ショコラの魔法で壊さないで!(未完成)「なに?チョコレートファクトリー直々の依頼で、ワンダーランズ×ショウタイムで新作チョコの宣伝ショーをするだと?」
それはとある、ワンダショの日々のショーのレッスン後のこと。
えむの兄である慶介、昌介がワンダーステージを訪ね、司たちに依頼された仕事を伝えに来たのだ。
司が瞳を輝かせながら問うと、慶介も口角を上げながら「あぁ、この前司くんは個人でチョコレートファクトリーでショーをしたのだろう?それがなかなかに評判だったらしくてな、フェニックスワンダーランド経由で依頼が来たんだ。」と、答える。
確かに、司は過去にチョコレートファクトリーでバイトとしてショーをし、羽陽曲折ありながらも居合わせた後輩の瑞希、彰人と共にショーを大成功させたことがある。
「あぁ、確か瑞希が話してた、東雲くんたちとの……」
「え、東雲くんってショーとかするキャラだったっけ…?」
「けどけどっ!すーっごいね!司くん!司くんのじつりょくで、おしごとゲットだね!!」
「はーはっは!そうであろうそうであろう!!…しかし、それならば何故俺だけではなくワンダーランズ×ショウタイムとしての仕事となったのだ?」
司が嬉しさを隠さずに舞い上がった声で問うと、慶介は困ったように笑い、代わりに呆れたように昌介が口を開く。
「お前らのショーを見たチョコレートファクトリーのお偉いさんが、お前らの顔を気に入ったんだとよ…」
「かお?」
「…実は宣伝ショー以外にも、キミたちには広告用のモデルを依頼したいというんだ。」
「も…モデルしかも広告って……」
寧々が困惑を露にすると、「あぁ、結構な規模で張り出されるやつだ。」と晶介が意地悪そうに笑う。
えむは目を誰よりもキラキラと光らせ、類は面白そうだね、と笑う。
「俺は一向に構わんぞ!!!世間にこの未来のスター、天馬司の名をあげる大チャンスなのだからな!!お前らはどうだ?大々的に顔出しするものなのだ、別に強制じゃないのだから…寧々、嫌だったら降りてもいいのだぞ?」
司が気遣うように声をかけると、寧々は明らかに不機嫌そうに
「は?別に…そこまで本気で嫌がってるわけじゃないし、そういう変な気遣いとかいらないから…」
「なぬ!?この俺がせっかく気を利かせてやったのにお前というものは!!」
「はいはい、ごめんね…まぁ、いちお、ありがと……」
「ふふ、寧々も素直じゃないねぇ。」
「う…うるさい!」
「…で?この仕事は受けんのか?受けねぇのか?」
「ふふん!勿論!その仕事、このワンダーランズ×ショウタイムが請け負おうではないか!!」
「ふふ、君ならそう言ってくれると思っていたよ…それじゃあ、俺たちはその旨をチョコレートファクトリーの上の方まで伝えてくるから、君たちは宣伝ショーの内容を考えておいてくれ。───あぁ、言い忘れたが、ショーを行うのはこの近くの新設されたショッピングモールの中央ステージだ。」
「わかりまし……って、えあ、あの超ひろいステージの……」
「ふぅん…それは随分、腕が鳴るねぇ……♪」
「寧々ちゃんっ!ハイパーわんだほ~い!な!ショーにしようね!!」
「…わかった、わかったから!そんなひっつかないでよねっ!!」
「では、よろしく頼むぞ。天馬くん、草薙くん、神代くん。」
「任せておけ!!」
「は、はい、楽しみにしていてください……!」
「はーいっ!あたしもがんばりまーすっ!みんなでいっしょにたっくさんのひとたちをわんだほ~いさせちゃお~ねっ!」
こうして、宣伝大使としての仕事を終えたワンダショの次のパーク外の仕事が、今始まろうとしていた…!
☆☆☆☆☆
「よし!準備は万端だ!どうだお前たち!この未来のスター、天馬司のショコラティエタキシード姿は!!」
「お〜!!!すっごいすっごい司くん!ハイパーキラキラわんだほいだよ〜!!!」
「…司、ショコラティエの意味間違えてない?ショコラティエはチョコ作る人、アンタの今の衣装はただのバレンタインカラーのタキシードでしょ?」
「寧々の言う通りだよ。司くん、これは英語が得意不得意以前の問題じゃないかな?」
「う……!」
今、ワンダショの面々はとある撮影スタジオにいた。
それはもちろん、彼らが今から行う今回のチョコレートファクトリーの初めの依頼、宣伝用のポスター撮影のためだ。
もちろん衣装も与えられ、類と司はバレンタインカラーのホストのような格好良さ全開のタキシード、えむと寧々はピンクを基調としたロリポップなドレスを纏っている。
「それにしても……やっぱこんなにもフリフリした可愛い衣装だとなんか恥ずかしいな……」
「そぉ?私は可愛くて可愛くて、すーっごくわんだほいな気分だよ〜!!それに、寧々ちゃん可愛くてすっごく似合ってるから!恥ずかしがらなくて大丈夫だよ〜!」
「うぇっ!?あ…ありがと……えむ…」
寧々がえむの大絶賛に顔を赤くしていると、「あぁ、2人ともよく似合っているぞ。」と司も微笑みながら声をかける。
その微笑ましい光景に類も口元を緩ませ、
「ワンダショのみなさーん!撮影の準備できましたので、スタンバイお願いしまーす!」
「わかりました。…それじゃあみんな、準備はいいかな?」
「「「もちろん(だ)!!!!」」」
3人の返事に満足そうに笑うと、類はカメラの前に立ち、他の3人もそれぞれの配置につく。
そして撮影は始まり、各々が自分のスタイルに合ったポーズで撮影を進められた。
「草薙さんもうちょっと笑って下さーい!」
「は、はい!わかりました…!」
「神代くんいいねぇ!すっごくイイよ!!」
「ふふ、ありがとうございます。」
「鳳さんいい感じです!あっ、けどちょっと動かないでください…!」
「わっ、わかりましたー!…うぅ〜!じーっとしてるのって、なんか落ち着かないよ〜!!」
そうして順調に撮影は進んでいる…と、思われていた。
「神代さん「草薙さん「鳳さん、休憩入りまーす!」」」
「ふぅ、やっぱ撮影とか…なんか慣れてないから疲れるな…」
「ショーで観客に見られるのとはまた違う雰囲気もあるからねぇ。」
「うんうん!だけど私達ならだいじょーぶだった…って、あれ?司くんは?」
「『このチョコレートを…ボクの想いを、ボクの愛を…受け取ってほし…っ、』ぅ……」
「…うーん、天馬くん、調子悪い感じかな?」
「…すみません、なんか、思ったようにうまく言えなくて……」
「司くーん!どうしたの?」
「うぉっ!えっ、えむ!お前たちも…!」
「今の、CM用の司くんのセリフパートだよね?どうしたんだい?…うまく声が、出せなかったようだけど……」
類が心配そうな声色で司に問うと、司は眉をハの字に曲げて
「あぁ……何故か上手く、セリフが口にできなくてな…、目の前にいない相手に愛を述べる時、どういう雰囲気で言ったら良いのかわからなくて…」
「えぇ…司、文化祭のロミオの時はあんなこっ恥ずかしいセリフも普通に言えてたじゃん。あんな感じで…あ、いや……も、もっと雰囲気ある感じにしたら、それで大丈夫なのに。」
「いやしかしだなぁ……あの時は周りに俺を見に来たという人が沢山いたし、目の前に愛を伝える相手であるジュリエットもいたからな。なんというかこう……今とは違うんだ……。」
「……なるほどね。確かにそういうことであれば司くんの言い分もわかるよ。」
「うむ、そうだろう?だがやはり、どうにもなぁ……」
司は困ったような表情を浮かべると、「あ〜!やっぱりダメだ!!どうしてもうまく言えない!!」と頭をガシガシと掻く。
そんな司の様子を見かねて、類は「…そうだね」と言うと、司の手をギュッと握って
「司くん、ボクと一緒に練習しないかい?」
「…類と…一緒に……?」
「うん。司くんが今から言う言葉、それは紛れもなく君の言葉だ。だから、それをそのままボクに伝えればいいんだよ。」
「……!そっか!!それなら……」
「……ねぇ、類……何するつもり?」
「フフフ……僕に任せてくれたまえ。」
2人は少し離れた場所まで行くと、向かい合うようにして立った。そして類は目を閉じ、スゥっと息を吸うと
「司くん、ボクはキミのことが好きだ。ボクの想い、ボクの愛…受け取ってくれるかな?」
そう言ってニコッと笑みを見せると、演技のお手本のセリフだとわかっていても、司の顔がみるみると赤く染まっていく。
しかし司はその羞恥に耐えながら、火照った頬のままクロマキーの敷かれたスタジオで、カメラを四方八方から向けられながら、それを口にした。
「……『このチョコレートを、ボクの想いを、ボクの愛を……受け取ってほしい』」
その言葉を耳にすると、類もまた司と同じように顔を赤く染め上げて、口角を緩める。そしてゆっくりと目を開くと、2人してお互い見つめ合って……
「カットー!オッケーです天馬さん!天馬さんも休憩入りまーす!」
監督の声がかかると、司も類もハッと我に返って、類は苦笑いを、司は更に顔を紅潮させる。
「いやー!よかったですよ天馬さん!名演技でしたね!」
「ま…まぁな!俺は未来のスターなのだから、このくらい当然……!」
「…類、こんな人目ある場所で見せつけるみたいにイチャイチャすんの…やめてよね…?」
寧々がため息をつきながら言うと、類は視線の先は司のままに答える。
「いやぁ?僕はただ司くんの練習につき合っただけだよ。……それに、これは誰かに見せつけるためではなく、僕の気持ちを素直に伝えただけだし。」
「……っ!お、お前なぁ!!」
司はさらに顔を赤らめ、わなわなと震えだす。しかしそんな司の様子を気にも留めず、類はニコニコと笑っている。
そんな風にわちゃわちゃと雑談を続けだしたワンダショの面々に、一人のスタッフが近づく。
「皆さんお疲れさまです。こちら当社で作った新作ショコラのサンプルなのですが…よかったら皆さんに試食していただき、ご感想聞かせていただけませんか?」
そう言って差し出されたのは小さな箱に入った数粒ほどのチョコレートだった。
「わぁー!甘そ〜でおいしそー!」
「ほぉ、随分とお洒落なデザインだな!どれ……」
司が一粒手に取り口に含むと、カカオの香りと共に、ほろ苦さと甘味が広がる。
「ふむ……ほろ苦い味だな……。しかし後からほんのりとした甘さが来て……なんだか不思議な感じだが……うまいぞ!」
「ありがとうございます!こちらは当社で新開発した新作ココアバターを使用したビターチョコでして……」
スタッフさんがイキイキと商品の説明を語り始めた時、最後にショコラを口に放り込んだ類が首を曲げた。
「ビターチョコ…?の割にはこれ、随分と甘すぎないかい?ミルクチョコなんて比べ物にならないほど甘さが強いのだけれど…」
「なに?俺たちのはちゃんとほろ苦いビターチョコだったぞ?」
「うんうん!にがにが〜だけどほわわぁ〜!なの!」
「…!すみません、もしかしたら神代さんのものだけお出しするチョコを間違えてしまったのかもしれません!只今もう一箱サンプルのもの取りに行きますのでしばしお待ち下さい!」
「あぁ、別にそこまで食べたいわけでもないから大丈…て、もう行ってしまったようだね…」
「類、あんたが変なこと言うから……。」
「うーん…けど、どうして類くんのだけあまいのだったのかな?それも新作のやつ?だったのかな?」
「うむ……まぁスタッフさんが間違えてしまったものはしょうがない。それより、俺たちはそろそろ撮影を再開しようではないか!カメラマンさんたちの準備はもうできているようだからな!あのスタッフさんが出してくれた新作は、また後ほど頂こう!」
そうして、司たちは再びスタジオ内に戻っていった。
☆☆☆☆☆
「それでは、草薙さん、鳳さんのセリフ…撮りまーす!3、2、1……」
それから数時間後。えむと寧々の撮影が始まった。
司たちが先に撮ったものと少し異なったシチュエーションを、今度はえむと寧々がそれぞれ演じる。
「『ねぇねぇ!…あたしといっしょに、チョコたべよっ♪』」
「『……わ、私のチョコ…ちゃんと受け取ってよね!』」
「…っよし!カーット!いいねいいね草薙さん鳳さん!サイッコーに良かったよ!」
「わ〜いっ!ありがとうございまーすっ♪」
「あ、ありがとうございます…」
「…なんというか、いつものアイツららしかったな。」
「まぁ脚本制作にはえむくんのお兄さんたちも参加したみたいだからね。自然と本人たちに似せていったんじゃないかな?──ヒック」
そのとき、“ソレ”は突然起きた。
「む?どうした類、しゃっくりか?」
「ん…いや、しゃっくりとはまた何か違う…変な引っ掛かりが…───き」
「…ん?最後、何と言ったか?」
「え?いや、特に何も───大好き。」
「は!?」
「えっ!?」
いきなり類が当たり前のように放った愛の言葉に、司は顔を真っ赤に染め、何故か類も驚きながら自身の口を手で抑える。
「なっ…!いきなり何を言うんだお前は!?さっきの練習ならともかく…!」
「いや、ち…違うんだ司くん…!大好き…!ちが、ヒック…大好き……!」
類は口を抑えながら何度もその言葉を口にし、その度にふたりの顔が赤くなる。
周りのスタッフたちが何をしているのだろう思いながらその光景を眺めている時、寧々がお前らは何をやっているんだと言うような目でふたりの元へ近づく。
「ちょっと類、司…あんたたちこんなとこで何やってるわけ?いちゃつくなら他所でやってよね……」
「ちがっ、寧々…!大好き…」
「「は!?」」
寧々と司の意味がわからないと叫ぶその声に、類は自身の口にした言葉を理解し、顔を真っ赤で真っ青にしながら口を抑える手を強くする。
「ちょっと類なに!?意味わかんないからやめてって!」
「おい類!お前が愛しているのは俺ではなかったのか!?何故俺の目の前で寧々に…!」
「あれれ?みんなどうしたの〜?」
「あっ、えむくん…!大好き…!」
「ほぇ?」
「「はぁ!?!?」」
誰もが意味が分からないというその状況で、何故か一番混乱していたのは等の爆弾発言をぶち込みまくった類だった。
「ちがっ…ヒック……ぃあ、や、大好き…!大好きッ……!」
その、苦しそうに甘い言葉を吐く類の口からは…先程食べた、甘いショコラの香りがした。
「すみません!この度は本社のせいで神代さん及びワンダーランズ×ショウタイムのみなさんに多大なご迷惑をお掛けしてしまい…!」
「いえ…あれは事故なんですよね…?ならしょうがないですよ。それよりも類は…」
「…現在治療法を探していますので、もう暫しお待ちください……」
「…わかりました。」
寧々と司は、自分たちに頭を下げるチョコレートファクトリースタッフの言葉に険しい表情を浮かべる。
昌介たちに連絡を入れに行っていたえむが戻ってきた時、やっと類と会えるようになった。
医務室から医師に向けて一礼して出てきた類は、少し厚めの黒いマスクを付けていた。
「類ッ!大丈夫なのか!?」
「…うん、さっきボクが作ったこの特殊なマスクは付けていると────や、────といった言葉が周りに聞こえなくなるようにしたんだ。…ほんとに、不思議なこともあるものだねぇ。」
類が放ち、皆に聞こえなかった単語は恐らく『大好き』や『愛してる』などだろう。
ワンダショの面々はそれを察し表情を暗くして、
類はその整った顔を苦笑いで歪め、その場に気まずい空気が流れる。
類の身に起こったモノは、あまりにも非現実的なものだった。
先程、スタッフさんに頂いたショコラにひとつに、まだ試作段階にも至らない、ただ新種のカカオをショコラの形にしただけのものが紛れ込んでしまっていたらしい。
それは辺境の地で偶然にも見つけたもので、人体にどんな危険を及ぼすか分からないため本社で管理させていたらしいのだが、スタッフの誰かが見た目が似てしまっていたため試作のショコラと勘違いしてしまい、不運にも類にサンプルとして渡されてしまい、そのショコラを食べるとどういうわけか、しゃっくりをするように自然に愛の言葉を述べてしまう……というのが、今回のあらすじだ。
「───不運だったな、類。」
「いや、あそこでボクがこのショコラを食べていなければ、この症状はみんなに現れてしまっていただろう?そう考えれば、当たったのがボクでまだよかったよ。」
「は?…いいわけないでしょ、類、もっと自分を大事にしてよね。」
「寧々の言う通りだ!お前に辛い思いをさせてしまって、いいわけが無いだろう!」
「……そうだね、ごめんね…──ありがとう。」
類の言葉に司は釣り上げていた眉を少し緩め、えむたちも安堵に息をつく。
「…それにしても、本当に不思議なものだな…その、【すき】などと口にしてしまう症状など…」
「うん、それについてはボクも本当に興味深く思っているんだよ!一体どんな仕組みで人体に影響を及ぼしているのか…ふふふ、想像力が膨らむねぇ!」
「あ!いつもの類くんだ!」
類がマスクで口元は見えないが早口で笑いながら言うと、えむはその見慣れた類の表情に目をキラキラさせる。
「全く、流石に症状出てる間は大人しくしなよね。」
「ふふ…それは約束できないなぁ。……それより、撮影会が無事…とは言えないけど終わったのだから、ボクたちは次のことに取り掛からないかい?」
「ほぇ?次のこと…って?」
「…まさかお前、ショッピングモールステージでのショーのことを言っているのか?」
「もちろん、そのまさかさ。」
「え、ちょっと、それ大丈夫なの…?だって類、まだその症状出てて…」
「寧々の言う通りだ。いくらお前でも、そんな状態でステージに立つことは座長であるこの俺が許さんぞ!」
「あぁ、その点は大丈夫だよ司くん。先程医務室で話した研究者さんが、一週間もすれば治せるかもしれないと言ってくれてね。だから恐らく二週間後のショーまでには間に合わせられるとの事だから、ショーの練習はいつも通りに続けて大丈夫そうだよ。」
「一週間!よかったぁ〜!ずーっと類くんが黒いマスクだったら、なんか気分がしょぼしょぼ〜ってしちゃうしね!」
「むぅ…それならいい、のか……?まぁ!兎に角絶対に無理をしないようにな!!!」
「ふふ、わかったよ。」