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    かもめ

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    かもめ

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    過去作。フォロワーさんのイラストからインスピをいただきました。20201011

    #上耳
    upperEar
    ##ヒロアカ

    【hrak】上耳とラブレター 高校二年の夏、生まれて初めてのラブレターを貰った。差出人は、普通科の三年の先輩。付き合ってください、みたいなことは書いていなかったけれど、貰う現場に居合わせた芦戸からは、「ラブレターじゃん!」と囃し立てられた。だから、メッセージアプリのIDが書かれた小さな紙でも、「ラブレター」なのだ。たぶん。
     芦戸のことだから翌日にはクラス中に噂が広まるだろうと思っていたのに、意外なことに、その日の夜の寮の談話室でも、翌朝も、学校に行っても、誰からもその話を振られることはなかった。ああ見えて案外気が利く子だから、あまり言いふらされてはいないのかも。それかもしかして、みんなとっくに知っていて、何も言わずに経過を楽しもうということになったのかも。午前中は疑心暗鬼になって周りを警戒していたが、午後にはその緊張も解けていつも通りに過ごした。ただ、まだあの手紙に書いてあるIDに何も連絡できていないことだけが、胸の奥に引っかかっていた。

    「じゃあ、授業はここまで。最後の問題が時間内にできなかった奴、休み時間か放課後に終わらせて職員室に持ってこい」
     黙って机に向かっているとあの手紙のことを考えてしまって、その日は珍しく居残りの対象になった。相澤先生の言葉にため息を吐くと、ほぼ同時に、隣の席からも大きなため息がひとつ。
    「耳郎も居残り? 珍しくね?」
    「……ぜっったいアンタより早く終わらす」
    「えー、酷くね? 一緒に残ろうぜー」
     頭がショートしかけた顔で、上鳴がだらしなく縋ってくる。その様子の可笑しさに免じて、解けなかった問題は机を並べて一緒に取り組むことにした。

     ふたりだけになった放課後の教室は、空調が効きすぎて少し寒かった。先にウチが、十数分遅れて上鳴が問題を解き終わって、並んで職員室に提出しに行く。先生からOKを貰って、人が少ない校舎の中を昇降口まで歩いた。放課後の部活動に取り組む声や物音が、時々ウチの耳に届いた。
    「もし普通科だったらさあ、耳郎は軽音部だよな」
     どこからともなく聞こえてくるドラムの音に反応するように、上鳴が言う。
    「そうだね、アンタは?」
    「うーん、俺は、モテるやつ! やっぱサッカーがテッパンかなぁ」
    「ふうん」
     生返事で返したものの、「普通科」という言葉がチクリとウチの胸を刺す。
    ──連絡、した方がいいよね、やっぱ。
     胸の奥のモヤモヤを打ち消すようにわざと早く歩いて、下駄箱から取り出した外靴を投げるように土間のタイルの上に落とした。「耳郎、待ってよ」という上鳴の声を背中に、スニーカーの爪先をとんとんとタイルに打ち付けて靴を履く。居残りしたはずなのに昇降口の扉の向こうにはまだぎらぎらの日差しが照り付けているのが見えて、夏って昼間が長いんだな、と場違いな感想を抱いた。
    「耳郎さあ」
     ようやく追いついてきた上鳴が、どたばたと靴を履き替えながら言い縋る。なんとなく聞きたくない話のような気がして、ウチは上鳴に背中を向けたまま、「なに」と応えた。
    「今日ずっと訊こうと思ってたんだけど、耳郎さ、コクハクされたって、ホント?」
    ──ああやっぱり。
     コイツはいつも、言いたいことを取っておいて、最後の最後に言うんだ。
    「誰に聞いたの? 芦戸?」
    「あー、うん。でも言いふらしてたとかじゃなくて、俺にこっそり、ってカンジで教えてくれて」
     上鳴は慌てて弁護するように言った。
     なんで芦戸が上鳴だけに教えたのかなんて、考えたくない。物腰が優しくて顔も悪くなくて、聞くところによると成績も優秀で人望も厚いというあの先輩に、連絡を取るのを自分が渋っている、その理由も。
    「告白は、されてない。連絡先もらっただけ」
     寮に着いてしまえば、ふたりきりでなくなってしまえば、この話題を持ち出されることもなくなるだろうと思って、ウチは足早に昇降口の扉をくぐる。建物から出ると直射日光が眩しくて、全身に浴びた日差しに怯んで一瞬歩調が緩んだ。
    「なあって!」
     その隙に、上鳴は慌てて追いついて来たらしい。右腕を強く掴まれて、ぐいっと引っ張られる。転倒しそうになって慌ててバランスを取ると、自分で掴んできたくせに、掴まれたウチよりもびっくりしたような上鳴と目が合った。
    ──男子の手って、こんなに大きいんだ。
     咄嗟にそう思った。
     クラスの他の男子に比べたら身長もなくてひょろっちいくせに、ウチの腕を掴む手のひらは、大きくて熱くて、汗ばんでいた。心臓がどきんと跳ねて、昨日の同じくらいの時間に「ラブレター」をくれた先輩のことが頭を掠める。
    ──もしも、あの人にこんな風に掴まれたら。
     時間が止まったような沈黙の中で、頭の片隅の冷静な自分が囁いた。
    ──ウチは、今みたいにドキドキするだろうか。
     その答えを出すと上鳴がただの男友達ではなくなってしまう気がして、ウチは何も言えずに、上鳴の手のひらの熱を感じていた。

    fin.
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