【hrak】上耳が夜行バスに乗る──朝の空気って、もっと清々しいものだと思ってた。
薄い霧に包まれた知らない街の景色を眺めながら、上鳴電気は思った。
お気に入りのバンドのライブツアーの地方公演に参戦すべく、生まれて初めて夜行バスに乗った。新幹線だって飛行機だってある時代、わざわざ夜行バスを選んだ理由は、単に安価だから。それに、横で欠伸をする彼女──耳郎響香が、どうせなら観光もしたいと言い出したからだった。朝のうちに現地に到着できる夜行バスならば、夕方のライブ開始までゆっくり観光できる。
「俺、夜行バス初めてなんだけど」
「え、そうなんだ」
「耳郎は乗ったコトあんの?」
「ライブの遠征で、何度か。終わるの遅いやつとか、泊まらずに帰るにはもう夜行しかない、みたいな時もあるし」
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