山の奥に鈴の音が響く。座敷わらしのお通りだ。
「ねぇ!玲司くん聞いた??」
「何の話?」
「最近近くの山に来たらしいかわい子ちゃんの話だよ!」
座敷わらしのルカのお目当ては雨続きで引きこもっている玲司と遊ぶことであった。可愛い女の子には目のない玲司だがこの雨天ではまだ情報が伝わっていなかったとみえてルカの言葉に驚いた表情を見せた。
「マジで?この辺にいるの?」
「マジマジ大マジ!俺も会ったけど線が細くて儚げな美人さんだったよ〜!」
「まぁお前は一生会えないだろうけどな」
にやっと笑ってそう付け加えたのはルカの友人の岳だった。高齢化が進む地域の方が死神の仕事があるんだと言いながらこの辺りに住み着いているのである。
「はぁ?なんでだよ」
「その子雨女だからね」
「男のな」
二人の言葉に玲司は手を振った。
「ちょっと待ってくれ、今ルカなんつった?」
「え?雨女なんだよって」
「オーケイ、岳お前は?」
「男だって言ったぞ」
なんでだよ!!という玲司の絶叫が山中にひびき渡った。雨女なんだか男なんだからハッキリしろよ…とぼやく玲司にでもでもとルカが続ける。
「女の子みたいにキレーな子だよ?玲司くんの好みな気がするけどなあ。まぁ俺のほうが可愛いけどね!」
「だから今年の梅雨は長いんだろうな。そろそろ玲司の出番だぞ?祠に供え物増えてたし」
確かに今年の梅雨は雨量も多く少し長引いていた気もする。いつも梅雨が終わりかけるとなんとなくやる気が出てくるものなのだが今年は腰が重かったのもその雨女のせいらしい。岳に言われてふらりと家を出て祠を覗けば例年より豪華なお供え物が並んでいた。
「日和坊全力待機って感じだね!玲司くん頑張って!」
「頑張って!」
「岳に関しては心がミリもこもってないだろうが。はいはい季節に関係する妖怪だからそろそろ頑張りますか。雨女に張り合わないとな」
その日、村には約1ヶ月振りに晴れ間が覗いた。村人らは大いに称えてまた日和坊の祠に供え物を持ち込んだのであった。
数週間後
「くそー、またダメだったな」
「またチャレンジしてたのか?」
「昨日雨が降ってたし行けるかと思ったんだけど」
玲司は件の雨女に接触すべく様々な方法を試みていた。だが晴れを司る妖怪である玲司が出掛けると太陽の光がさんさんと降り注ぎ雨女は姿を隠してしまう。昨日は雨が降っていたからその隙にとこっそり出掛けたのだが、長梅雨の影響で供え物が多かった玲司の妖力が勝ってしまい空はすぐに晴れ渡りお目にはかかれなかったのである。
「この前も会ったけど玲司くんの話したら会う気にならないってさ」
「なんでだよ!いいだろ1回くらい」
「邪な気持ちがバレてるんじゃないのか?」
今日も今日とて遊びに来ていたルカと岳にからかわれ玲司は溜息をついた。ルカは雨女ともう友人になったと豪語しているし実際によく遊びに出かけているようだ。岳もそれに付き添ってもう何度も会っているという。季節は夏の盛りを迎えようとし昨日の雨も3日ぶりだった。今後さらに会えるチャンスは減ることだろう。それならば。
「おい、ルカ。お前雨女によく会いに行ってるんだよな?」
「うん!明日も遊びに行くよ!」
「お使い、頼まれてくれるか?」
手紙でアプローチしてみようと思い立ったのだ。思い浮かんだ詞をさらりと書き付け葉を添えてまるめて封をしてルカに手渡す。さて伝わるだろうか。
「よろしくな」
ピンクの配達員はいそいそと手紙をしまい込んで、任された!と満面の笑みを浮かべたのだった。
「あっゆーむくん!」
「ルカ、また来てくれたのか」
翌日ルカは玲司からの手紙を携えて歩のもとを訪れていた。山の中の水辺にほど近いゆったりとした場所が彼の住まいだった。見た目も涼し気な歩のもとにいると体感温度が下がる。日和坊の力でどんどん夏へ向けて暑さが増していく中、ルカにとってここは涼しい上に友達もいるとっておきの避暑地になったのだ。