレているが、彼は今確かにそう思ったのだ。鳴呼、懐かしきかな麗し曼荼羅の胎!
     あたたかい血と肉の中、羊水の中、螺旋の記憶の始まりの場所。そこを巡って生まれ落ちたら、俺は人間になれるだろうか。生きて老いて死んでゆけるだろうか。

    「あああ……」

     ミスタに胎が無くてよかった。その温もりを静けさを、注がれるであろう愛を、この先誰も知ることはないのだ。よかった。このおぞましい化け物を、この子が産み落とすことは、無いのだ。よかった。
     何も知らない平穏なミスタは何事かむにゃむにゃ唇を動かして寝返りをうつ。 背中に浮かぶ肩甲骨の淡い陰影を無意識に指でなぞった。 これを人間が天使だったときの名残だと言ったのは誰だったのだろう。
     ミスタ、鳴呼。 ミスタ。狂おしいほどに愛おしい、可哀想な、可愛そうなミスタ!愛している。愛している愛している。
     無粋な神とやらがお前の翼を腕がなければ、お前はもっと自由に、美しく生きられただろうに。悪魔に絡めとられずに済んだろうに。
     俺もお前も地獄ゆきだ。でも、もし、 他に行き先を選べるのなら、

    「お前の胎がいいなあ」

     ポツリとこぼれ落ちたその言葉を、きっとミスタは聞いていない。



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    ミトコンドリア

    DONE『義人はいない。ひとりもいない』

    職人の👹が✒️にハイヒールを作る話
    You are my, この頃は、男でもハイヒールを履く時代である。
     18世紀、ルイ王朝時代にハイヒールは高貴なる特権の象徴として王侯貴族に広く好まれた。舗装された路を歩き、召使いに全てを任せ安楽椅子に座る権利を誇示するために。今ではそれは、美というある種暴力的な特権を表すためのものになっている。
     ヴォックス・アクマはそのレガリアを作る職人のひとりであった。彼の作るハイヒー ルは華美と繊細を極め、履いて死ねば天国にゆけるとまで謳われる逸品。しかし彼が楽園へのチケットを渡すのは彼に気に入られた人間のみであり、それは本当に、幾万の星の中からあの日、あの時に見たひとつを探し出すよりよっぽど難しいことであった。

     いつものように空がマダラに曇った日、ヴォックスは日課の散歩に出ていた。やっぱり煙草は戸外の空気(そんなに綺麗なもんじゃないが)の中で吸った方が美味いもので。 数ヶ月の間試行錯誤している新作がどうにも物足りずにむしゃくしゃしていて、少し遠くの公園まで足を伸ばした。特にこれと言って見所は無いが、白い小径と方々に咲き乱れる野花の目に優しい場所である。
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    ミトコンドリア

    DONE『お前が隣に居る日々を』

    🦊が👹から逃げる話
    ミスタ・リアスの逃亡/帰還「エッ」

     ヴォックス・アクマは心の底から驚いて言った。昨日の夜中にたしかに腕に抱いて眠ったはずの恋人が、朝日が昇るのと同時に忽然と姿を消していたのである。 びっくりした猫ちゃんみたいな顔のまま空っぽのスペースをしばらくジッと見つめ、ノソノソベッドから降りた。脱ぎ散らかした服を適当に洗濯機に突っ込んで、早足で家中を回る。ベランダにもトイレにもミスタの姿はなく、ヴォックスは右手にティーカップを 持ってリビングのソファにドッカリ座り、なんとなくテレビを付けて、ついでに煙草にも火をつけてキャスターが滑舌良く話すのをぼうっと聞き流した。
     こういうことは前にもあった。朝起きたらミスタがいなくて、ほとんど半狂乱で探し回っていたら当の本人がビニール袋を引っ提げてケロッと帰ってきたのだ。起こすかメモくらい残せと詰め寄ったが、「疲れてると思って」「忘れてた」とかわゆく謝られたもんだから うっかり美味しい朝食を拵えてしまった。他にも小さい喧嘩をしてプチ家出を決め込んだりだとか、漫画だかゲームだかの発売日だったりだとか、マアしばしば あることだった。それでもこうして毎回律儀に驚いてしまうから、ヴォックスからすれば釈然としないこと ではあるのだが。
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    recommended works