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    どっかであげたけどお気にいりなのでぽいぴく開設記念に再掲、れあゆ

    ##原石

    「あっ雪だ!」
    はしゃぐルカの声でしんしんと降る雪に気づく。今にも飛び出して行こうとするルカに苦笑しながら防寒具を装備させる岳を見て翔が微笑んだ。
    「僕は雪は慣れっこだから」
    「ご家族が雪国なんだっけか」
    そうそうと頷いた翔は雪合戦を始めた岳とルカを窓越しに微笑ましく見つめていた。
    そんなメンバーの様子を見ながら玲司の脳裏にはある冬の日の思い出がかすめていた。

    VAZZYのメンツに絡まれ結局12人総出での雪合戦大会を終え寒さに震えながら歩は部屋に戻った。かじかむ手をストーブの前で擦り合わせていると玲司がやってきた。
    「歩、大丈夫か?」
    「問題ない、それより何の用だ」
    「いや、ちょっと昔話でもしようかと」
    そう言って笑う玲司の言葉に歩も心当たりがあった。あの日も今日のように昼前から雪が降っていた。
    あれは何年前のことだっただろうか。幼い歩はまだまだ体が弱く外に出ることは稀だった。そんなある日雪が降ったのだ。幼い子供にとってふわふわとして真っ白の雪はひどく魅力的だった。もちろん親には止められたけれど珍しくゴネる歩に折れ少しだけ、と雪遊びをさせてくれた。公園の広場にはしっかりと積もっていてたくさんの子供達がはしゃいでいた。その輪に入ることはせず歩はひとりせっせと雪だるまを作っていた。夢中で丸め固め積む。単純な作業なのに幼い彼にはとても楽しく精密な作業に思えた。没頭し過ぎたせいかいつのまにか手袋はぐっしょりと濡れていた。3つの雪だるまが並ぶ頃には歩の手も芯から冷えきってしまっていた。感覚が麻痺しかけた手をこすって必死に温めていると突然影がさした。
    「めっちゃ綺麗な雪だるまだな!」
    驚いて声の方を見れば緑髪の派手な少年がニッカリと笑いかけていた。褒めてもらえるなんて思っていなくてとりあえずどもりながらお礼を言う。すごいすごいと笑っていた少年がふと歩の真っ赤な手に目を留めた。おもむろにポケットに手を突っ込みまさぐる。お目当てのものは見つからなかったようで少し考え込んだあと少年は手袋を取るとその場にしゃがみこみ両手で歩の手を包み込んだ。動き回っていたらしい少年の手は暖かく冷え切っていた手がじんわりと温まっていくのを感じる。少年はハア、と息を吐きかけながらそっと歩の手を握っていた。どれくらいそうしていただろう、きっと数分も経っていないだろうけれど歩にはずっと2人でいた気がした。少年が優しく手を離すと同時に歩の母親が探しに来てこんなに冷えて、と叱られてしまう。でもあの子が温めてくれたんだ、と主張しようと振り返るともう彼はいなかった。
    あの日の少年は歩のヒーローだった。帰ったあと珍しく体調を崩すことはなかったし彼の手は魔法のように暖かかった。名前も知らない少年は歩の中でずっと密かな憧れであり続けた。
    そんな彼に再開したのは仕事を始めてからだった。最初は髪色で。まさかと目で追ううちに確信を持った。人への接し方、優しさはあの少年のものと同じだったから。覚えていないであろう彼にその話をするつもりなんて毛頭なかった。仕事の彼はやっぱり憧れでだからこそ親しめはしなかった。芸能人としての彼にどうしてもあの日の優しい少年を重ねてしまう自分が嫌でわざとそっけない態度をとった。案の定嫌われてる、と思われてしまったけれど。
    同い年で同様にモデルをやっていればそこそこ現場も被る。ある日のグラビアは冬物特集だった。用意された服に袖を通しカメラの前へ向かう。たくさん並んだ小道具の中から好きなものを選んでいいと言われた時思わず手に取ったのは雪だるまだった。可愛いね、なんてカメラマンに茶化され一度は置こうとしたものの服のイメージに合うと言われ撮影に使うことになった。そっと地面に雪だるまを置き手を添える。あの日のように冷たくないけれど懐かしい感覚だった。写真チェックの間そのままぼんやりと雪だるまに手を触れていると。
    「…手、冷たくねぇ?」
    突然声をかけられた。声の方を振り向いた歩は戸惑った。あの日と同じアングルで。天羽玲司がこちらを見つめていた。咄嗟に気の利いたセリフなんて出てこなくて。
    「…少しだけ」
    おもちゃなのは2人ともわかっている。それでも。
    そっとしゃがみこんだ玲司が歩の手を包む。今思うとおかしなことだ。お互いにいい印象なんてない癖に。それでもあの瞬間はあの行動が必然だった。あの瞬間はカメラマンに切り取られ雑誌に載ったしそれから紆余曲折を経て恋人同士にもなった。
    「なぁ、歩」
    玲司がこちらを見つめる。ストーブの前から立ち上がって玲司の前に立つ。
    「…まだ、温まっていないから」
    それを聞いた玲司はくしゃりと笑って歩の手を包み込んだ。
    ほら、いつだって。玲司の手は歩の手を暖めてくれる。そして今は。
    暖かな幸福感が歩の胸を満たしていた。
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